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最終更新日:2017年8月22日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その127 眼の動きを捉える
交通リスクコンサルタント 小林 實

眼球運動とは

 人は自分の周囲から万遍なく情報を得ているのではなく、特に重要な情報が含まれている個所を集中的に注視することで情報を得ています。当然のことですが、眼で物を捉えるためには目を動かす必要があります。こうした視線の移動を「跳躍運動」といい、英語では「サッケード」、もしくは「サカディックな動き」と表現されます。
眼球運動というのは、見ようとする対象を視界の中心部分で捉えようとする動きといえるでしょう。対象の情報量のより多い部分(たとえば案内標識の文字)を、視力が優れている網膜の中心で捉えるため、眼の跳躍運動によって凝視するわけです。運転には瞬時に情報を切り出す作業が不可欠ですが、眼が対象を判別するため一点に注視する時間は、対象の重要性や複雑性によって違うものの、最大で0.45秒程度、最小で0.13秒程度であり、きわめて短時間で視線は移動しています。

視覚刺激を重視する競輪選手

 ずいぶん前のことですが、あるとき、自転車の団体から競輪選手の眼の動きを調べられないか―という依頼がありました。眼の動きを測定する装置としてアイマークレコーダ、通称「アイカメラ」というものがあり、今では野球帽にも装着できるほど軽量小型化されていますが、筆者がかつてこれを使用した1970年代には、カメラ自体が大きいうえに、銀塩フィルムを詰めて計測記録していましたので、非常に重いものでした。
競輪ファンでしたらよくご存じでしょうが、競輪選手は、空気抵抗が大きくなる先頭に立つことを嫌がります。そのため、先頭車の後ろにぴたりとついていくことでレースが進みます。そして、最後の周回路に入る際に鐘の合図(ジャン)が鳴りますが、これに合わせて選手はそれっとばかりに加速して前に出るわけです。
そこで、競輪場のコースにおいて、後続のトップにいる選手が集中的にどこを見ているのか―を計測し、鐘の鳴るタイミングと比較してみました。すると、後続トップの選手の眼は先頭をいく選手のペダル部分を凝視しており、ペダルの急速な回転を合図として自らもスピードを上げていました。つまり、アイカメラを使うことで、鐘の音の刺激よりも視覚刺激に重点を置いて走行していたことがわかったのです。


eyecamera.JPG
こうした眼の動きを捉えるアイカメラは、前の東京オリンピック当時、ハイスピードカメラの需要が急増したことに伴って急速に開発が進んだのですが、この分野の研究開発を行っていたナック社に依存するところが大きかったといえましょう。このときたまたま、創設間もない航空自衛隊から、ヘリコプターのパイロット養成のため、熟練者と初心者との視線の違いを調べて教育効果を上げたい―という要望があり、それがアイカメラの開発につながったといわれています。
その後、アイカメラは自動車運転の研究分野でも活用されるようになり、東名高速道路の設計段階で、景観が運転に及ぼす影響を調べたり、快適な視線誘導の方法やトンネル開口部のデザインを決めたりする際にも、結構これが活躍しました。

安全運転教育への活用

 ところで、運転中の眼の動きは見る対象によって異なりますが、平均的な注視時間は、標識を見た場合で0.41秒、速度計の判読ではやや長く0.74秒、追越しをするときに相手車両を見た場合で0.40秒程度で、チラッチラッと何かを見るような場合には0.2秒程度とかなり短いことがわかっています。
自動車教習のとき、教官は「しっかり前を見て運転するのですよ!」と口をすっぱくして言いますが、何をどのくらい見ればいいのか戸惑う生徒もいることでしょう。一般に初心者は、運転の怖さから、どうしても自分の直近の危険、例えば前を走る車の動きや、横断する歩行者などに注意が集中します。また、初心者は、危険を招くと思われる情報よりも、疑わしくはっきりしない対象に注意がいきやすいとも言われています。
一方、欧米の運転者教育では、ごく初期の段階で、適切な目の配り方や、見える対象の捉え方を具体的に教えていますが、これは初心者の安心感につながるものでしょう。またイギリスでは、教習中に教官がルームミラーを隠し、今うしろの状況がどうなっているか、後続車が近づいているかいないか―などをたずねたりしますが、これは、運転の初期に周囲の情報を的確に把握する癖をつけさせるために有効かと思われます。
最近、高齢者の重大事故が立て続けに報じられていますが、加齢とともに眼球の移動速度は落ちます。視界の周辺部分を視認する際も、実際に視線をそちらに動かしていないのに、周辺視で見たことにしてしまう―といった横着をする傾向があることも指摘されています。こうしたことを解明し、客観的な事実としてドライバーを指導・教育するためにも、アイカメラの活用が期待されるところです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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