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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その126 プロアクティブな安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

プロアクティブとは?

 「安全」の反対が「不安全」、「日常」の反対が「非日常」という具合に頭に否定の接頭辞をつけることがあります。英語でも、アクション(action)に対しリアクション(reaction)とか、セーフ(safe)に対しアンセーフ(unsafe)というように接頭辞で区別しています。アクションとは、ある行動に出ることであり、積極的な意味があります。これに対し、リアクションとは、何かが起きたらそれに対して反応する、こたえるという消極的な意味が強い言葉だといえます。
 最近よくマネジメント用語として使われているものに、プロアクティブ(proactive)という言葉がありますが、これは、事前に対策を講じる、前もって何か行動を起こす、先手を打つという意味の言葉です。これに対するリアクティブ(reactive)という言葉は、リアクション同様に消極性が強いといえます。
 ところで、これからの安全管理にとっては、いわゆるリアクティブな反応型の体質から、より積極的なプロアクティブな体質への転換が重要ではないかと思います。よくいう守りから攻めへの企業の体質改善であり、積極的に問題発見に努めて対策を講じるというスタンスです。
 管理者にとって期待されるプロアクティブな行動というのは、自らイニシアティブ(物事を率先してすること)をとって行動を起こし、他人の行動であるとか状況を変える―といった積極的な行動です。もちろん、このための動機づけの前提となる仕事における自律性であるとか、同僚・上司とのコミュニケーション、前向きな先取り姿勢などがその背景として必要となります。仕事を通して得られる「やりがい」のなかに、安全意識というものをいかに組み込んでいけるか―が重要でしょう。
 こうした手法のなかで特に必要なのは、「現在の行動を変えることで、将来を変えていく力にする」「やりたいと思うような行動の選択肢を増やす」「今やったことを認めたうえで、イマイチだと思ったことを思い出させて、行動を変えていく」「個人の能力アップと同時に周囲からの支援の力で変えていく」ことなどであり、環境と個人の相互作用を重視した全員参加型のプログラムにより、企業全体の積極的なスタンスが生まれます。
 企業における安全管理にあたっては、従来からの即効性を狙った短期的なスタンスではなく、長期的な抑止効果を狙うこと、そのためには、運転モラルの改善といったような、背後にある問題を解決することが重要であり、それが安全な態度形成につながるはずです。

ドライバーとの信頼関係を築く

 プロアクティブな安全管理体制を築くには、ドライバーをはじめとする現場と、会社のトップをはじめ、安全管理者らとの信頼関係が必要です。これが達成され、現場が「ぬくもり」を感じた段階で初めて安全行動は達成可能となります。仮にドライバーのなかから不安全行動や危険な行動が出たとしても、お互いの関係がこの段階に達していれば、適切な指導による修正が可能となり、再発防止につなげることができます。
 また、トップには、仮に事故が発生した場合、事故現場へ自ら足を運ぶことが求められます。これにより現場での問題点を的確に把握することができ、ドライバーと同じ目線での事故原因の解明と再発防止対策が立てられるはずです。改善や開発のネタは現場にある―ということを重視し、現場の意見を傾聴することも大事でしょう。管理者はパソコンと格闘してばかりいても全体像は見られないのです。
 従来から運送の現場などでは、ともかく顧客の商品を効率よく運ぶことが第一であり、安全はそれについてくる副産物だ―という「安全第二」といったムードがなかったわけではありません。ですから、起きてしまった事故を致し方ない、不可抗力な出来事だととらえて、いわば事故というものを単一の事象として対症療法的な解決方策で済ませてしまう傾向もあったといえましょう。これは決してプロアクティブな積極的な管理とはいえません。その理由は、発生した事故の詳細な情報というものがドライバーのあいだで水平展開されず、結果として事故の実態が共有化されにくいからです。

ドライバー心理と事故

 運転労働というのは、ごく簡単な作業だと軽くとらえられる面があります。しかし、ちょっとした油断やミスといった心理状況により、他の車が急に割り込むといった非定常状態に移る場合があります。このため、瞬時に適切な処置をしない限り、まったく予測し得ない事態が発生することになるわけです。これを「認知・判断・処置のループの破断」と呼んでいます。
 プロのドライバーは常に平常心でハンドルを握っているはずですが、そのときの感情が、時として運転行動にも反映されかねません。車の前をのろのろと横切る高齢歩行者を見た場合、もしもそのドライバーが急いでいたとしたら「何をぐずぐずしているのだ、早くどいて!」といった感情が出ることもあるでしょう。こうした苛立ち感情がしばしば運転操作における安定性を失わせ、相手をあおる行動を招くこともあります。それは、よくいう「急」のつく動作であり、アクセルによる急発進、急ハンドルなどにつながります。もし歩行者が急に立ち止まったりすれば、直ちに重大事故につながります。
 こうした場合、相手の行為に反発せず、自分の感情を抑えていく強い意思と努力が必要になってくるわけで、単に事故を起こすな―というような消極的な声かけではなく、事故を回避できる積極的な運転態度をドライバーに醸成できるような教育が不可欠となるわけです。
 また、急ぎの心理は、時として、トラックなどの大型車が信号交差点で左折のため信号待ちをしている際に大きなリスクとなります。停止する前に並進していた自転車があることは認識していた、しかし停止している際にトラックの死角に入った自転車の存在を完全に忘れてしまい、青信号に変わったと同時に発進して左折を敢行、この自転車をひいてしまう―といった痛ましい事故は、ほんのわずかの余裕をもつことで回避できるはずです。

これからの管理に向けて

 時代は刻々と変化しています。多くの基幹産業と同様に輸送業でも人手不足、ことにドライバー不足は深刻となります。これに追い討ちをかけるようにドライバーの高齢化も進んできており、外国人労働者の参入も徐々に始まろうとしています。こうした事態を予測して先手を打つ管理体制を考えるべきでしょう。
 また、大型トラックやバスなどでは、ドライバーの作業負担を軽減して疲労防止を図るために、衝突防止装置をはじめとする運転支援システムが順次導入されてくるはずです。これらをいかに有効に活用し、ドライバーに正しく理解させて過剰な期待を抱かぬよう指導することも今後の安全管理上大きな課題でしょう。こうした面からも、さらなるプロアクティブな管理が必要とされるところです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
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タイヤ以外、何に触れても事故である
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現場の声を聞く
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運転の自動化とドライバー
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人類は変化を続けている
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眼の動きを捉える
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プロアクティブな安全管理
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次世代に向けた安全管理
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これからの交通社会は?
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レジリエンスと安全管理
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オアフ島と交通渋滞
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「安全神話」は崩壊したか?
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自動運転を考える
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再び問われるメンタルヘルス
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ハイタクと安全管理
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何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
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「ハザード」の捉え方
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第95回
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第94回
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第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
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ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
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第86回
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「運転技能」について
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金魚のフン
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5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
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第75回
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仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
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「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
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第63回
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
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第59回
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第58回
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