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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その125 次世代に向けた安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

十分な予算や熱意が不可欠

 毎日通う地下鉄駅の構内にある時計が、最近はどうも調子がよくないのか、この1ヶ月のうちに2回も止まってしまっています。わが国の優れた技術からするとありえないと思い、駅員さんに尋ねてみたところ、どうやら天候不順による長雨が原因のようです。つまり、この時計の電源は太陽光発電(ソーラー式)であり、日照不足によって十分な電力を確保できなくなった…というわけです。
 これまでの天候条件では十分に発電できていたのでしょうが、どうも最近の異常気象というか、天候不順には対応し切れていないようです。駅には「故障ではありません」と張り紙がしてありますが、動いていないので故障でしょうと言いたいところですが…。
 このことは、何か安全管理の問題にも似ている感じがします。つまり、エネルギーが十分に供給されないと、いくら立派な装置があってもうまく動かない。言い換えれば、会社のトップが十分な予算なり、熱意をつぎ込んでやらないと、現場は機能しない―ということではないでしょうか。

いかに持続性を上げるか

 ずいぶん前ですが「死者の減少は、交通環境が改善されたとの印象を与えるマジックのようなもの」という新聞記事を見ました(読売新聞04.1.17)。交通事故による死亡者さえ減ればよいとする風潮は、残念ながら今日も残っており、このことが、運送事業者の「何とか重大事故だけ起こさなければ…」という考え方を生み、企業ドライバーが本来果たすべき「安全運転の基本」を形骸化させているところもあります。企業にとって、好ましい安全管理というシステムを構築することが喫緊の課題だといえましょう。
 ところで、企業が次世代につなげていかに収益を上げていくことができるか、つまり、期待されるサステイナビリテイ(持続可能性)をいかに実現できるかが、今、大きな課題となっています。そのための大きな柱の一つは「限られた財源の利用」であり、その鍵は、無駄な支出をできるだけ抑えることにあります。運送事業者をはじめ、車を収益のツールとして利用している企業にとって、重大事故のみならず小さな事故の発生を抑えることはコスト削減に直に効いてくるわけで、安全管理のあり方を色々な角度から見直す時期がきているといってよいでしょう。

大事なトップのコミットメント

 ひとくちに安全管理といっても、それは運転者管理をはじめ、運行管理であるとか車両管理、情報管理など多岐にわたります。この管理体制のトップにいるのが事業者であるわけですが、その立ち位置が企業の安全管理全体を左右することは明らかです。すべて安全管理者に丸投げですと、「うちのトップは無関心のようだから適当にやっておけばよい…」というムードになるでしょうし、「事故だけは起こすなよ!」と掛け声ばかりでは、現場は冷ややかに受け止めるはずです。
 このため、「運輸安全マネジメント制度(1)」や「ISO39001(2)」などでは、企業のトップからのコミットメント(安全宣言)に重点を置いています。この安全宣言は、トップの安全へのやる気、その熱意というものを、社員全体が十分くみ取れるようなものでなければなりません。そうすれば、「会社はわれわれのことを真剣に考えてくれているのだ。ならば安全運転に努力しよう」という、望ましい行動への動機付けとなるわけです。
 心理学ではこれを「外発的な動機付け」といいます。従業員全員を本気にさせなければ事故は減りませんから、彼らを納得させることで初めて「やろう」とする意識や行動の変容が生まれるのだ―ということを、企業のトップは理解してほしいのです。
 ことに、若い従業員の考え方に十分配慮した安全宣言でなければなりません。なぜなら、今の若い世代はどちらかというと、マニュアル通りに作業をすればよいとする、いわばデジタル的な「形式知」こそ仕事なのだ―と捉える傾向があり、考える能力があまり磨かれなくなっているからです。
 このような「形式知」が主流となっている今、いわばアナログ的な「暗黙知」を活用することも重要です。退職したシニアや、ベテランの安全運転のノウハウを文書化してまとめ、これを次の世代へと継承することもその一案でしょう。
 例えば追突事故が多発したとき、単に「気をつけよう」とか「前をよく見て運転しよう」といった指導が行われがちですが、ドライバーからすれば「そんなこと分かっている…」と単に言葉として捉えるだけで、実効性が伴いません。だからこそ、「前車の動き」という情報の読み取りと、それに基づいて自分の行動を決定するまでの意識の働きが重要であることをドライバーに伝えるとともに、ドライバー自らがこれに気づく「内発的動機付け」が必要であるわけです。
1 運輸安全マネジメント制度=経営トップから現場まで一丸となり安全管理体制を構築・改善することにより輸送の安全性を向上させることを目的に導入された制度
2 ISO39001=交通事故の死者や重大な負傷者を減らすことを目的に、道路交通安全のためにさまざまな組織が取り組むべきマネジメントシステムの要求事項を定めたもの

「見える化」を図る

 トップの安全宣言を受けて、管理者レベルでの具体的な対策の構築が行われれば、結果として、現場のドライバーをはじめとする社員全員の安全への意識・関心は高まるはずです。仮に事故が起きたとしても、責任者の「もぐら叩き」ではなく、どうしたら同じような事故の再発が防止できるか―を皆で考えるような風土が醸成されます。
 さらには、「見える化」というか、風通しを良くする工夫も必要です。そのためには、社長以下幹部が、会社の隅々まで目を行き届かせる努力を続けることが重要です。現場には意外と気づきにくい死角部分があるはずで、違った視点からこれをあぶりだすことも可能でしょう。また、その企業での安全レベルをどう持続させ、進化させるかについては、例えば安全会議を実効性のあるように進め、かつ、それを持続する―といった安全活動をいかに定着させるかが鍵となります。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
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プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
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第123回
これからの交通社会は?
第122回
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レジリエンスと安全管理
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第115回
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交差点での安全運転
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第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
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ハイタクと安全管理
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なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
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異常気象と安全運転管理
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第98回
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第97回
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第96回
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第95回
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第93回
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カクテルパーティー効果
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第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
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