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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その121 レジリエンスと安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

レジリエンスとは?

 「レジリエンス」という用語は、最近よく新聞などでお目にかかる言葉で、簡単に言うと「強さ」というものを表しています。
安倍内閣の政策の目玉の一つになっているのが、強い国土を創生するという「列島強靭化論」です。これもレジリエンスの一つで、その趣旨は、いかにこの狭い国土を活性化し、自然災害などにも強い国土を作り出すか―というものです。東日本大震災でわが国は大きな打撃を受けましたが、この苦境から脱するのに国や地域をはじめ、被害に直接遭われた個人の方までが、被害にめげないで立ち上がるための高いレジリエンスが求められたわけです。当時の外国の新聞報道などでも、日本人はきわめて高いレジリエンスを持った国民だ―という表現がなされました。
こうした自然災害や、リーマンショックのような経済的な危機など、外部からの衝撃が時代とともに大きくなっていることは確かです。さらに、いわゆる社会基盤が脆弱になりつつあり、皆が協力して事態に対処しよう―といった機運も下がりつつあることを考えますと、心が折れない、めげない心、すなわち高いレジリエンスというものが組織なり個人にも求められている時代といえましょう。
レジリエンスという言葉は、英語の「resilience」のことで、辞書によると「はじき返す力」、「復元力」とあります。ストレスという言葉はご存じだと思いますが、今では人間の体にかかるストレス(負荷)を表す言葉として、ごく一般的に使われています。病気などの精神的な負荷に対し、落ち込んだ、あるいは抑うつ的な心理状態というものから速やかに回復する能力があることを指して「高いレジリエンスがある」といった使われ方をしています。

心の問題としてのレジリエンス

 心の問題としてレジリエンスが取り上げられたのは、臨床心理の分野です。かつて、フロイトが広めた精神療法である「精神分析法」は、それなりの有効さが立証されてはいますが、逆に患者さんの精神状態を追い込んでしまい、その結果として患者がますます不安から抜け出せなくなる…という悪循環が生じることもありました。そこで、認知心理学という分野が台頭したことにより、いわゆる「認知療法」という手法が脚光を浴びるようになりました。
これは、外的な出来事が感情や身体反応を直接引き起こすのではなく、そうした出来事をどのように認知するかによって感情や行動というものが変化する―という理論に従った療法であり、患者さんが、抑うつや不安に打ち勝つため、自分の認知を積極的に変えていこうとする手法です。これにより、患者さんの抵抗力というか一種の自己防衛能力が高くなり、レジリエンス、つまり強靭な精神力が育成され、治療の好結果が期待されるわけです。
1980年代の心理療法というのは、入院中心主義、つまり、患者さんを社会から隔離して治療するものが中心でしたが、現在では、患者さんの「ああしたい、こうしたい」という意欲というか、自主性を尊重することを主体とし、そのお手伝いをするのが医師の役目とされるようになっているそうです。すなわち、患者さんが主役で、医師は黒子というか脇役に回るという発想に転換したわけで、患者さんのレジリエンスを高めるための工夫が見られるようになりました。
また、作業療法士の例を見ても、かつては患者に対し、「これは駄目、あれは駄目」のないないづくしで患者を管理していたというのですが、これでは、患者の自分からやろうとする自主能力を駄目にしてしまうわけで、最近では、むしろ患者の良いところを積極的に見いだして、それを伸ばす工夫をすることが注目されてきています。
さらに、2000年代になりますと、精神医学の分野では、「極度の不利な状況に直面しても正常な平衡状態を維持できるための能力」というものが重視されるようになりました。これは、自然の大災害などに直面した場合の人間の心のあり方ですとか、PTSD(心的外傷後 ストレス障害)に対する耐性といったものが対象となります。つまり、不安に打ち勝つ強い心の育成というものが精神医学でも注目されるようになったわけです。レジリエンスを高めるということは、ある意味で自己啓発の問題であり、そのための「メンタルトレーニング」の手法がいろいろと開発されているところです。

レジリエンスを育てる管理手法

 メンタルトレーニングでは、レジリエンススキル、すなわち強靭な心を育てることを、人間の持つポジティブな機能の一つとしてとらえています。つまり、「積極的な思考を重視する」ことにより、人間の持つ「強み」に意識を向けさせるわけです。
そのためには、自分から何でも積極的に立ち向かおうとすること、すなわち、積極的に手を伸ばすような姿勢が求められます。具体的には「変化適応力」(変化に抵抗せず柔軟に適応できる能力)と「目標達成力」(失敗を恐れて行動回避をしたりせず、あきらめないでやり通す能力)が必要とされ、ネガティブな感情にめげず対応することを積み上げ、強靭な精神力を育てていくわけです。
では、具体的に強い組織であるとか、強い個人を育成していくにはどうすればよいのでしょうか? 例えば、会社のトップや管理者が朝礼で「われわれは強い人材を求めているのだ!」と檄を飛ばしたとしても、それはどうしても一方通行の指示に終わってしまい、聞き手は「ああ、またいつものお説教か…」と、耳で聞いたことが右から左へと流れてしまいます。
したがって、小集団活動やツールボックスミーティングといった、他のメンバーが介在するような場を活用することが必要です。こうした参加型の研修により、自分と他者の考え方の食い違いを発見し、これを修正しようとする意識ですとか、他人との間で感情をうまくコントロールする力が生まれてくれば、状況に一喜一憂しない強い態度ができてくるはずです。そうすると、例えば運転中に急な割り込みをされてもカッとならず、「きっとあのドライバーは何か気分の悪いことでもあったんだろう…」などと考え、受け流す態度も生まれてきて、組織の安全運転管理においても非常に役立つわけです。
単に「うちでも小集団活動はやっているよ」というのでなく、どうしたらこのような小集団活動が活性化できるのか、スパイラルアップして、より高いレジリエンスがメンバーのなかに形成されるのか―を、会社のトップは意識する必要がありましょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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