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最終更新日:2017年6月19日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その119 突然死のリスク
交通リスクコンサルタント 小林 實

運転中の突然死

 交通事故でドライバーが死亡した場合、その事故の原因は、現場の警察官によって何らかの「運転ミス」と判断されるケースがほとんどです。本人が亡くなっていますから真の原因の追究はできませんが、実際には心筋梗塞や、くも膜下出血などによる突然死だったというケースが増えてきています。しかし、交通事故死で司法解剖に回るケースは少なく、せいぜい全体の6%といわれますから、真の死因の実態はほとんどわからない―というのが現状です。警察庁の統計でも、こうした病気が原因の突然死による人身事故は年間200件あまりと、人身事故全体からしますときわめて少ない感じがしますが、これは上に述べたような理由があるからです。
 この2月に大阪市内で発生した奈良在住の51歳男性による暴走事故は、司法解剖の結果、大動脈解離による心疾患が原因だということです。こうした心疾患では、体が硬直してのぞけるような形となるケースが多く、このため、アクセルペダルに足が乗っているような場合にはアクセル全開の状態になりやすく、車は暴走してしまいます(なお、脳の疾患の場合には脱力してアクセルやブレーキが操作されず、体が傾くとその方向にハンドルが切れるケースが多い)。
 これは、前回書いたバス暴走の記事でも触れましたが、突然死のリスクというのは、朝から晩まで同じような姿勢で運転しているタクシーやバスのドライバーの場合にも十分に考えられます。実際、プロドライバーにはいろいろな形のストレスがかかりますので、虚血性心疾患といって、心臓につながる血管に大動脈瘤などのトラブルが発生するケースもあります。また、じっと長時間にわたり座っているだけでも、エコノミー症候群と同じように脚の血流が悪くなり、コレステロール値も高くなるといわれます。さらに、花粉症などによるアレルギーを抱えている場合は、集中力や判断力の低下を招きやすい―という運転には不向きな状況が生まれます。

体調異常時の緊急停止は難しい…

 体調に何か異変が生じたら車を止めればよいのだと、口で言うのは簡単です。また、安全運転管理者にしても、体調異常時には車を停止させるように―と朝礼などで呼びかけるでしょうが、実際、緊急時に車を止めることができたケースというのは、タクシーでも30%止まりだといわれています。体の異常を察知した直後の緊急停止というのは、体験していないだけに難しい課題です。
 こうした実情から、何らかの形で異常時の緊急停止動作を体験学習させることも有効でしょう。また、本人の常日頃の体調管理、管理者による70センチの距離での面接(近距離だと相手の顔色、体調などが読める)の励行も大切です。プロドライバーは、何か今日は心臓の具合が変だとか、めまいがするといったような予兆がある場合でも、体調不良をあまり訴えたがらないものですし、できれば管理者の側も無理をして乗車させないことです。
 ところで最近、先日暴走事故を起こした京王バスのバス停に、「車の運転者さんや地域の皆様へのお願い」と題して、通報の協力を呼びかける表示(下の写真)がありました。この種の体調異常による事故の防止策とまではいかないかもしれませんが、異常に対する市民の協力を求める姿勢は評価していいと思います。
 

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一つの対策としての自主返納

 運転中の突然死というのは、高齢ドライバーにとっても深く関連のある問題です。なぜなら、加齢とともに心身機能は確実に低下するからです。世の中で高齢化が進み、運転者人口のなかで高齢者の占める割合も増えています。平成27年末には、65歳から69歳のドライバーが約761万人、70歳から74歳が約471万人、75歳から79歳までが約282万人、80歳以上が約196万人と、1,700万人以上もの高齢ドライバーがおられます。
 この数字は一昔前から大幅に増加しており、そのうち70歳以上のドライバーが受けなければならない高齢者講習の受講者数は年間約259万人にも及んでいますが、そのほとんどは運転を継続される意思がある方でしょう。しかし、なかには、もう運転はしないが身分証明として便利だ―ということで運転免許の更新を続けておられる方もいるはずです。
 こうした高齢ドライバーらが、運転免許を自主的に返納する制度があります。この制度は1998年から実施されていますが、あくまでも強制ではなく本人の意思によるものです。統計によりますと、2015年に約29万人の方が免許を返納しているそうですが、その95%ほどは65歳以上の高齢ドライバーです。過去に運転をした証明をほしい人には「運転経歴証明書」が発行されますし、地域によっては返納者に対するいろいろな恩典があるようです。しかし、この返納者の数は、高齢ドライバー全体からすればそれほど多いものとはいえません。
 免許を自主返納しても、公共輸送機関の発達している都市部では、毎日の生活に深刻な問題は少ないでしょうが、過疎地ではきわめて深刻な問題となります。一日に数回のバスの運行もあればいいほうで、ほとんどこうしたサービスがない地域では、自家用車に頼るしかない場合がほとんどです。事実、都市圏での免許の自主返納率は高いものの、山間部が多い地方などでの返納率は低い傾向があります。
 これは、アメリカのカリフォルニア州であったことですが、90何歳かの女性が車で人をはねた事故でも、裁判所は彼女から免許を取り上げることをしませんでした。車が運転できないと生活権が侵される―という論理です。
 車が大好きな高齢ドライバー、車が生きがいだとする高齢ドライバーは結構おられます。彼らから免許を奪った場合、自分はもはや一人前の人間ではないと落ち込むケース、さらには生活面でも自信喪失に陥る―といったマイナス作用がある例も報告されています。もう運転をやめてもらいたいと、家族が本人に内緒で車の鍵を隠す、車を売るなどの強行手段をとった場合、本人は生きがいを失って、結果的には寝たきりになったという極端なケースもあるようです。また、軽度の認知障害の方から免許を取り上げると、認知機能が急激に低下する、つまり、脳の活動レベルが低下するケースもある―という山梨大・伊藤准教授の指摘もあります。本人が納得したうえで免許の返上をするように家族も協力することが大切でしょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
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バスの暴走
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10年後の交通を読む
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