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最終更新日:2017年7月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その118 バスの暴走
交通リスクコンサルタント 小林 實

人身被害がなければいいのか…

 2016年が始まった途端に、大きなバス事故が立て続けに起きています。将来の希望に満ちた大学生13人の命を奪った軽井沢のスキーツアーバスの事故は、今から30年ほど前に死者25人を出した長野県・犀川でのスキーバス転落事故以来の大事故です。
 この事故があまりにもショッキングだったことから、その少し前の1月7日に発生した京王バスの暴走事故はあまり話題になりませんでした。事故当日にはマスコミもテレビなどで報じていましたが、その後の経過については、ほとんど取り上げられていません。この事故を受けて会社側は、ホームページ上に「皆様に多大なご迷惑を…」というありきたりの謝罪文を出し、今後の対応として「今回の事故がなぜ起こったかを解析し、再発防止策を講じてまいります」としています。
 東京都小金井市内の車や人の交通が多い道路で発生したこの暴走事故では、バスが歩道に乗り上げて信号機をなぎ倒し、100メートル以上も蛇行したあと、道路沿いのアパートに頭から突っ込んでいます。偶然とはいえ、回送中で乗客が乗っていなかったことは不幸中の幸いだったといえましょう。
 形の上では、バスが衝突した信号機やアパートなどの破損という物損事故ではあるのですが、一歩間違えれば車との衝突、あるいは歩行者をはねるという大惨事になった可能性が極めて高いものでした。仮にそんな事態になっていたとしたら、会社側も今回のような軽い対応のし方では済まなかったでしょう。
 バスの運転手は、経験20年以上のベテランドライバーだったそうですが、テレビでも放映された車載カメラの画像によれば、ドライバーは突然仰向けになってハンドルから手を離し、急ブレーキをかけた形跡もなかったということです。運転手がこの間、意識を失っていたことはまぎれもない事実であり、てんかんに似た病的に異常な状態だったといえるでしょう。本人はケガをして病院へ搬送されましたが、蛇行を繰り返して衝突した記憶は一切ないそうです。
 この暴走事故で一人の死傷者も出なかったことで、会社側は「良かったね、人身事故でなくて」と軽く受け止めてはいないでしょうか。運転手個人のたまたま起きた体調不良が原因だった―として、再発防止のための十分な対策を講じることなく、時間とともにうやむやに済ませてしまうことがないことを願います。そうでないと、乗客の立場からは今後安心してバスに乗れません。

難しい運転手の健康管理

 実は、こうした路線バスの運転手の体調不良による事故は、一昨年(2014年)には139件も発生しており、10年前の5倍に達しています。そして、昨年(2015年)1月には東急バスも都内で同じような事故を起こしています。
 この事故ではケガ人が発生しており、会社はホームページにお詫びを掲載したほか、本人には睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査で異常が見られず、朝礼の際も普段と何ら変わらず、管理者も、運転者の挙動から異変の兆候には気づかなかった―ということも報告していますが、そうであるならば、なぜ、公共機関としてのバスの運転士による事故がこれほど発生しているのか、その真の原因を今後追究する必要があるでしょう。
 道路交通でいえば、運送会社が大事故を起こしますと、警察や労働基準監督署が動き、業務停止命令も出ます。大量輸送機関である民間航空会社の場合でも、実に厳しい監査、業務改善命令が出ます。仮に事故に至らなくとも、事故になりかねないインシデントについても報告義務が課されています。
 今回の京王バス暴走事故に関しては、人身事故ではなかったものの、国交省はこれを重く見て、「特別重要調査対象事故」として専門家による調査に入るとのことです。これは当然の処置でしょう。もし、このドライバーはベテランであり、過去に大きな違反や事故もないことから、この事故は単なる突発的な医学的症状によって発生したものである―という結論で終わったとすれば、この種の事故の再発防止にはなりません。徹底した医学的な検査であるとか、心理検査をする必要があるでしょう。そして、ドライバー側からの個人情報の提供も必要になります。
 仮に精密検査の結果、特段の異常は見られなかったとしても、直ちに運転業務に復帰させるのではなく、しばらくは配置転換など他の業務に就かせて、その後の経過を見る―といった観察期間が必要です。国交省も、こうした運転手に対しては、会社の対応に任せるのではなく、何らかの法的措置を課すべきでしょう。精神疾患のある人は全体のごく一部に限られているはずですが、だからといってこれを見逃し、「今後は気をつけて」と簡単に職場復帰させることはリスク管理の上で避けるべきです。

人の命を預かっている

 柳田邦男氏は、「21世紀を迎えた今日においても事故は絶えず、従来とは異なる新しい意味での『たるみ』が新たな問題を起こしている」という発言をしておられます。そして、「ハインリッヒの法則」にも修正が必要な形の事故が出てきている、つまり、1:29:300という従来の比率ではなく、たとえば1:4:10のように、ヒヤリハットや小さな事故があまり起こらないなかで、突然大きな事故が起こるケースが出てきている―といいます。京王バスの暴走事故にも、これが当てはまるのではないでしょうか。
 こうしたバスの暴走という異常事態を、ハード的に防ぐ技術の開発は急務です。現在、自動運転の技術は進化しており、一部はすでに実用化されていますが、自動運転よりもまずは、現在使用中のバスに衝突防止装置を搭載することを優先すべきでしょう。運転手が意識不明になった際は、ともかく車を自動停止させなくてはなりません。
 ところで、路線バスにしろ長距離バスにしろ、こうした事故を目にするにつけ、彼らは(会社も運転手も含め)大事な人の命を預かっている―という基本的な認識が欠落しているのではないか…と、いささか気になります。バス業界が負のスパイラルに落ち込まないためには、重大事故の予兆となる事故をいかに排除するか―が重要でしょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
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運転の自動化とドライバー
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人類は変化を続けている
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