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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その117 オアフ島と交通渋滞
交通リスクコンサルタント 小林 實

激しい経済成長

 かつては船による「憧れのハワイ航路」が、今や「ハワイ空路」となりましたが、憧れは変わらずのハワイブームです。なかでも、この1世紀のあいだに大きく変化したのが、今や観光のメッカとなったオアフ島ワイキキ地区でしょう。限られた土地のなかで急速に開発が進められ、ホテルをはじめとするビル群が林立するさまは、ニューヨークのマンハッタンにも似て、本来のハワイとは隔世の感があります。
 そこには、経済成長による人口の増加と、それに伴う通勤車両の爆発的な増加があります。もちろん、他の島々もそれなりに発展はしてきましたが、オアフ島はいささか例外的な伸びだといえるでしょう。ホノルルの人々は、他の島のことを「ネイバー・アイランド(近隣の島々)」などと愛称で呼んでいますが、そこには「俺たちは違うのだ」といった差別的な感じさえうかがえます。
 このオアフ島の朝夕の交通渋滞は、いささか異常な感じがするほどです。ホノルル市域の人口は約40万人、郊外も含めると約95万人であり、人口のほとんどがこのワイキキ地区に集中しています。同じオアフ島の北部にあるノースショアまで車で約1時間も走ると、これが同じ島なのかと思えるほどその落差は激しく、これがノスタルジックなイメージを作り上げ、“Take me to the North Shore(私をノースショアに連れて行って)”などという歌がはやるのかもしれません。

ジッパーレーン

 ワイキキ地区への朝の通勤は、激しい渋滞を避けるためでしょうか、夜明け前から始まります。片側4車線以上の高速道路が押し合いへし合いの大混雑で、全米で一二を争うとも言われる渋滞が発生します。こうした渋滞を解消するために、普段は隅に置かれているコンクリートブロックの分離帯を、「ジップモービル(Zipp mobile)」という特殊な車で、ちょうどファスナー(ジッパー)を広げるように機械的に移動させ、混雑している方向の車線を増やすのです。この車線を「ジッパーレーン(Zipper lane)」と呼びます。
 このシステムは、ダラスやボストンのような大都市でも採用されており、かつてわが国にも売り込みがありましたが、メンテナンスコストの関係で採用されなかったと記憶しています。ジッパーレーンは、シャトルバスなど公共性の高い車や、3人以上の乗員を乗せた相乗りの乗用車などが走ることができますが、カーシェアになじまない市民の反応はいまいちのようです。

zippermobile.JPG


 

 

 

 

 

 分離帯を移動させる「ジッパーモービル」

 

zipperlane.JPG


 

 

 

 

 

 下りの車線を縮小してできた「ジッパーレーン」


 渋滞といえば、冬のオアフ島北部でも激しい渋滞が起きます。シベリアで発生した低気圧が日本からアリューシャン列島へと移動する際、高さ15メートルに達するような大波をオアフ島北岸に作り出します。その波を求めて世界中からトッププロサーファーたちが集まり、さまざまなサーフィンのコンテストが開かれるわけですが、それを見物する多くの人たちもここに集結します。何しろ片側1車線しかない田舎道を、多くの見物客が車を止める場所(路肩がほとんどですが)を探しながらノロノロと運転するわけですから、渋滞するのも無理はありません。
 ところで、こうした朝夕のラッシュという交通事情を反映してか、ホノルルのドライバーの運転マナーはかなり荒いという印象です。高速道路でスピードを上げたまま予告もなしに車線変更をする、車間距離もかなり詰めて走る―というせっかちな感じが強く、全米でも一二を争う高い事故率がそれを裏付けています。もし、観光でレンタカーを借りて運転される場合は、こうしたリスクを念頭に置いたほうがよいでしょう。ただし、他の島のドライバーはもっとゆったりとしていますから、こうした心配はいりません。

鉄道で渋滞は解消されるか―

 現在、オアフ島唯一の公共輸送機関として、「ザ・バス(The Bus)」という全島を網羅するバスがあり、約500台で107路線をカバーしています。しかし、この路線網も人口集中地域が中心ですから、北部や西部エリアではそれほど充実しておらず、特に朝夕のラッシュ時には対応できていないのが現状です。
 こうした朝晩のラッシュを解消するために、目下、鉄道建設のプロジェクト(Honolulu Rail Transit Project)が進行しているようです。まず2017年まで(たぶん2018年にずれ込むでしょう)に東カポレイ地区から通勤人口の多い地域を通り、ホノルル国際空港近くのアロハスタジアムまでを結び、2019年までにこれをワイキキのアラモアナセンターまで延伸するという計画です。
 全長20マイル、21駅を40分ちょっとで結ぶ計画で、ホノルル国際空港を利用する観光客にとっては、大きなスーツケースも乗せられるので、きっと便利になるでしょう。しかし、どの程度の住民が車から公共輸送機関へ乗り換えるか―が問題です。常夏の島で、ドア・トゥ・ドアで自宅からオフィスまで歩かずに移動できた車から、「歩く・待つ」といった通勤行動へとどれだけ変換できるでしょうか。かつて、フィリピンのマニラで公共輸送機関(LRT)が建設・運用された際、結局、マイカーに乗る階層はこれを利用せず、低所得者層の乗り物になった―という経験があるため、やや不安が残ります。
 ただ、環境問題に関しては先進的な州です。例えば、貴重なウミガメが海岸に捨てられたビニール袋を食べて死亡したことを受け、環境保護とゴミ減少のため、マウイ島とカウアイ島では2011年、ハワイ島では2013年から、このオアフ島でも昨年から、スーパーなどでのビニール製レジ袋の配布を全面禁止しています。今後、ホノルルの交通渋滞がどのように解消されていくのか、市民の健康に直結する大気汚染や騒音といった環境問題への対応も合わせ、大いに期待したいところです。

※写真はハワイ州政府資料による

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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