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最終更新日:2017年8月17日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その116 安全管理八策
交通リスクコンサルタント 小林 實

 少し前、「大阪維新の会」の橋下元代表が、「ローカル維新八策」なる政策の骨格を示しました。これは、11月に行われた大阪府知事・大阪市長選に向けてのアドバルーンとも言われていましたが、このもとになるのが有名な「船中八策」というものです。
 今から150年近く前の1867年(慶応3年)、日本が明治維新に向け動き出そうとしているときでした。大政奉還という一大事業を土佐藩藩主・山内容堂に進言させるため、京都に向かう藩船「夕顔丸」のなかで坂本竜馬が後藤象二郎に口頭で腹案の8つの大綱を示したものが「船中八策」です。別に、船のなかであれこれと策を練ったというものではありません。これは新国家の基本方針を述べたもので、その後の明治政府樹立の際に大きく影響したといわれています。
 この「船中八策」のような国家体系をうたったものではありませんが、今回はこれにちなんで、安全管理の8つのポイントをまとめてみることにします。「安全管理八策」とでもいっておきましょうか。

1. ヒューマンエラーを軽く見ない

 人間誰でもミスを犯す、その結果がヒューマンエラーだとする考え方は間違っていませんが、これを免罪符とする考え方は問題でしょう。つい最近、JR西日本は、ヒューマンエラーというのは一定の確率で起きるものだから、ある程度は許容する―という考え方を示しました。つまり、事故を起こした当人をいくら叱っても問題解決にならないし、糾弾することは事故隠しや事実の歪曲といった事態を招きかねない。さらなる安全確保のためには、当人としっかり話をして、ヒューマンエラーの背後要因をしっかりつかむことが重要である―として、ヒューマンエラーを一律に罰する従来の方針を転換したわけです。
 しかし、誰にでも起こり得るヒューマンエラーを最小限にする努力は、現場の担当者はもちろん、管理者にとっても重要なことではないでしょうか。ヒューマンエラーなのだから仕方がない…と、いわば免罪符のように扱えば、これに甘えてしまう事態が常態化しないとも限りません。事故の元凶は組織の管理にある―ということを再確認したいものです。

2. KYTは万能ではない

 危険予知訓練、いわゆる「KYT」は、安全管理の要であることは間違いありません。しかし、これさえやっていれば安全が高い水準に保てるわけではありません。運転というのは、刻一刻変化する時間との戦いであり、その限られた時間のなかでの的確な危険予知と、それにつながる正しい行動が要求されます。しかし、KYTはこうした時間的制約がない状態で行われることが一般的ですから、どうしても現実の場面との乖離が避けられません。
 次から次へと変化する交通場面には、常に慎重に対応しなければなりません。しかし、人間は学習する生き物ですから、毎日のように通り慣れている道路では「マイナス学習の効果」が頭をもたげ、例えば、この道路では10年間危ない思いをしたことがない―という油断から、危険の予知機能が退化するおそれがあります。
 事故を起こしたときの「まさか急に人がとび出してくるとは思わなかった…」といった言い訳は、まさに危険予知能力の退化を示すものです。事故とは、こうした人間の持つ弱点をついて「待ってました!」とばかりに登場するものだ―ということを、管理者は強く意識する必要があるでしょう。

3. ドライバーが自己責任を徹底できるように仕向ける

 道路上での運転行動は、自己完結型の行動だといえます。工場などでの労働と違い、いざとなれば誰かが助けてくれる―というものではありません。あくまでも、ドライバー個人の判断なり行動が全体を支配しますので、交通場面で相手に期待をしない自律的な行動が醸成される必要があります。
 したがって、事故を起こしても会社が何とかしてくれる―といった軽い気持ちは禁物です。安全担当の管理者は、厳しい態度をもつべきでしょう。

4. 問題のないことこそ問題だ―という意識をもつ

 うちの会社はこのところ違反も減り、事故も起きていない。だから問題はないし、当面は大丈夫だろう―と思うことは危険です。事故というのは、こうした隙を狙って発生するものだからです。「問題がない」とする発想は、スパイラルが下方に向いていることを意味します。今の状態をさらに前進させるには何が必要か―を模索することが管理者の役目でしょう。また、上昇のスパイラルを望むならば、過大な目標はもたず、要求水準を高くしすぎないことも大切です。

5. 安全へのチャレンジを常に考える

 安全担当者に管理をすべて任せて満足している企業のトップは、彼は有能な担当者だから絶対に不祥事や事故は起こらない―と思い込みがちです。しかし、これは消極的で形式的な安全と呼ぶべきもので、まぁ適当にやればいい、何か起きても表に出ることはない…という社員の安易な態度を招くおそれがあります。その結果、本来は大変危険であるはずのことが平気になり、ますます図に乗る「負の強化」というものが働きます。したがって、管理者は常にさらなるスパイラルアップを目指し、安全への積極的なチャレンジを続けるべきでしょう。

6. 人間の能力は常に劣化する方向にあることを意識する

 ハードとしての車、さらには運転を支援する様々なソフトウエアは進化を続けています。こうした自動化の波は、ドライバーの運転負担を軽くすることは間違いないのですが、ハードやソフトに対する依存心が大きくなると、モラルハザードといいますか、人間が本来もつべき注意力などが喪失する事態を招く、つまり、機能の退化を招くことにもなりかねません。
 ことに若いドライバーは、本来の安全運転に必要なアナログ的な発想が苦手で、何でも割り切ってしまうデジタル的な思考形態になりがちです。人間の認知能力は、常に慣れと省略行動が発生しやすく、ハードウエアにも過度に依存しかねない、結果として能力が劣化する―ということを管理者は強く認識する必要があるでしょう。

7. 企業力を劣化させない

 最近、企業における重大事故が続発しているのは、企業のもつ力が明らかに「劣化」していることが原因でしょう。これは、事故や災害に対する免疫力が低下している―ということです。道路交通の場面でも、危険な行為を繰り返しているうちに「これくらいなら大丈夫だろう…」と、危険に対する免疫力が下がりがちですが、それでは駄目で、事故を回避しようとする力を高める必要があります。そのためには、人のもつ感性の力が重要です。
 「当社は、何年も無事故が続いている」などと自慢をしているようでは、危険に対する免疫力が低くなり、あるとき突然大きな事故に見舞われることがあります。無事故が続いているからこそ、さらなる努力が必要なのです。「経営第一で、安全は二の次」という企業では、ドライバーは朝礼もせずに営業に出かけていく。車の外観も汚いし、皆で使うから車内も汚い。こうした環境条件では、安全運転も阻害されるはずで、悪化への「なだれ現象」が進行していきます。
 有名な「割れた窓ガラス理論」のように、放置しておけばそれはどんどん悪いほうに動いてしまいます。逆に、努力して細かい点を改善すると、あるときそれは大きな力となって還流するものです。

8. あなたが安全文化構築の主役

 経費のなかで無駄なものを省き、カットできるところはできるだけカットしよう―というコスト削減の傾向が強くなってきています。安全のなかでも交通安全となると、その成果が目に見えにくいこともあって、経費削減の槍玉にあがりがちです。ましてや無事故が続いたりしていると、事故防止のための経費は少なくしても大丈夫ではないか…という声も出てきます。
 しかし、こうした手抜きの結果は数年後に現れるといいます。ちょうど、ボクシングのボディブローのようにじわりじわりと効き始め、気がついたときには原状復帰が難しくなっている―というシナリオです。安全というのは継承することが大事であり、手抜きは禁物です。その責任は、管理者であるあなたの双肩にかかっているといえましょう。
 社内の制度や業務の中心に「安全の伝承」を組み込むことが重要であり、これは、御社のDNAを次世代に引き継ぐことにもなりましょう。アメリカのデュポン社が200年以上も前に安全文化構築の重要性を提唱し、その実績が今日まで継続しているのは、安全風土という伝統が連綿と継承されているからなのです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
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第80回
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第79回
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第78回
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第77回
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第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
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多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
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ある学者の死を悼む
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第25回
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第23回
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