★前回の「交通安全コラム」では、道路交通法制定(昭和35年・1960年)以降の飲酒運転の罰則等の変遷のうち、昭和62年の道交法一部改正による罰則強化までを解説しましたが、今回は、その後の飲酒運転厳罰化について解説します。
★昭和62年(1987年)の道路交通法一部改正により「酒酔い運転」「酒気帯び運転」の罰則が強化されて以降、飲酒運転の罰則等は10数年以上も変更されませんでしたが、平成11年(1999年)11月に発生した、いわゆる「東名高速飲酒運転追突事故」をきっかけに、飲酒運転厳罰化の世論が高まり、平成14年6月、道交法史上最大ともいえる飲酒運転厳罰化を盛り込んだ一部改正(平成13年6月公布)が施行されました。
★この改正では、「酒気帯び運転」の基準が「呼気1リットル中のアルコール量0.25mg以上」から「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上」と厳しくなったほか、飲酒運転の罰則が15年ぶりに引き上げられ、その違反点も24年ぶりに引き上げられましたが、まず、飲酒運転の罰則については、「酒酔い運転」の最高刑が「2年の懲役」から「3年の懲役」になり、「酒気帯び運転」の最高刑が「3カ月の懲役」から「1年の懲役」になりました。
★また、飲酒運転の違反点については、まず、「酒酔い運転」が15点(「免許取消し・欠格期間1年」相当)から25点(「免許取消し・欠格期間2年」相当)に引き上げられました。さらに、「酒気帯び運転」の違反点は、旧基準の「呼気1リットル中のアルコール量0.25mg以上」の場合が6点(「免許停止・処分期間30日」相当)から13点(「免許停止・処分期間90日」相当)に引き上げられたほか、新基準によって新たに処罰対象となった「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上0.25mg未満」の場合の違反点は6点(「免許停止・処分期間30日」相当)と定められました。
※東名高速飲酒運転追突事故…平成11年(1999年)11月28日、東京都内の東名自動車高速道路で、渋滞で減速走行中の2台の乗用車に飲酒運転の大型トラックが追突した事故。トラックの運転手が飲酒運転常習者であり、事故発生時には多量の飲酒による酔いのために正常な運転操作が困難な状態であったことや、両親の目の前で幼い姉妹が脱出不能の車内で炎に焼かれて死亡する―という惨劇的状況などから、マスコミ等で大きく取り上げられた。
【平成14年(2002年)6月施行の道交法一部改正時の飲酒運転等の罰則と免許の処分】
※赤文字は、厳罰化された部分 ※緑文字は、新設された部分
<罰則>
◆酒酔い運転…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
1年以下の懲役または30万円以下の罰金
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg未満」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
「禁止行為」だが、罰則なし
◆飲酒運転にかかわる酒類提供…「禁止行為」だが、罰則なし
<免許の処分>
◆酒酔い運転…免許取消し(違反点25点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.25mg以上」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
免許停止(違反点13点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上0.25mg未満」の
飲酒運転(酒気帯び運転)…免許停止(違反点6点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg未満」の飲酒運転…処分なし
★平成18年(2006年)8月に発生した、いわゆる「福岡海の中道大橋飲酒運転事故」を契機に、マスコミを中心に、飲酒運転がより一層、問題視されるようになり、平成19年(2007年)9月、飲酒運転の罰則引き上げ、飲酒運転を助長する「車両提供」「酒類提供」「同乗」の罰則新設を盛り込んだ道交法一部改正(同年6月公布)が施行されました。
★この改正で、「酒酔い運転」の最高刑が「3年の懲役」から「5年の懲役」に、「酒気帯び運転」の最高刑が「1年の懲役」から「3年の懲役」に、それぞれ引き上げられ、また、従来から「禁止行為」であったものの、処罰の対象とはされていなかった「酒類提供」(飲酒運転者に対して酒類を提供する行為)に、最高刑「3年の懲役」の罰則が設けられたほか、「車両提供」(飲酒運転者に対して車両等を提供する行為)と「同乗」(飲酒運転者が運転する車両に同乗する行為)が新たに「禁止行為」とされ、それぞれ、「5年の懲役」「3年の懲役」を最高刑とする罰則が設けられ、道路交通法上、これら三つの飲酒運転関連違反行為を処罰することができるようになりました。
★なお、この改正により厳罰化された「酒酔い運転」「酒気帯び運転」の罰則、新設された飲酒運転関連違反の罰則(「車両提供」「酒類提供」「同乗」)は、その後、変更されることなく、現在に至っています。
※福岡海の中道大橋飲酒運転事故…平成18年(2006年)8月25日、福岡市内の橋上で、飲酒酩酊状態にあった男性が運転する乗用車が、先行する乗用車に追突した事故。追突された乗用車は橋の欄干を突き破って海に転落、乗車していた夫妻は脱出に成功したものの、夫婦の子どもである幼児3人は車内に取り残され、溺死した。
【平成19年(2007年)9月施行の道交法一部改正時の飲酒運転等の罰則(現行と同じ)】
※赤文字は、厳罰化された部分 ※緑文字は、新設された部分
◆酒酔い運転…5年以下の懲役または100万円以下の罰金
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
3年以下の懲役または50万円以下の罰金
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg未満」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
「禁止行為」だが、罰則なし
◆飲酒運転にかかわる「車両提供」
・酒酔い運転の場合…5年以下の懲役または100万円以下の罰金
・酒気帯び運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
◆飲酒運転にかかわる「酒類提供」
・酒酔い運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
・酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
◆飲酒運転にかかわる「同乗」
・酒酔い運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
・酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
★平成21年(2009年)6月に施行された道交法一部改正に伴う同法施行令一部改正(平成21年1月公布)により、「酒酔い運転」の違反点が25点(「免許取り消し・欠格期間2年」相当)から35点(「免許取り消し・欠格期間3年」相当)に引き上げられたほか、「酒気帯び運転」のうち、「呼気1リットル中のアルコール量0.25mg以上」の場合(高濃度の「酒気帯び運転」)の違反点が13点(「免許停止・処分期間90日」相当)から25点(「免許取り消し・欠格期間2年」相当)に、「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上0.25mg未満」の場合の違反点が6点(「免許停止・処分期間30日」相当)から13点(「免許停止・処分期間90日」相当)に、それぞれ引き上げられました。
★なお、この改正により強化された「酒酔い運転」「酒気帯び運転」の違反点は、その後、変更されることなく、現在に至っています。
【平成21年(2009年)6月施行の道交法施行令一部改正時の
飲酒運転等の免許の処分(現行と同じ)】
※赤文字は、厳罰化された部分
◆酒酔い運転…免許取消し(違反点35点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.25mg以上」の飲酒運転(酒気帯び運転)…
免許取消し(違反点25点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg以上0.25mg未満」の飲酒運転
…免許停止(違反点13点)
◆「呼気1リットル中のアルコール量0.15mg未満」の飲酒運転…処分なし
(2015年11月16日)
A4判 40ページ カラー ●平成20年6月施行分から最新施行分までの道路交通法一部改正の要点について、わかりやすく丁寧にまとめた冊子です。イラストや写真等を豊富に使用し、詳細な説明が必要な部分には注釈を添えるなど、誰もがしっかり理解できるよう工夫しました。 ●また、参考資料として、「近年の主な道交法施行令等一部改正の要点」、特別企画として、「人身交通事故の処罰規定の変遷」と「飲酒運転の罰則等の変遷」を掲載しました。 |