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最終更新日:2017年4月24日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その113 自転車事故と保険
交通リスクコンサルタント 小林 實

自動車には強制保険があるが…

 車社会がわが国に成立して約半世紀となります。朝鮮戦争による特需を契機に自動車産業が本格的に立ち上がり、自動車の生産台数は昭和28年に15万台を突破しました。わが国のモータリゼーションはこのころから始まり、交通事故による死者の数は昭和29年に6,000人を超え、その5年前の約2倍にも達しました。
 当時、道路の拡幅が十分でなかった狭い街なかをダンプカーが走り回り、多くの自転車利用者や歩行者がその犠牲となりました。事故死者は、1970年(昭和45年)に年間1万6,765人に達するまで毎年のように増加し続け、いわゆる「交通弱者」が被害者の多くを占めました。
 こうした被害者の救済が社会問題化し、昭和30年には「自動車損害賠償保障法」が制定されました。これにより、自動車の運行に伴う人身事故が発生した場合の加害者の損害賠償責任が強化され、原則としてすべての自動車が自動車賠償責任保険、いわゆる「強制保険」の加入対象になったわけです。この強制保険による限度額は当時わずか30万円でしたが、大学卒の初任給が月1万円の時代でしたので、この程度の額だったのでしょう。
 昭和37年以前は、無保険車両をチェックできる体制が整っておらず、無保険車が堂々と街を走っていましたが、それ以後、車両登録もしくは車検の際に保険証を提示することとし、その数は減っていきました。この強制保険の制度は、それまでのクルマ優先社会のもたらすリスクを捉え、交通弱者の救済・泣き寝入り防止に功を奏しました。

高額化する損害賠償額

 最近、健康ブームや電動アシスト型自転車の普及に伴い、街を走る自転車の数が増えてきました。現在、全国の自転車保有台数は7,000万台以上に達し、老若男女を問わず自転車利用者は増えています。
 それと同時に、歩行者が自転車にヒヤッとさせられるケースも増えてきました。筆者自身も経験していることですが、バスから歩道に降りた直後に、猛スピードで走ってきた自転車とぶつかりそうになるとか、警告のベルも鳴らさずギリギリに追い越されて、思わずヒヤリとすることもしばしばです。また、ヘッドホンをしたままとか、スマホを見たりしながらの運転も結構目立ってきています。
 自転車事故のうち対歩行者の事故を見ますと、昨年の警察統計では約2,600件発生しており、このうち歩行者が死亡したケースは2件ということですが、歩行者が大きなケガをするケースが少なくありません。また、その自転車対歩行者事故のほとんどは自転車が加害者になっています。クルマと違って車体も軽いし、スピードもたいしたことはないので、ぶつかっても相手はせいぜいかすり傷程度しか負わないだろう…と軽く考えている人が多いのかもしれません。
 注目したいのは、15年前にはこの自転車対歩行者事故が年間800件程度だったのに、以来、年々増加の一途をたどり、現在は2,600件程度にまで増加していることです。今後、自転車対歩行者事故はさらに増え、損害賠償額も高額化していくことでしょう。
 たとえば、2005年の横浜地裁の判決では、当時高校生であった女子生徒が携帯電話を見ながら自転車で通行中、54歳の女性看護師に背後から衝突して後遺症を負わせた事例について、5,000万円の支払いを命じています。夜にもかかわらず自転車は無灯火で、看護師はこの事故で失職しています。また、駅付近の混雑した歩道で、自転車の男子高校生が主婦とすれ違った際、主婦のショルダーバッグの肩ひもに引っかかって主婦が転倒した―という事故では、1,700万円の賠償が命じられました。
 このほか、2013年の神戸地裁の判決では、小学生の乗ったマウンテンバイクが下り坂を暴走して67歳の女性と正面衝突した事例について、親の監督義務責任が問われましたが、このように、事故の当事者だけでなく、その親の責任も問うケースが増えてきています。

必要な自転車保険への加入

 こうした事故はめったなことで起こらない…などと高をくくらず、自転車利用者も安全運転に努めることはもちろん、万が一のことを考え保険に加入することが必要です。自転車は、道路交通法上「軽車両」という扱いになるため、事故を起こした場合、自動車と同じく刑事上と民事上の二つの責任を問われますが、このことを知らないで乗っている本人や親御さんも多いでしょう。自転車通勤を奨励している企業では、当然こうしたリスクを考えなければなりません。
 自動車には、被害者救済のための自賠責保険がありますが、自転車にはこうした制度がありません。そのため、任意の賠償責任保険に加入する必要があるほか、本人のケガなどに対応するため、何らかの傷害保険にも入っておく必要があります。一般的な「TSマーク」の賠償責任補償ですと、最高で5,000万円まで補償されます。
 なお、業務中の自転車使用による事故の場合、個人賠償責任保険は適用されませんので、事業主は「事業者用の賠償責任保険」に加入する必要があります。マイカー通勤に関しては規定などを厳しく決めている企業でも、自転車通勤についてはまだ不十分な面もあるようですので、この辺の取り決めも喫緊の課題といえましょう。

安全教育も事故防止に重要

 自転車の違反行為も、こうした事故の多発と関連して増えています。自転車を含む車両の運転者が右・左折などで進路を変更する際には、手や方向指示器で合図することが決められていますが、意外に守られていないというか、そもそも合図をしなければならないことさえ知らない人が多いのが現状です。また、手放し運転や傘差し運転といった「安全運転の義務」に反する違反行為も、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金となります。
 こうした点からも、自転車利用者に対する安全教育を広く行う必要があるでしょう。横断歩道上、あるいはその付近で起きた自転車対歩行者事故の過失割合を見ますと、ほとんどの場合、自転車側の過失割合が100%もしくはそれに近い割合になっていますので、特に歩道を自転車で通行するような場合は注意が必要です。
 自転車利用者からすれば、自転車事故で加害者になることはめったにないし、ましてや相手が大ケガをするようなケースはない、起きてほしくない…という心理が働きます。この「起きてほしくない」という心理は、「起こらない」という思いにつながり、さらには「決して起こらない」といった合理化の心理に発展しがちです。このため、保険に入って自衛する―ということにはなかなかなりにくいのです。
 しかし、自転車対歩行者事故が増えている現状を考えますと、自分が加害者になるリスクに対する備えが必要になってきます。同時に、自転車の安全な運転を徹底すること、ことに小さいお子さんに対する乗り方のしつけは家庭教育の一つとして重要でしょう。また、現場での警察官による指導取締りの効果にも期待したいところです。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
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第124回
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オアフ島と交通渋滞
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第115回
安全の費用対効果
第114回
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第113回
自転車事故と保険
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感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
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何を認知するのか?
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交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
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第98回
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第97回
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