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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その111 「安全神話」は崩壊したか?
交通リスクコンサルタント 小林 實

新幹線で発生した火災事件

 去る6月30日に発生した東海道新幹線車内での焼身自殺には、だれもがその特異性に驚かれたことと思います。71歳になる男性が生活苦を理由に、携帯していたガソリンを車内と自分とにかけて火をつけ、本人は死亡、熱風を吸った52歳の女性の方が巻き添えで亡くなられたほか、重軽傷者28名が出るという悲惨な事件でした。上下線が数時間にわたって不通になり、月末で多忙な出張客や旅行客にはもちろん、経済的にも大きな打撃を与えました。
 JRではこれを「列車火災事故」と称していますが、これは「事故」というよりも「事件」ではないでしょうか。マスコミは一斉に「新幹線の安全神話吹き飛ぶ」といった見出しをつけて報道しましたが、これまで約半世紀にわたり、日本の新幹線は定時運行・安全確保といった面で大きな実績をもっています。中越地震の際にも、日本のマスコミは上越新幹線の脱線を記事で大きく取り上げましたが、海外では、時速200キロで走っている列車が脱線したのにケガ人が一人も出なかったことについて、むしろ日本の安全技術を称賛する記事が多かったくらいです。
 もちろん、日本の新幹線でも、過去にいくつかの事故が発生しています。2010年には博多発のN700系・のぞみ56号で、部品の摩耗による床下からの異音と発煙で乗客の一部が避難しましたし、1995年には三島駅で、駆け込み乗車の乗客の指をドアに挟んだまま発車し、乗客がホーム下に転落して死亡しています。

原発事故とは違う

 さて、「安全神話」というのは、実際に安全かどうか明確ではないものの、長いあいだ事故が発生していないことを意味しますが、ここで、東日本大震災で発生した福島第一原発事故のことが思い出されます。
 当時、原子力安全委員会の委員長であった斑目氏は、原発が爆発することはない―と大見得を切っていましたが、これが完全に覆されました。「原発は安全だ」という「安全神話」が関係者に刷り込まれていたわけですが、確かに原発の場合、不確定な要素が多く、安全を完全に維持できるかどうかはっきりしない面もあり、そうした意味で「安全神話が崩れた」という言葉の使い方は当たっているでしょう。
 一方、日本の新幹線では、「ドクターイエロー」といった架線や線路の状態を診断する車両を運行して日常点検を厳しく行うなど、地道な努力の積み上げにより、今日まで大規模な事故は発生していません。このような実績のある新幹線に対して「安全神話」という言葉を使うことには若干違和感があります。
 新幹線の安全率は、いわゆるシックスナイン、つまり9という数字が6個も並ぶ99.9999%以上と言われています。安全率が99%では、逆に言うと100回に1回は事故が起こるということですから、このレベルでは安全性が高いとは言えません。これが99.9999%だと事故の確率は100万回に1回になりますが、新幹線はこれ以上の安全率をキープしているわけです。これこそ、総合的な安全運行管理の成果といってよいでしょう。ハードとしての車両の安全性が高いことはもちろんですが、運行管理というソフト面の高品質もそれを支えているわけです。今回の火災事件はいわば自爆テロみたいなものですから、この事件をとらえて新幹線の安全性を論議することには、かなり問題がありそうです。

不審な行動

 ところで、列車に乗ると「不審物を発見した場合には…」というアナウンスをよく耳にします。耳慣れているせいか、これを聞いてもそれほど奇異には感じませんが、これが「不審者に気をつけてください」となると、乗客は不安になり、あたりを見回したりするかもしれません。
 「不審物」といった場合、誰の持ち物かわからないものが目立たない場所においてあることが多く、意外と気がつきにくいこともその理由の一つでしょう。一方、「不審者」とは、その場にふさわしくない人、例えば、その場にそぐわない風体の人や、挙動(様子)がおかしい人を指しますが、実際の犯罪者の多くは、特異な格好をして目立つようなことはせず、むしろ、あたりに溶け込むような服装なり挙動をするものです。心理学で言うところの「図柄」ではなく「地」、つまり背景に溶け込もうとするわけです。
 かなり前のことですが、新幹線で、グリーン車の乗客を狙ったスリの犯人逮捕の現場に遭遇したことがあります。窓脇につるした上着のポケットから財布を抜き取る―という手口で、そのスリは以前から警察にマークされていたのでしょう。逮捕の瞬間に捜査員が「犯人を確保しました!」と大声で叫んだので気づいたのですが、犯人らしき男は、ごく普通のサラリーマン風の服装でした。
 新幹線の、ことに自由席では、空いている席を探すために車内を行ったりきたりするのは別に不審な行動ではないでしょう。今回の火災事件で自殺した犯人の服装も、それほどおかしな風体ではなかったように思います。犯人が背負っていたリュックにしても、それほど馬鹿でかいものでなければ、なかに何が入っていても不審とは思わないでしょう。ガソリンが撒かれることを他の乗客が阻止できなかったのは、直前までその予兆を感じられなかったからかもしれません。

周囲に対する感度を上げる

 新幹線の最終便に乗りますと、出張の疲れをいやすために缶ビールを一杯やっている人、熟睡している人、報告書作成にパソコンを叩いている人などが目立ち、昼間とはかなり違った雰囲気です。このような車内や、逆に混雑して通路に人があふれているような車内では、いざというとき避難に手間取って、乗客がパニックになる危険があります。
 新幹線の通路は極めて狭く、ここに置かれた大きなスーツケースやキャリーバッグが避難を妨げたことが今回問題になりました。成田エクスプレスなどの一部の車両ではすでに実施されていますが、これらの荷物を収納するスペースを設けることは喫緊の課題です。乗車前の荷物チェックは現状では無理ですから、添乗警備員の数を増やし、異常の検知を早めることが必要でしょう。
 新幹線を含めた公共機関の通路は「公道(パブリックスペース)」であり、そこでは何が起きてもおかしくありません。火災事件が発生したのは昼前でしたから、早めの昼食を取り始めていた方もいたでしょうし、スマホやパソコンに夢中だった方も多いでしょうから、異変に気づくのが遅れた方もいらっしゃるでしょう。地下鉄サリン事件以降、首都圏の電車に乗る際には乗客の自己防衛機能が高まったように見えましたが、最近はまた、周囲の状況に無関心の人が増えてきています。今回の火災事件を機に、公共交通機関を利用する乗客は、自己防衛機能の感度を少し上げて、周囲の状況把握に努めることも必要でしょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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血液型と性格
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