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交通安全時評

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クルマは今日も走っている ノンフィクション作家 矢貫 隆 第101回 危うい場所に対策を講じなければ、事故はまた起こる

現場に行かなきゃ

「重傷を負った小学3年生の女子児童が搬送先の病院で亡くなった」
 深刻な交通事故のてん末をテレビのニュースが報じ、それに見入っていたボクは、画面に向かって呟いていた。
 何でだよ…、と。
 無性に怒りがこみあげてきた。
 この事故を何度も何度もニュースが伝えていたけれど、現場となったのは、渋谷駅から京王井の頭線に乗り、数にして3つ目、『池ノ上』駅の近く、池之上小学校の校門から200メートルも離れていない場所である。東京在住でもない限り「世田谷区代沢」と現場の住所を聞いてもぴんとこないだろうが、すぐ隣の駅は『下北沢』と言えば、なんとなくイメージが湧くだろうか。
「…世田谷区代沢で、走ってきた軽トラックが道路の右脇に突っ込み、近くの区立池之上小学校に通う3年生の女の子3人をはねました。警視庁によりますと、この事故で、3人のうち9歳の女の子1人がトラックと電柱の間に挟まれ、まもなく救助されて病院に運ばれて手当てを受けていますが、意識不明の重体です…」
 NHKのニュースはこう伝え、事故翌日には、続報を伝える民放のニュースが、電柱に激突した状態の軽トラックと路上に放置されたピンク色のランドセルを映しだし、重体だった女子児童が、搬送先の病院で亡くなったと言っていた。現場となった狭い道路は周囲の幹線道路へと続く抜け道にもなっているために交通量は多いのだと付け加えている。
「道が狭いのに交通量が多く、スピードをだして通るクルマもいて怖いから、できるだけこの道は歩かないようにしています」
 近所の住人と思しき女性の話は説明的で、テレビ局が用意したコメントふうではあったけれど、画面からわかる現場の道は、確かに狭いし、そして交通量も多そうだった。
 何でだよ…、と怒りがこみあげてきたのは、このときだった。
 現場に行かなきゃ、と思った。

まるで教訓となっていない事実

 池ノ上駅をでると、そこは事故現場へと続く狭い道だった。
 道の両端は1メートル幅ほどの、路面を緑色に塗った路側帯になっているものだから、車道は、クルマが1台通れる程度の幅しかない。ところが、狭い道でありながら一方通行路ではないものだから、自動車がすれ違うときは、互いの車両が左に寄らなければならず、それらのクルマは当たり前のように路側帯に入り込んでしまうのである。
 やっぱり、な、と思った。
 事故現場となった道路を映すテレビを見ながら、もしかすると、この道は、とは感じていて、だからこそ、何でだよ…、と怒りを覚えたわけだけれど、実際に現場に足を運んでみると、浮かんでくる言葉は、やっぱり、な、だった。そして、ちょうど1年前、京都府八幡市の府道で、集団登校中の児童13人の列に暴走車両が突っ込んだ交通事故について書いた記事(第89回)を思いだしていた。
 1年前に発生したあの事故の直接的な原因は、多くのマスコミが伝えたように「運転未熟な少年の無謀運転」に違いない。けれど、市の教育委員会が「安全柵や縁石があり<安全な場所>と認識していた」というその場所の<安全>は、ボクに言わせれば「思い込み」だった。で、ボクは、結論としてこう書いた。
「世の中には無謀運転が存在するという前提での対策を充実させるべきだ」と。
 そして、こうも書いた。
「子どもたちの通学路の安全をもういちど点検してもらいたい。『安全』と認識している場所が、本当に安全な構造になっているかどうか、それをもういちど点検するべきだ」
 それなのに、と、思うわけなのである。
 事故現場となった道は、前述のごとく「思い込みの『安全』な場所」ですらなかったものだから、ニュース映像から受けた印象どおりだったという意味、つまり、危うい道なのに安全対策が十分でないという意味の「やっぱり、な」が口を突いてでた。そして、1年前の重大事故を含め、これまで繰り返されてきた登下校中の交通事故が、まるで教訓となっていない事実に、何でだよ…、と、呟いてしまうわけなのである。

怖いと感じた

 その狭い道は、いかにも駅の周辺らしく商店がいくつも並んでいて、それなりに人通りも多く、交通量も多い。制限速度は時速30キロ。しかし、その場を歩いてみると、制限速度は20キロ以下でなければ怖いと感じた。そんな環境の道でありながら、しかも、重大な事故の翌日でありながら、それでも時速30キロを超えるスピードで走るクルマやオートバイがいるのだから驚くではないか。
 亡くなった児童が通っていた小学校の校門は、この道に面していた。
 何でだよ…、と言いたくもなる。
 だって、初めてこの道を歩いたボクですら危うさを感じ取れるのである。前出の、近所の住人が話したとおり「道が狭いのに交通量が多く、スピードをだすクルマもいて怖い」と彼らが思っている道なのである。その道が“通学路”なのである。それなのに、午前7時30分〜8時30分までの間を「スクールゾーン」として通行止めにしているのを除けば、ここには、通学する児童の安全を守る対策が十分に講じられているようには(ボクの現場取材が不足なのかもしれないが)見えなかった。
 何でだよ…。
 事故が起こってしまった後に、加害者となったドライバーの運転ぶりを批判したり厳罰を求めたりしたところで、子どもたちの交通安全を守ることに何の役にも立ちはしないのである。
 この事故現場となった道に限って言えば、早急な対策としては、制限速度を時速20キロ以下に直すべきだ。一方通行路にするべきだ。
 そして何よりも、“通学路”らしく、たとえば、二輪車の安全確保の問題を解決しながら路面を波状にするとか、とにかく、歩行者が「怖い」と感じることのない構造を実現させる必要がある。
 最後に、「第89回」で書いた言葉を、繰り返して言っておく。
「子どもたちの通学路の安全をもういちど点検してもらいたい」
 危うい場所に対策を講じなければ、事故はまた起こるよ。

 

 

筆者プロフィール

矢貫隆(やぬき・たかし)
1951年栃木県生まれ。龍谷大学経営学部卒。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど多数の職業を経て、ノンフィクション作家に。国際救命救急協会理事。交通問題、救急医療問題を中心にジャーナリスト活動を展開。『自殺─生き残りの証言』(文藝春秋)、『交通殺人』(文藝春秋)、『クイールを育てた訓練士』(文藝春秋)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、『救えたはずの命─救命救急センターの10000時間』(平凡社)など、著書多数。

 

 

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第48回
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第43回
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第42回
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第41回
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第40回
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第39回
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第38回
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第37回
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第36回
自治体の負担金軽減により、ドクターヘリの普及にはずみがつくことを期待する
第35回
交差点事故の割合が微減している、ここに交差点対策のカギがあるのかもしれない
第34回
交通事故が減少しているからこそ浮き上がってくる課題がある
第33回
高速道路でのトラック事故、その背景に異変が起きるかもしれない
第32回
飲酒運転をする不埒なやからには疑似「怖い体験」をさせるのが一番だ
第31回
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第30回
自転車もバイクもトラックも互いのあいだにある溝に気がついていない
第29回
客探しに目が向かう空車タクシー、その速度は高すぎる
第28回
無謀運転のスポーツサイクル乗りが今、街で増え始めている
第27回
登録制度と再規制、安心・安全なタクシーは復活するか!?
第26回
高齢者講習には「免許更新のついでの徹底検診」を
第25回
絶大な効果があるAEDも、活用しなければ宝の持ち腐れだ
第24回
「安全な自転車」の開発は自転車の多様化に拍車をかけるだけ!?
第23回
迷走する自転車の安全対策、本当に重要な問題を見極めるときだ
第22回
救急車の安易な利用が増え続ければ「有料化」が現実になるかもしれない
第21回
事故死者をさらに減らしていくために死者激減の「わけ」を早急に解明すべきだ
第20回
街路灯の整備は絶対に必要だけど、現実を考えて自衛しよう
第19回
運賃値上げのない地域にタクシー戦争あり、事故増加につながる危険性
第18回
事故が減るとか増えるとか、昼間点灯だけで交通安全をかたるのは間違いだ
第17回
AEDは救命率向上に大きな効果があるが、使えば必ず命が助かるわけではない
第16回
ツーリング中の中高年ライダーはこまめに休憩をとるべきだ
第15回
いつ発生するかわからない巨大地震にドライバーはどう対処すべきか
第14回
骨抜きにされた「運転者登録制度」では、規制緩和後の「タクシー問題」を解決できない
第13回
多くのドライバーは自転車の特性を理解していない、そのことを頭にたたきこんでおくのは重要だ
第12回
死者激減の原因を合理的に説明できない限り、根本的な安全対策を講じることはできない
第11回
規制緩和それ自体が悪いとは思わないが、そのしわ寄せを運転手に押し付けてはならない
第10回
「ここにAEDがあるぞ」と大勢の人に知ってもらう方策を考えるべきだ
第09回
事故死者数を減らすことは重要だが、それと個人の意思は別問題だ
第08回
自転車の走行環境とルールの整備という問題は、大きなテーマになっていくような気がする
第07回
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第06回
理念に沿わない駐車違反取締りは「取締りのための取り締まり」に進みかねない
第05回
飲酒が運転に与える悪影響をドライバーに体験させる必要がある
第04回
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第03回
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第02回
タクシーの現状を改善しようとするなら、運転手の低賃金問題は避けて通れない
第01回
近ごろの無法・無謀自転車問題の本質は、自転車に限らない安全教育の問題なのでは?

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