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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その98 ミラーの効用
交通リスクコンサルタント 小林 實

サイドミラーが転落

 人間は、その生理学的な構造から前方にしか眼がありませんので、運転中の視野というか、見ている空間(これを「視空間」といいます)のほとんどは前方に限られています。車は前方に移動することがほとんどですので、安全運転を確保するためには、前方の「視空間」をいかに確保するか―が重要ですが、眼で直接見ることができない後方や側方の情報収集は難しく、特に後方から近づいてくるものには気づきにくいものです。
 そこで、ドライバーの情報収集を補助するためのツールとして、車にはルームミラーやサイドミラーが備わっています。普段、こうしたミラーの存在というか有難味を忘れがちですが、つい先日、この有難味を再認識した経験をしました。
 めったにないことですが、運転中、道路のちょっとした振動で運転席側のサイドミラーがはがれて路上に落ち、あっという間に粉々になってしまったのです。サイドミラーがなくても、運転席側だったら無理な追越しをしなければどうっていうことはない、大したことではない…と思われる方もおいでかと思いますが、周囲の状況確認には人一倍神経を使うものですから、まるで自分の片方の目が見えないような状況になりました。
 もちろん、ルームミラーでも後ろの情報をある程度得ることができますが、例えば高速走行の場合、片側2車線の道路でセンターライン側にいる車が後方から接近し、ルームミラーに映る範囲を通り過ぎて横に並び、これが自分の視野に入ってくるまでには4、5秒を要します。この間、並進車の状況確認がまったくできず、まさに視野の一部が欠けた状態に等しく不安で仕方ありません。もちろん、このような状態で車線変更をして追越しをかけることはきわめて危険です。
 また、駐車の際にもサイドミラーは有効に機能しますが、これがないと心理的に大いに不安になります。

あるべきものがない不安

 冷静に観察してみますと、ドライバーは、「視空間」の一部であるサイドミラーやルームミラーに映された周囲の映像を周辺視的に見ているようです。意識して見てはいない(意識して注視はしていない)が、ミラーに映る後方の状況は周辺視として視野のなかにあり、そこに焦点は合っていないが、必要なときにはそちらに視点を動かす(これを注視といいます)ことでドライバーは安心感を得ているのでしょう。
 運転中、「そこにあるべきものがない」という事態を想定することはあまりありませんが、こうした事態にどう対処するのか…も一つのノウハウとして大切です。できれば、安全な場所でサイドミラーにカバーをした「視空間」を体感してみてください。普段あまり意識しないものでも、それが存在しなくなると、人間の不安感はことのほか大きくなることがわかるでしょう。最近は、ギヤを「R(バック)」に入れると自動的に後方の状況をカメラで写してくれる装置がありますが、ミラーが割れるなど緊急事態のとき、マニュアル操作で後方の状況をモニターに映すことができればドライバーの安心感は増すと思いますが、どうでしょう?

まさかの事態も想定

 運転中、われわれは視点を絶えず移動し、必要な情報処理を、「時間」という制約のなかで瞬時に行わなければなりません。そのためには、いかに適度な注意の水準(レベル)を保ちながら、効率よく注意を配分できるか―が重要になってきますが、ドライバーの運転態度というものは、常に一定であるとは限りません。いつもは好ましい運転態度のドライバーであっても、状況の特殊性(予定した時間に遅れそうな場合など)や集団・組織の圧力(荷物を早く届けるよう指示された場合など)といった情緒的な外乱を受け、安全を保とうとする心理が歪められ、不安全な行動をとることがある―といわれています。もし、こうしたときにミラーが欠損していることを忘れて無理な行動をしたとすれば、一体どうなるでしょう…。
 こうした「まさかの事態」はそうそうあるものではありませんが、例えば石ころが飛んできてフロントグラスが大きくひび割れしたとか、大雨で対向車が大量の水がはねかけてきて前方視界が遮られた―といった事態は想定して運転する必要があるでしょう。
 また、首都圏にある湾岸道路のトンネル出口には「夕日にご注意!」という看板がありますが、早朝や夕方など、高度が低い太陽に向かって車を走らせるような場合、太陽光のまぶしさで前方の状況確認も困難になります。サンバイザーはある程度有効ですが、太陽光の入射角が低い場合は十分に機能しません。そこで私は、つばの長いキャップを目深にかぶることでまぶしさをある程度防いでいます。これもある意味、緊急事態に対する一つのノウハウといえるでしょう。

 

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
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血液型と性格
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忖度こそ安全マナー
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タイヤ以外、何に触れても事故である
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これからの交通社会は?
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第121回
レジリエンスと安全管理
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バスの暴走
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オアフ島と交通渋滞
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交差点での安全運転
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自転車事故と保険
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第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
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何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
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第86回
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ハイブリッド
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天井板崩落事故に学ぶ
第80回
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仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
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第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
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第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
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社会のスピード
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第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
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第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
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第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
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企業も頑張っている!
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第40回
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ゲリラ化する災害
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第28回
マニュアルにないもの
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第26回
経年劣化
第25回
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第23回
感覚の研ぎ澄まし
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若い世代と安全管理
第21回
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第19回
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