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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その95 二つの鉄道事故に学ぶ
交通リスクコンサルタント 小林 實

いつもと同じ意識

 今年は異常気象のせいなのでしょうか、首都圏は2回にわたり大雪に見舞われ、交通は大混乱をきたしました。当然、雪に慣れていないドライバーによるスリップ事故も多発しましたが、雪で身動きが取れず、多くの車が立ち往生する―という異常事態まで起きたことは予想外でした。
 鉄道においても、東急東横線・元住吉駅の構内で停車していた車両に後続車が追突するという想定外の事故が発生しました。幸い終電車に近く、乗客の数も少なかったため、けが人の数はわずかでしたが、珍しい人身事故といえるでしょう。この事故の原因は、降雪と気温の低下によってブレーキが凍結し、指定の位置に止まることができなかったことだそうです。
 通常、鉄軌道上ではいくつもの事故防止策がとられており、前の車両が駅の構内で停車していれば、自動列車制御装置(ATC)が働き、後続車は自動的に停止するはずです。事故の直前にもATCは作動したそうですが、ブレーキシューと車輪のあいだに雪が入り込んでブレーキが効かず、現場の画像を見る限り、衝突時にはまだ相当のスピードが出ていたことがわかります。
 確かに、事故現場のような高架部では、風が車体の下側を通り抜けやすく、外気温が急激に低下する深夜になると凍結しやすいのです。とはいえ、なにせ想定外の積雪と温度の低下だったため、この事故はある意味やむを得なかった、不可抗力であった―という鉄道会社側の説明は、どうにも納得いきません。マスコミも、ブレーキが凍結したのだから致し方ない事故だったということで、復旧に一日以上を要したにもかかわらず、あまり大きく取り上げませんでした。 
 当然、運転士はこうした際の手順について訓練されているはずですが、現場は運転の難易度が相当高い状況だったと思われます。このような異常事態では、規定通りの作業が阻害されます。運転士が難易度の高さを自覚していたのかどうかが問題で、もし「異常事態」という認識が強く、かなりの減速態勢で前車に接近していれば、脱線に至るまでの激突はなかったのではないでしょうか。仮に脱線という事態を免れたとすれば、回復に要する時間は大幅に短縮されたはずです。しかし、こうした異常事態を事前に体験学習することは難しく、運転士はいつもと同じ意識で行動してしまったのかもしれません。

身内意識が緊張感をゆるめる

 この事故の余韻が抜け切らないうちに、今度はJR東日本の京浜東北線で、工事用作業車と回送電車が衝突する事故が発生しました。本来、工事用作業車は、終電車(回送も含む)の通過を確認してから軌道に入るのですが、その基本中の基本を忘れて確認を怠ったことが事故の最大の原因でした。それにしても、終電車の通過を確認する際、現場にJRの担当者がいなかった―というのは、やはり納得しかねますが…。
 幸い乗客の被害がなかったからか、JRサイドから、この事故に関してはあまりコメントがありません。その一方で、JRは安全の確保に万全を尽くしている―といった趣旨の一面広告を出していますし、JRの専門誌でも、安全文化の構築といった特集などを掲げ、JRは安全に配慮して営業しています―と広くアピールしています。
 ところが、終電後の軌道上でのこうした事故は、私鉄でも結構起きています。「身内」という意識が、緊張感をゆるめているのかもしれません。鉄道会社には、こうした身近な事故をテーマとして取り上げることを提唱します。青いシートで覆われた無様な事故車両を、撤去するまで乗客の前にさらしたことは大いに反省してほしいものです。

異常気象などに備えた運転を―

 この二つの鉄道事故から、我々が学ぶべきものは何でしょうか。例えば、異常気象時には、平常時よりも緊張感を高め、神経を使って運転しなければならない―ということでしょう。タクシーが雪道でタイヤを空転させながら発進しているテレビ映像などを見ますと、プロドライバーですら雪に対して不慣れであることがわかります。
 また、深夜に運転するときであれば、交通量の少なさに油断して気がゆるんではいないだろうか―、駐車場や構内を走行するときであれば、「我が家の庭」の感覚に陥って安心してはいないだろうか―といったことです。
 さらに、安全運転管理においても、異常気象時の体制を強化するなど、学ぶべき教訓は多々あるように思われます。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
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第74回
仮眠と過労
第73回
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第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
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第67回
スウェーデンとアルコール
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第65回
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第64回
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第62回
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第61回
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第59回
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第58回
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ある学者の死を悼む
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第50回
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第45回
青矢印信号の謎
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第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
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第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
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第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
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第33回
40年の功と罪
第32回
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第31回
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第30回
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第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
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