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最終更新日:2017年10月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その92 交通違反の悪質性
交通リスクコンサルタント 小林 實

事故との親和性

 昔から「交通三悪」という言葉がよく使われますが、これは「無免許運転」「飲酒運転」「スピード違反」の三つのことを指しています。こうした違反行為は、確かに悪質性が高いものといえますが、違反の悪質性を論ずる場合、行為そのものが悪質なのか、それとも行為の結果が重大なのか―というように、「行為」と「結果」とに分けて考えることができます。
 一般的には、「行為」そのものが悪質である場合に「悪質性が高い」と評価されるようです。たとえば、多量の飲酒をして運転し、歩行者にケガを負わせた―というような事例と、赤信号をうっかり見落として交差点に入り、折から進行してきた交差車両と衝突し、相手のドライバーに大ケガを負わせた―というような事例を比べた場合、後者の信号無視に比べ、前者の飲酒運転のほうが悪質性は高い―との評価を受けやすいでしょう。しかし、酒や薬物を摂取した状態で運転する行為と、いわゆる無免許運転という行為を比べた場合では、その悪質性の軽重を決めかねるのではないでしょうか。
 ところで、行為の悪質性を「事故との親和性」という面から考えてみますと、無免許運転の場合、警察に捕まったり事故を起こしたりしたら無免許がばれてしまうので、普段から慎重な運転をしている可能性が高いともいえますから、無免許運転と事故の親和性は意外と低いのかもしれません(亀岡の例のように、夜通し運転を続けた―という無謀な場合もありますが)。しかし、飲酒運転の場合、アルコールの影響でドライバーの心身機能そのものが低下し、運転操作を誤りやすくなっているわけですから、事故との親和性は高いといえるでしょう。

ひき逃げの心理

 ところで、野球に少し詳しい方であれば「ヒットエンドラン」という言葉をご存じでしょう。塁上のランナーとバッターとが「次の打球を打つ」と示し合わせ、ランナーはこれを見越して早めに走塁を始め、うまくいけば一つ先の塁を奪う―という作戦です。実は、英語の“hit and run”には「ひき逃げ」という意味もあり、相手が物であるような「当て逃げ」にもこの言葉を使います。「ひき逃げ」というのは、その動機はともあれ、相手がケガや死亡しているのにその場を離れる―という、きわめて悪質な違反行為です。
 企業の管理者のなかには「うちの社員に限って、ひき逃げなんてするはずがない」と思っておられる方もいるかもしれませんが、たとえば、夜遅くまで残業し、疲れた状態で車を運転して帰っている社員はいないでしょうか? 飲酒運転に比べれば悪質性は低そうな行為ですが、このようなドライバーが、信号待ちのあいだにうっかり居眠りをし、あわててスタートした際に歩行者とぶつかってしまった―としましょう。深夜で周りには誰もいない、もしこの事故が知られたら会社を首になるかもしれない…というきわめて短絡的な動機から、その場を立ち去るケースが現実にあります。
 一方、飲酒運転が厳罰化されて以降、飲酒運転で事故を起こしたドライバーが「ひき逃げ」に走るケースが増えましたが、これについては、いったんその場を離れ、酔いを醒ましてから出頭することで、飲酒運転の厳しい罰則を適用されにくくしよう―というのが、その動機でしょう。
 こうした飲酒運転での「ひき逃げ」と、仕事で疲れた状態での「ひき逃げ」の動機には大きな違いがあるわけですが、結果としてとった「ひき逃げ」という行動は同じです。したがって、企業の管理者は、労務管理もしっかり行い、悪質性が低そうに見える行為にも目を光らせる必要がありますし、飲酒や疲労によって正常な運転ができなくなることをドライバーにしっかり理解させることが重要です。
 近年、企業による重大事故が続発していますが、その背景には、企業の持つ安全力の劣化があります。危険な行為を繰り返しているドライバーがいるのに「何、大したことはない、大丈夫だ」と放置しているようであれば、危険に対する感度が低くなっている証拠です。企業の管理者は、事故にかかわるあらゆる要因を取り除く努力をする必要があり、そのためには、まず管理者自身の感性を高めることが重要でしょう。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
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コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
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第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
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第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
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第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
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