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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その91 見える化
交通リスクコンサルタント 小林 實

現場での問題の早期発見・改善に役立つ

 今の時代、「○○化」という表現が流行っています。「見える化」もその一つで、企業の管理でもよく問題にされます。「見える化」は“可視化”と同じような意味ですが、中身の見えづらい作業を何らかの方法で可視化することを指しており、これにより現場での問題の早期発見・改善に役立てることを目的としています。
 この際、その目的のために作業工程の何を「見える化」し、その結果からどのような対策が打ち出せるのか―を考えて可視化を進める必要があります。たとえば、現場での意識やマインドなど、自己申告による主観的なものを数値化してまとめたとしても、目的を意識しすぎるためにバイアス(偏り)がかかりやすく、客観的な判断材料にならない―という点には気をつけたいものです。
 ところで、「見える化」の手法には以下のようなものがあります。

 (1) ある事象を客観的に数値化する
 (2) 数値化するまではいかないが、流れをイメージするための表示手法(KJ法など)を用いる
 (3) 主観的なもの(心理状態など)を共有化する
 (4) データの採取(アイカメラ、ドライビングレコーダーなど)により、人間の挙動を客観化する

 これは一例ですが、作業者の挙動を分析するため、現場にビデオカメラを設置して撮影したとしましょう。しかし、これでは本当の問題を発見できないことが往々にしてあります。なぜなら、作業者はカメラを意識して「よそ行き」の作業態度をとるからです(ドライビングレコーダーをつけて運転する際にも、しばしば見られることです)。これに対し、作業者に気づかれないよう、隠しカメラなどで撮影しますと、普段の仕事ぶりで作業をしますので、改善可能な要因を発見しやすくなります。また、実際にこの映像を作業者に見せることで相手が気づき、行動が改善できる―というプロセス(流れ)もできるわけです。

医療の分野では「見える化」が効果を発揮

 「見える化」の取り組みで、最も早く、かつ成功したのは医療の分野でしょうか。ドイツの物理学者・レントゲンによるX線の発見は、その後、呼吸器をはじめとする病気の発見に大きな役割を果たしましたし、近年のエコーなどによる可視化は目覚しく、さまざまな症状をとらえることが可能になりました。また、数値化による「見える化」も進んでおり、血液検査での血糖値とか、前立腺がんを調べるPSA検査などがその例です。さらに、遺伝子(ゲノム)が生物の性質を決定していることから、ヒトゲノムなどの解明も重要なテーマですが、コンピュータの関与によって遺伝子の暗号解読が進み、可視化されたことも大きいと思います。このように、過去の医療では問診にしか頼れなかったものを可視化できたことは、医療の急速な進歩と深い関係があるでしょう。
 また、犯罪捜査においても、「見える化」は大いに効果を発揮しています。DNA鑑定はもちろん、最近では、たくさんの場所に防犯カメラが設置されたことにより犯人像が可視化され、被疑者の顔写真か似顔絵にしか頼れなかったころに比べ、その効果は絶大です。

事故の原因を「見える化」して皆で共有する

 一方、道路交通の分野ではどうでしょうか。たとえば自社の社員が交通事故を起こしたとき、物損のような軽微な事故だと、まぁ運が悪かった、今後は気をつけるように…と、あまり深く追究しないケースも多いようです。特に相手の過失が大きい事故の場合、こちらに落ち度はなかった、だから深く原因の調査はしない―となりがちですが、実はこうした事故のなかにも、大きな事故を防止するヒントが隠れている可能性がありますので、これを「見える化」する努力を惜しまないことです。世間の目は厳しく、こちらには落ち度がない事故でも、あの会社はあんなつまらない事故に巻き込まれて…といったことが風評となり、会社のイメージを損なうことにもなりかねません。
 たとえば、人身事故のなかで最も多発しているのは追突事故ですが、警察の事故統計からその原因を見ますと、「前方不注意」や「動静不注視」が圧倒的に多くなっています。しかし、これだけでは、そのドライバーがなぜ前方に注意していなかったのか―といったことまでは読み取れません。だからこそ、自社で起きた事故の原因を徹底して洗い出し(可視化し)、皆がそのことを共有することで事故の風化を防ぐと同時に、決めた対策を実行につなげることが大切であり、この行動変容こそが安全管理の重要なポイントになります。「車間距離をもっとあけろ」とか「運転中は脇見をするな」といった管理者の掛け声ばかりでは、真の安全管理とはいえません。

※KJ法=データをカードなどに記述し、それをグループごとにまとめ図解する問題解決の一手法

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。  

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
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第122回
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第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
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バスの暴走
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オアフ島と交通渋滞
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第115回
安全の費用対効果
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交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
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感電のリスク
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「安全神話」は崩壊したか?
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新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
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なぜゴリラは見落とされるのか
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10年後の交通を読む
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若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
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第78回
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高年齢者の再雇用問題と企業リスク
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