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最終更新日:2017年10月12日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その87 コミュニケーション・ミス
交通リスクコンサルタント 小林 實

課題も多い鉄道の相互乗り入れ

 首都圏では最近、私鉄同士の大掛かりな相互乗り入れが行われています。これは、乗客の乗り換えの面倒をなくすとか、ターミナル駅での混雑緩和を促すといった大きなメリットがあります。もちろん、これを実現するためには、レール幅が共通していること、車両のサイズが同じであること、信号や運転方式などの条件がそろっていること―などが必要です。これらの条件がそろわない場合、たとえば箱根登山鉄道では、レール幅の異なる小田急の車両をそのまま走らせるため、レールをもう一本追加した「三線区間」を設けて対処しています。
 相互乗り入れといっても、多くの場合は車両のみが直通運転で、接続駅では各鉄道会社の乗務員に交代します。また、乗り入れる線路の使用料をどのように分担するか、乗客運賃の精算をどうするか―など付加的な作業も大きな課題ですし、信号方式を統一するとか、車体の走行特性に合わせてホームを改修するなど、お金も結構かかります。
 余談ですが、直通運転で思い出すのは、第二次世界大戦中、ナチスドイツのヒトラーがとった国防上の戦略の一つとして、隣接する国々とのレール幅をわざと違えることにより、他国からの物資の輸送を制限した…というものがあったそうです。つまり、相互乗り入れの逆を行ったわけです。

各社で「鉄道用語」が違う…

 さて、この相互乗り入れによる直通運転は、いくつかの問題を生みました。たとえば、A社の車両を、相互乗り入れしているB社の運転士が運転したとき、ブレーキのかかり具合が若干違う、車両感覚が微妙に違う…といったことがあるそうです。こうした、いわばハード的な問題は、開通前に試運転と称して「慣熟運行」を行うことにより解決しているようです。
 また、ソフト面でいいますと、鉄道会社はそれぞれ独自の「鉄道用語」を使っており、その違いが思わぬミスを招く可能性があります。先日、広島で行われた日本交通心理学会のなかで、「鉄道の相互乗り入れによるコミュニケーションエラー」と題する早稲田大学・高安洋氏らの興味深い発表がありました。
 その一部を紹介しますと、首都圏の私鉄9社のあいだには、用語の違いが結構あるということです。たとえば、「運転間隔の調整のため、駅で停車時間を設けること」を言う場合、「延発」と呼ぶのが4社、「時間調整」が3社、「間隔調整」が1社、「抑止」が1社でした。また、「列車の発着する番線を所定から変更する場合」は、「着発線変更」が4社、「番線変更」が2社、「着線変更」が1社、「該当語なし」が2社となっています(「該当語なし」の2社は、現実にどう対応しているのでしょうか…)。「何らかの理由で列車の運転をやめること」については、さすがに9社すべてが「運休」と言っています。
 これらの用語については、もし誤解をしても大きな問題にはならないかもしれませんが、緊急時の用語の違いは問題となりましょう。たとえば、車両機器から出火して「乗務員が運転台から起電停止を行う」といった緊急事態においては、「パン(パンタグラフ)下げ」が4社、「非常発報」が2社、「該当語なし」が実に3社あります。
 もし、こうした非常事態が乗り入れの起終点駅などで発生した場合、用語の違いが乗務員の対応遅れやミス、いわゆる「コミュニケーション・ミス」を生じさせるおそれもありますので、そのミスを避けるために用語を統一することは有効な手段といえます。

「ホウ・レン・ソウ」でミスを防ぐ

 実は、1977年3月にスペイン領カナリア諸島のテネリフェ空港で2機のジャンボジェット機が滑走路で衝突し、乗員・乗客合わせて583人が死亡した―という事故も、「コミュニケーション・ミス」によって発生したものです。
 この事故が起きる前、近くのラス・パルマス空港が爆弾テロ騒ぎで閉鎖され、ラス・パルマス空港に向かっていた多くの航空機がテネリフェ空港に着陸して待機していました。しかし、待機時間が長引き、多くのパイロットはイライラしていたようです。
 霧で視界が悪いなか、いよいよ離陸の順番がきたKLM機が「当機は離陸準備完了」と管制塔に連絡しました。これに対し、管制官は「了解した」というつもりで「OK」と答えたため、機長は離陸許可が出たものと勘違いし、エンジン全開で離陸に入りました。ところが、滑走路の前方にはパンアメリカン機がおり、その機体に覆いかぶさるようにして激突してしまったのです。
 この「OK」というたった一言によって600人近い犠牲者が出たわけですが、この事故によってコミュニケーションの重要性が再認識され、その後の航空用語の改正につながりました。
 鉄道でも、こうした「コミュニケーション・ミス」による事故が起きています。「もう電車は終わったかい?」と作業現場の上司に問いかけられたある作業員が、すでに最終電車は通過していたために「終わりました」と答えたところ、そのあとやってきた保線工事の車両に作業員がひかれてしまったのです。
 このように、「コミュニケーション・ミス」は思わぬ事態を招くことがあります。企業の安全管理でもよく言われる「ホウ・レン・ソウ」、つまり、報告・連絡・相談を密に行っていれば、お互いのコミュニケーションが促進され、組織の風通しもよくなり、多くのミスや事故を防ぐことができるでしょう。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959 年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。 

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