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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その85 ハイブリッド
交通リスクコンサルタント 小林 實

ガソリンと電気の両刀遣い

 最近では、「ハイブリッド」という言葉もすっかり世の中に定着した感があります。今、市場をにぎわしている「ハイブリッドカー」などはその代表格といえましょう。エンジンの回転力を直接動力とするのに加え、エンジンで発電機を駆動して発電した電力をバッテリーに蓄え、その電力でモーターを駆動するという、いわば「ガソリンと電気の両刀遣い」です。ガソリン車に比べて燃費が良いことから、マーケットで高い評価を得ています。
 この「ハイブリッド」という言葉は、二つまたはそれ以上の異質のものを組み合わせて、一つの目的を達成することを総称したもので、語源はラテン語のHybrida、つまり、家畜のブタと野生のイノシシを交配して生まれた「イノブタ」だそうです。
 日本で「ハイブリッド」という言葉が使われ始めたのは、1960年から70年代にかけて、「ハイブリッド計算機」なるものが登場したときのようです。そして80年代には、日本の時計メーカーが「ハイブリッド時計」を発売しました。針が動くアナログ時計に、数字表示の「デジタル時計」を組み合わせたもので、これも結構はやりました。当時ドイツでは、数字のみのデジタル時計は小学生に持たせないように―という指示があったようですが、デジタル時計では引き算ができなくなる、出た数字を単に読むだけで「何時何分前」という概念が育たない―という理由があったようです。つまり、頭のなかで一度考える、反芻するというアナログ的な思考パターンが重要ということでしょう。

運転行動も「ハイブリッド処理」で成り立つ

 ところで、運転行動というのは「認知」-「判断」-「操作」の3つの要素の繰り返しによって成り立っている―とよく言われます。「認知」は主として視覚に頼っていますが、生理学的に説明すると、網膜に映った像が、約80万本あるといわれる視神経を介し、大脳後頭葉の「視覚中枢」と呼ばれる部位に運ばれることによって認知されるわけです。これは、ある意味「デジタル情報」といえるものでしょう。
 最近の学説によると、この80万本の視神経で形成された画像はかなり荒く、視神経1本当たり1画素、合計で約80万画素程度の画像でしかない―と言われています。そこで、これを瞬時に補正して鮮明な画像とし、この画像(場面)に対してどうするか…を大脳前頭葉で「判断」するわけです。いくつかの選択肢のなかから自分にとってベストの判断を下すのですから、これはある意味「アナログ的な情報処理」といえるでしょう。しかも、判断のプロセスには、自分の持っている感情であるとか、気分とかいったものが影響しますから、ちょっと頭のなかを横切った別の情報が判断を妨げ、これを遅らせる―ということは、ままあることです。
 繰り返しますと、認知機能はデジタル的な情報処理が主流ですが、判断機能は、むしろ全体的にものを考えて処理をする―というアナログ的なプロセスです。そして、最終の「操作」段階において、いわば「ハイブリッド的な処理」を行っているわけです。大脳は、左脳と右脳とに分かれていて、左脳は論理的に物事を処理し、右脳は直感的・総合的にものを見る―というように機能を分担しているそうですが、まさに運転におけるアナログとデジタルの情報処理に即しています。

全体的に情報を把握することが重要

 デジタルといえば、毎日コンピュータを駆使して作業をするシステムエンジニアたちは、絶えずデジタル情報に接しているからか、車の運転の際にも「見えていないものはそこに存在しない」というような、短絡的というか、デジタル的な情報処理をすることがある―と言われています。そのためか、通勤時に見通しの悪い裏道の交差点などで事故を起こすことがあるようです。
 下の図1を見てください。このトランプを「ダイヤの4」だと判断するのはデジタル的な処理ですが、もしかすると指の後ろにダイヤのマークが隠れているかもしれない…と見るのがアナログ的な思考です。また、図2では、誰が見ても「ダイヤの6」だと思うでしょうが、もしかすると指の後ろにはダイヤマークが描かれていないかも…と疑ってみることも大切でしょう。もちろん、現実にこんなトランプは存在しませんが、このように何事も疑ってかかることで、思わぬ事故を回避できることもあります。
 

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 今やインターネット上では、wikipedia(オンライン百科事典)をはじめとして、何でも素早く情報が手に入ります。しかし、それはかなり表面的で断片的な情報であり、一方的に情報が与えられているだけ―とも言えるでしょう。一方、分厚い百科事典などのなかから必要な情報を自分で探し出す―という行動は、手間はかかるものの、より積極性が高く、しかも関連性のある事項を見つけることが容易であり、インターネットの情報よりも「深み」があります。
 運転の場においても、アナログ情報とデジタル情報とをうまく組み合わせてハイブリッド化し、うまく活用することが大切でしょう。おそらく本物のプロドライバーは、場面場面の細かい点にだけとらわれず、全体的に情報を把握しながらハンドルを握っているはずです。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

  1959 年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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タイヤ以外、何に触れても事故である
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