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最終更新日:2017年5月23日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その84 「運転技能」について
交通リスクコンサルタント 小林 實

無免許運転が横行

 一口に交通違反といっても千差万別で、「静的違反」と称する駐車違反のような軽微なものから、「動的違反」と称する運転中の違反行為を問われるものまでがあります。よく「交通三悪」と言われますが、これは、重大事故につながりやすい違反である「無免許運転」「飲酒運転」「著しいスピード違反」を指します。
 ずいぶん前のことですが、交通違反の悪質性に関する調査を行ったことがあります。駐車違反の悪質性を「1」としたとき、ある違反がどれくらい悪質なのか—を検証したわけですが、結果はきわめて当たり前ですが、例えばウイスキーを大量に飲んで運転した場合や、40キロの速度超過をした場合などは、きわめて悪質性が高い—という結果になりました。こうした違反はきわめて悪いことと皆さんもわかっているはずなのですが、それでもこれを犯す人が少なくありません。
 こうした交通三悪のなかで、「無免許運転」が相も変わらず横行していることには、「見つからなければよい…」という安易な心理が働いているとしか思えません。例えば、免許試験に落ちてしまったが、教習所で運転のノウハウは習得している—とか、免許を取得できる年齢より前から車を運転しており、免許を取らないまま運転を続けている—といった、いわば「確信犯」のケースも結構あるのではないでしょうか。
 当初は「悪いことをしている」という意識で、かなり慎重に運転していたのかもしれませんが、次第に「自分は無免許運転をしている」といった罪の意識は薄れてしまうのでしょう。飲酒運転やスピード違反などの取締り現場では免許証を確認しますが、そうした取締りに引っかからない限り、無免許運転の摘発は難しいことも事実です。

無免許なのに「技能を有する」とは…

 無免許運転といえば、昨年4月、京都府亀岡市で無免許の少年が運転する車が集団登校中の児童の列に突っ込む—という事故がありました。この事故は、少年が前日の未明から長時間にわたり軽乗用車を運転し、30時間以上のちに居眠りをしたまま、狭い道路を時速50キロ以上というスピードで暴走したことによって発生したものですが、京都地検が「危険運転致死傷罪」の適用を断念したことに対して、遺族らから猛烈な反発がありました。10人もの人を死傷させた犯人への怒りは当然ですし、到底納得できない判断をした地検への反発もあったのでしょう。
 京都地検は、無免許とはいえ過去に運転を繰り返していたことから、少年は運転技能を有しており、「危険運転致死傷罪」の適用条件の一つである「未熟な運転技能」を満たしていない—と判断したわけです。また、京都地裁も、居眠り運転を「過失」と判断し、求刑5-10年に対して、5-8年の不定期刑を言い渡しました。
 我々、安全を管理する立場からすれば、運転技能というのは、単に「車を操縦できる」ことだけで成り立つものとはいえません。道路交通法97条の2によれば、教習所において技能検定に合格すれば、技能試験は免除する—とされていますが、もし、この少年が教習所で適切な教育を受けていたとすれば、このような無謀な運転行動には出なかったかもしれません。

運転のスキルには、意識や態度も重要

 下の図は、運転教育に要する時間とその難しさの関係を示したものです。まず運転の「知識」があり、ついで「技能(身構え)」、さらに「運転態度(心構え)」で成り立っています。まず、運転の基本である「知識」が、この少年にはあったのでしょうか。仮にあったとしても、自己流に構築されたものでしかありません。次の「技能」についても、その幅は狭いでしょう。さらに「運転態度」というものは、仮に本人がその重要性をわかっていたとしても、「やらない」という方向に傾きやすいものです。
 こうした点から、無免許運転を繰り返していたことで技能を有する—とした地検の判断は、非常に短絡的といえるのではないでしょうか。運転のスキルというのは、単にテクニカルなスキルだけでなく、意識や態度といった広範囲のものを含めてのスキルだと、我々は考えます。
 現在、国会で審議中の新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の案によれば、無免許運転で事故を起こした者に対する最高刑を引き上げるということですから、こうした事故の再発に歯止めがかかることをぜひとも期待したいものです。また、刑期を終えたこの少年が、また無免許運転を繰り返すかもしれない…という再犯の可能性があることも忘れてはならないでしょう。

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筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

  1959 年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
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第62回
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第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
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企業も頑張っている!
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うどん文化と運転
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青矢印信号の謎
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「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
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第33回
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第32回
キャリーバッグと事故
第31回
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第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
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第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
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第06回
イタリアとリスク
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ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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