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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その83 金魚のフン
交通リスクコンサルタント 小林 實

 

交通場面での同調行動

 皆さんもご存じのとおり「金魚のフン」というものは、ぞろぞろと長く連なっています。その様子から、えらい人のあとにくっついていく人のことを「金魚のフンみたい」と言ったりします。
 交通場面に目をやると、交差点での車の挙動がこの様子に似ています。例えば、交差点で右折待ちをしている車が、青もしくは青矢印の信号がすでに消えているのに、前の車の動きにつられてぞろぞろと右折を続ける光景は、まさに金魚のフンのようです。この現象は、トラックのような大きな前の車にさえぎられて信号が視認できない場合に、よく見られます。
 この場面において、交差道路の車両は、すでに前方の信号が青になっているわけですから、発進・加速します。当然、交差道路から右折してくる車両はいない…と判断していますから、こうした違反行動をする車両がいると攻撃的になり、一方、右折中のドライバーには危ないことをしているという認識がないため、お互いが錯綜して危険な場面をつくり出しやすいのです。こうした金魚のフンに似た現象は、社会心理学でいうところの一種の「同調行動」と言えるでしょう。

甘い判断が大事故の原因に…

 まだ記憶に新しい2月12日の夕方、兵庫県高砂市の山陽電鉄で起きた踏切事故は、特急と自動車運搬用トラックが衝突して電車が脱線し、15人もの方が重軽傷を負った—という大きな事故でした。事故現場となった踏切の先には信号があるのですが、踏切から信号までの距離は10メートルほどで、車2台分のスペースしかなかったことは、トラックのドライバーもわかっていたようです。
 トラックのドライバーは事故直前、踏切前方の信号が黄色点滅に変わったため、前の車が進むと判断して見切り発進し、踏切内に進入しました。ところが、前の車が信号で止まってしまい、トラックは荷台部分が踏切から抜け出せず、荷台をまたぐようなかたちで踏切の遮断棒が下りてしまいました。本人は機転を利かせたつもりだったのでしょうか、このままでは立てた状態のスロープが遮断棒に引っかかると思い、スロープを倒してすり抜けようとしたのですが、折からやってきた特急電車がスロープ部分に激突した—というわけです。
 もし、危機一髪この事態が回避されたとすれば、さすがプロドライバーだねと言われたかもしれませんが、前の車の動向を確実に把握することはプロにとって必須であり、まして踏切でのこうした甘い判断が大きな事故の原因となることは、当然認識しておかなければなりません。前の車が進むと安易に判断して、軽い気持ちで踏切に進入したのであれば、プロとしては極めて軽率な判断と行動です。いつもと同じように走っていれば大丈夫…といった行動パターンが自主的な判断を押しやったわけで、これはまさに金魚のフンと同じ「同調行動」といえます。
 また、「赤信号、皆で渡ればこわくない」という俗語のように、集団の力で違法行為をすることも、ある意味で「同調行動」といえるでしょう。例えば、高速道路で渋滞するとイライラするのでしょうか、路肩を勢いよく走る車を見かけます。ことに大きな外車などが路肩走行をし始めると、イライラした集団が我も我もと違反行動に出始めます。もちろん、すべてのドライバーがやるわけではなく、大方の善良なドライバーは「あいつら、捕まればよいのに」と一種のひがみと期待をもちながら、これを眺めているわけですが…。

人間の衝動性を重視すべき

 交通場面には、気象条件や路面状況など、環境のなかだけでも不確定な要素が多く、それに対応するドライバーの行動も不確定です。この不確定な要素を見つけ出すことを怠るか、仮に認識していても「まぁ大丈夫、皆がやっているからこのくらい…」と思ってしまうと、セルフコントロールが難しくなります。人間は、危険への感受性が鈍ったとき、事故に遭遇しやすい—と言われており、その一つの要因として「同調行動」というか、付和雷同的な行為が挙げられます。つまり、自主的な判断をせず大勢に盲従することが、事故の大きな引き金になるのです。
 ところが、今日の安全教育、例えば危険予知訓練といったもののほとんどは、理性をもって論理的に解釈するように構築されており、人間の感情といったものを排除したうえで、合理的に行われています。しかし、「同調行動」のような人間の衝動性、つまり、人間の感性のレベルを重視しない限り、こうした事故の再発防止は難しいでしょう。言うならば、個々に存在する危険を読みとり、これを自分のものとして体感し、行動を抑制する機能が必要になってくるわけです。このあたりに、安全運転管理のカギが潜んでいるのではないでしょうか。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959 年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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