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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その82 5回のなぜなぜ
交通リスクコンサルタント 小林 實

より深く原因を掘り下げる

 トヨタ自動車の大野耐一氏が考案したといわれる「5回のなぜなぜ(なぜなぜ分析)」は、企業管理の手法としてよく話題になります。これは、ある事象の根本的な原因を究明するひとつの手法であり、1、2回の“なぜ”の繰り返しで終わらずに、さらに“なぜなぜ”を繰り返して原因を深掘りするやり方です。トヨタの「カンバン方式」などと連動した品質管理の手法として、トヨタの世界中の事業所で広く活用されているようです。これは、“なぜ”の回数を5回に限定するものではなく、より深く原因を掘り下げるという意味で用いられていると考えればよいでしょう。
 この手法は、製品などの欠陥探しのための「固有の技術」ではなく、企業における「管理技術」の欠陥を見いだし、それに対する対策を立てることにその狙いがあります。ここでいう「固有の技術」というのは、例えばバッテリーの過熱によるトラブルが発生したような場合、その原因を追究するにあたり、修理マニュアルを再チェックする形でこれを行うことを指します。したがって、管理体制やシステムといった問題は含まれません。
 さらにわかりやすく説明すると、会社でAさんがよく遅刻をしているとしましょう。「なぜ遅刻したのか?」→「朝起きるのが遅かったから」→「なぜ遅かったのか?」→「最近、よく眠れないから」→「なぜよく眠れないのか?」→「残業が多すぎるから」となった場合に、「では、今日は早く帰って体を休めましょう」という結論に達したとします。確かにこれでAさんの疲れは一時的に解消して一件落着となるかもしれませんが、これでは、この事象に対する根本的な対策とはなり得ません。なぜなら、同じような遅刻が再発する可能性がまだ残っているからです。つまり、管理上のリスクは残っていることになります。

「もぐらたたき」では根本的な解決にならない

 これと同じようなことは、交通事故の場合でもいえるでしょう。例えば、Bさんが大きな追突事故を起こして会社に多大な損害を与えた—というような場合です。「なぜBさんは追突事故を起こしたのか?」→「Bさんは普段から車間距離が短かったから」→「なぜ車間距離が短かったのか?」→「運転に自信があるので大丈夫と思った」→「なぜ大丈夫と思ったのか?」→「運転を軽く見ているから」となった場合に、「二度と起こすな!」とBさんを厳しく叱責する—という結論に至ったとしましょう。これでは、Bさんの個人的な資質を問題とする、いわゆる「もぐらたたき」になってしまいます。つまり、一過性の改善でしかなく、根本的な解決策とはいえませんし、Bさんがまた同じような事故を繰り返す危険性も残ります。
 これはセールスの現場でよく出る例え話ですが、売り上げが低下したような場合に、「なぜある製品の注文量が減ったのか?」→「C社からの注文が減ったから」→「ならばC社に強く攻勢をかけることが必要だ」という結論に至ったとしましょう。しかし、これは単に外部の事情によって結果がそうなったからにすぎません。そうではなく、「会社の管理システムに何かまずいところがあったのではないか?」「そのために売り上げが減ったのではないか?」というように、管理システムの不備や欠陥を追究してこれを是正することが「なぜなぜ分析」の真の目的ということになります。
 この手法が、いわゆる人間的な要因、よくいう「ヒューマンエラー」の分析に極めて適している—という人もいますが、先の例のように「もぐらたたき」に終始するようであれば、真のヒューマンエラーの分析は容易でないことがわかります。例えば「うっかりしたのはなぜか?」と問えば、その人の個人的な特性に進むことになります。そうではなく、「うっかりすることによりトラブルを起こしてしまうのはなぜか?」と問うことによって、それに対する防止策、ことにハード的な対策が浮かび上がってくるはずです。

「結果指向型」では危険意識を喪失させる

 「なぜなぜ分析」では、下の図でいう右端の「対策指向型」が望ましいわけですが、途中から枝分かれして対策をトップダウンで行い、これによりルールを改正したりする「結果指向型」になると、皆の総意が反映されていないため、上からの一方的な指示に従うばかりで、ルールさえ守って違反しなければいいのだ—といった一過性の改善措置に留まる懸念があり、必ずしも適当とはいえません。もちろん「責任追及型」に見られるもぐらたたき方式よりは優れていますが、これらの対策は、よくいわれる「タイタニック症候群」(前回を参照)を招き、危機意識の喪失を発生させる温床となることもあります。
 ただ、「対策指向型」が望ましいとはいうものの、原因が「企業の管理体制」や「経営者の理解不足」、「人材不足」というような表面化しにくいものであったり、結論となる対策が直ちに実施することが難しいものであった場合、折角の対策が実施の段階で頓挫することも往々にしてあることにも留意したいところです。

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筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)

 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所 勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
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第134回
沈着な判断と行動が鍵
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忖度こそ安全マナー
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タイヤ以外、何に触れても事故である
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