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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その81 天井板崩落事故に学ぶ
交通リスクコンサルタント 小林 實

「劣化」という現象は絶えず起きている

 警戒標識のなかに「落石のおそれあり」というものがあります。山道などでよく見かける標識ですが、あの標識が示す意味はなかなか難しい感じがします。描かれている絵からすると「上から石が落ちてくるかもしれないから気をつけよ!」という印象が強いのですが、このほかに「落ちた石などが道路上に散乱しているかもしれないから気をつけよ!」という意味もあるでしょう。運転中、「いつ石が落ちてくるか…」と上のほうばかり気にしていては、前方への注意がおろそかになって安全運転などできなくなりますから、「落ちた石などが道路上に…」のほうが実態に近いといえます。なお、警察庁が出している英語版の「交通の規則」には“Falling or Fallen Rocks”(落ちてくる、もしくは落ちている岩石)と記されています。

rock.jpg

 

 落下といえば、先日、中央自動車道の笹子トンネルで天井板崩落事故が発生しました。たまたまそこに居合わせた方々には大変お気の毒な人災で、奇跡的に天井板の崩落を切り抜け、かろうじて脱出された車もありましたが、9人もの方が犠牲となりました。日曜日の朝、上り線での事故で、交通量もそれほど多くなかったことだけが不幸中の幸いでした。詳しい原因は目下調査中とのことですが、天井板をつり下げるボルトが脱落するなどまったくの人災事故であり、高速道路会社の管理責任が問われるケースです。
 昨年、新東名という高規格の高速道路も開通しましたが、こうしたハードの進化とともに「劣化」という現象も絶えず起きていることを、道路管理者は常に心に留めておくべきでしょう。笹子トンネルは、中央道の開通以来すでに30年以上も経過しており、当然、通常の点検は行われていたはずです。しかし、打音検査といった伝統的というか、かなり原始的な検査法でチェックが行われていたようであり、また、それすらも行わず双眼鏡を使った目視チェックで済ませていたこともある—ということで、このあたりにハイテクを活用することはできなかったのか…と素人目には映ります。当然、天井板崩落事故は他の古いトンネルでも起こり得ますし、ましてや壁面コンクリートの崩落事故などは、さらに可能性が高いと思われます。

便利さにかまけた人間は退化する

 5年ほど前になりますが、アメリカ・ミネソタ州のセントポールとミネアポリスという二つの町をつなげる8車線道路の橋が崩落した事故は、テレビのニュースでも崩落の瞬間をとらえた映像が流されましたので、皆さんのご記憶にあるかもしれません。これは当時、「クルマ社会・アメリカ」に対する警鐘として受け止められました。
 この橋は完成から40年で、まだ耐用年数内だったにもかかわらず、なぜ崩落したのでしょうか? 交通量が多く、重い車両も通過していますので、それによる振動も原因として考えられます。アメリカでは30年ほど前から、現在の道路インフラがすでに老朽化している—という警告を交えた報告書が出されていたのですが、それを軽視した結果といえるでしょう。
 うがった見方をすれば、当時のブッシュ大統領の目がイラク戦争に向きすぎて、それに膨大な予算をつぎ込み、国内のインフラ整備に手が回らなかった結果だ—と言えるかもしれません。日本ではあまりお目にかからない構造の橋脚部分から、何らかの原因で崩落したわけですが、NTSC(国家交通安全委員会)の調査によると、アメリカ全土で要注意の橋脚が200カ所もあるといわれており、リスク管理の不十分さが露呈しています。
 わが国でも、阪神淡路大震災のときに阪神高速道路が倒壊したことは記憶に新しいところです。東京の首都高速道路も、東京オリンピックの際に建設された区間が多く、すでに相当の時間が経過しており、最近、補強工事があちこちで行われています。鉄道においても、高度成長末期に建設された山陽新幹線のトンネルのコンクリートには、除塩されていない海砂が混ざっているとも言われ、これが鉄材に錆を生じさせ、トンネル崩落につながるのではないか…と懸念されています。また、6年ほど前に大阪のエキスポランドで発生したジェットコースター事故は、長年続いた無事故による過信から定期点検を怠ったことが事故の原因となりました。
 このように、安全管理のうえで最も恐れられているのは「タイタニック症候群」だと言われています。これは、文明が進化するとともに、そのリスクも人間の気づかぬうちに進化する一方、便利さにかまけた人間サイドは退化する—という現象ですが、われわれの目が届かないところで事態の悪化が着々と進行している…ということを、今回の天井板崩落事故は証明しています。

トンネルに進入するときは緊張感をもつ

 笹子トンネルでの事故以来、高速道路でトンネルに差しかかると、何となく不安を感じて緊張します。トンネルという閉鎖空間で、しかも長大トンネルとなれば、仮に崩落の直撃を避けられたとしても、避難誘導時にはかなりの混乱が起きるでしょう。これが事故でなくとも、トンネル内で車が故障すれば第2の災害を誘発しますし、長いトンネルでは、徒歩で出入り口に到達するまでに相当な時間が必要です。それゆえにドライバーは、漫然とトンネルに進入するのでなく、「何かあると大ごとだぞ!」という緊張感をもって運転してほしいと思います。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
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タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
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第122回
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第121回
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第120回
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なぜゴリラは見落とされるのか
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