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最終更新日:2017年6月19日

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交通安全時評

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クルマは今日も走っている ノンフィクション作家 矢貫 隆 第79回 簡単な安全対策があるというのに、いまだに右直事故の割合が変わらず多いのは何故?

深刻かもしれない…

 事故発生から間もないと推察できるその現場を自転車で通りかかったのは、ダイエット目的で皇居外周ジョギングにでかける途中、夜の9時少し前のことだった。
 本題の前に聞いてもらいたい。つい先日、紅葉真っ盛りの高尾山にハイキングにでかけ疲れ果ててしまった。南アルプスの山歩きが趣味のこのボクが、どうして標高600メートルの高尾山で疲れてしまうの? 体重の急激な増加が原因だった。ならば、と、さぼっていたジョギングを再開。「形」重視だから「ジョギング=皇居外周」となり、自転車で向かったというわけである。
 話を戻そう。
 目撃した事故の現場は東京の北の外れに近い、片側3車線の、埼玉県へと続く主要幹線道路の信号機付き交差点である。ボクがそこに達したとき救急車の姿はすでになかったけれど、赤色灯を回転させた2台のパトカーが停まっていて、警察官たちが事故処理と交通整理にあたっていた。
 交差点の端には左側面に衝突痕を残したタクシーが停まっている。少し離れた場所には、無残な格好に姿を変えたオートバイが転倒したままの状態で置かれていた。その位置関係は、そこで発生した事故が典型的な右折時側面衝突(=右直事故)だったという事実をボクに教え、埼玉県方面から走ってきたタクシーが交差点を右折しようとし、そこに、対向してきた直進のオートバイが突っ込んだのだと、事故に至った構図までもを示しているようだった。オートバイを運転していた人が負ったであろう傷の程度は深刻かもしれないと感じた。そしてボクが、その結果をタクシー業界誌の記者から知らされたのは数日後のことである。
「結局、死亡事故になってしまった」

気がついたときには目の前に…

 この事故と同様の、タクシーとオートバイが衝突して死亡事故に至った右直事故を取材したことがある。
 原付車を含む二輪車事故が多発していた時代だから25年以上も前のことだ。当時20歳のライダーが死亡したその事故は、夜の11時を過ぎたころ、東京の西の外れで起こったものだった。事故から数カ月後、ボクは一方の当事者となったタクシー運転手本人から事故状況を聞きだしている。以下はそのときの取材メモの一部だ。
「青信号だったので右折しようと対向車線を確認した。5台くらいのクルマが走ってくるのが見えた。その先頭からクルマ3台分くらい前に2台のオートバイが走っているのも見えていた」
 このメモの横に、ボクは「運転手は距離を見誤った」と書き込んでいる。
 運転手の証言が続く。
「対向してくるオートバイの進行をじゃましないで十分に曲がれると思って右折を始めた。そして反対車線を遮るような位置まできたとき『ドーン』という音が聞こえた。さっき確認した2台のオートバイが事故を起こしたんだと思った。その瞬間は、自分のタクシーに衝突したとは考えもしなかった。でも、すぐに事故は自分のクルマだとわかった。乗っていた乗客も前方から走ってくるオートバイの姿を確認していて、事故直後に『楽に曲がれると思ったのに』と驚いていた」
 ピークは過ぎていたはずだがオートバイブームはまだ続いていて、多発する二輪車による重大事故が社会問題化した時代だったのを思いだす。あのころ、ボクは何件もの二輪車がらみの右直事故を取材し、相手方となった運転手(=右折した側)から話を聞き、そのたびに、彼らの口を突いてでる同じ言葉を耳にしたものだった。
「安全に曲がれると思った」
「気がついたときには、もうオートバイは目の前にいた」
 右折しようとする側のドライバーは、対向車線を走ってくる二輪車との位置関係から、つまり、真正面から直進してくる二輪車との位置関係から、対向してくる相手との距離や相手の速度を正確に把握することが難しい。二輪車の位置が実際よりも遠くに見え、速度も遅く見えてしまう(当の本人はそのことに気がついていない)。ましてや夜間ともなればなおさらだ。だからこそ、当事者となった運転手は、口をそろえたように同じことを言うのである。
「安全に曲がれると思った」
「気がついたときには、もうオートバイは目の前にいた」——と。
 右直事故に至るこの発生メカニズムは、あの時代に広く知られるようになった(少なくともボクはそう思ってしまっていた)はずなのに、それでも右直事故は、いまも起こり続けている。冒頭の事故がその現実をボクに教えていた。

右直事故の対策は単純明快

 3年近く前の本項(第45回)で、『事故の形態や発生場所はずっと変わらない』という記事を書いたのを思いだした。車両相互の事故で最も多いのは追突、次いで出会い頭衝突、発生地点は「交差点と交差点付近」と書き、ずっと昔から変わらない「これら一連の割合を大きく変えることができたら、交通安全問題は、きっと劇的な変化を見せるに違いない」と書いた、あの記事である。
 右直事故も「昔から変わらない」事故形態のひとつである。
 交通事故の減少傾向に伴い絶対数こそ減ってはいるけれど、右折時の事故が車両相互の事故の10パーセントほどを占め、そのほとんどが右直事故であるというのは昔も今も変わらない事実だし、二輪車の死亡事故の多くが右直事故によるものだという事実にしても同様だ。けれど、それでもボクは「何で!?」と言わずにはいられないのである。
 追突と出会い頭衝突が交通事故の多くを占めていることには「なるほど」と思えなくもない。事故の多くが交差点と交差点付近で起こっているのは「そうだろうな」と思う。だからこそ3年前にあの記事を書いたのだ。けれど、右直事故に関しては「なるほど」とも「そうだろうな」とも、どうしても思えないのである。
 だって、右直事故の発生メカニズムは単純明快。その対策もまた単純明快で、誰もが簡単に実行できるのだから。
 右折時のボクは、対向車がやってくるとき、特にそれが二輪車であるとき、「この距離なら右折しても大丈夫だろう」と思っても決して右折を開始しない。「この距離なら絶対に大丈夫」と判断した場合でも右折を開始しない。とにかく対向車が通りすぎるのをひたすら(と言っても、ほんの短い時間でしかない)待つ。それが唯一で絶対に確実な右直事故対策だからだ。
 これほど確かで簡単な安全対策が存在するというのに、いまだに右直事故の発生割合が変わらずに多いのは何故?

 

筆者プロフィール

矢貫隆(やぬき・たかし)
 1951年栃木県生まれ。龍谷大学経営学部卒。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど多数の職業を経て、ノンフィクション作家に。国際救命救急協会理事。交通問題、救急医療問題を中心にジャーナリスト活動を展開。『自殺─生き残りの証言』(文藝春秋)、『交通殺人』(文藝春秋)、『クイールを育てた訓練士』(文藝春秋)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、『救えたはずの命─救命救急センターの10000時間』(平凡社)など、著書多数。

 

 

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第38回
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第37回
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第36回
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第35回
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第34回
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第33回
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第32回
飲酒運転をする不埒なやからには疑似「怖い体験」をさせるのが一番だ
第31回
路上で倒れ込んだボクの脳裏には救急患者に関するあるデータが浮かんでいた
第30回
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第29回
客探しに目が向かう空車タクシー、その速度は高すぎる
第28回
無謀運転のスポーツサイクル乗りが今、街で増え始めている
第27回
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第26回
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第25回
絶大な効果があるAEDも、活用しなければ宝の持ち腐れだ
第24回
「安全な自転車」の開発は自転車の多様化に拍車をかけるだけ!?
第23回
迷走する自転車の安全対策、本当に重要な問題を見極めるときだ
第22回
救急車の安易な利用が増え続ければ「有料化」が現実になるかもしれない
第21回
事故死者をさらに減らしていくために死者激減の「わけ」を早急に解明すべきだ
第20回
街路灯の整備は絶対に必要だけど、現実を考えて自衛しよう
第19回
運賃値上げのない地域にタクシー戦争あり、事故増加につながる危険性
第18回
事故が減るとか増えるとか、昼間点灯だけで交通安全をかたるのは間違いだ
第17回
AEDは救命率向上に大きな効果があるが、使えば必ず命が助かるわけではない
第16回
ツーリング中の中高年ライダーはこまめに休憩をとるべきだ
第15回
いつ発生するかわからない巨大地震にドライバーはどう対処すべきか
第14回
骨抜きにされた「運転者登録制度」では、規制緩和後の「タクシー問題」を解決できない
第13回
多くのドライバーは自転車の特性を理解していない、そのことを頭にたたきこんでおくのは重要だ
第12回
死者激減の原因を合理的に説明できない限り、根本的な安全対策を講じることはできない
第11回
規制緩和それ自体が悪いとは思わないが、そのしわ寄せを運転手に押し付けてはならない
第10回
「ここにAEDがあるぞ」と大勢の人に知ってもらう方策を考えるべきだ
第09回
事故死者数を減らすことは重要だが、それと個人の意思は別問題だ
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自転車の走行環境とルールの整備という問題は、大きなテーマになっていくような気がする
第07回
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飲酒が運転に与える悪影響をドライバーに体験させる必要がある
第04回
高度な機械の導入など、莫大な金をかけて高齢者講習の充実を図るべきだ
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第01回
近ごろの無法・無謀自転車問題の本質は、自転車に限らない安全教育の問題なのでは?

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