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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その79 安全管理の格付け
交通リスクコンサルタント 小林 實

客観性に富んでいる「会社の格付け」

 世間にはいろいろな「格付け」というものがあります。会社の格付けには、例えばスタンダード・アンド・プアーズといった格付け会社によるランク付けがありますが、経済危機が叫ばれているギリシャの企業の格付けは、どこも悪い評価になっています。この格付けは、会社の資産や運用益といった数字を対象として行いますので、ある意味、客観性に富んでいる—といえるでしょう。
 ホテルやレストランの格付けには、有名な「ミシュランガイド」があります。ミシュランはもともとフランスのゴム製造会社で、はじめは自転車のタイヤを製造し、その後、自動車用タイヤへと進出したのは、イギリスのダンロップと同じ道筋です。ダンロップに一歩先んじたのは、自転車タイヤの交換の手間を省くリムの開発でした。現在、ミシュランは世界第2位のタイヤメーカーとして君臨しています(1位は日本のブリヂストン)が、ラジアルタイヤを主力とし、主なマーケットは欧米です。
 このミシュランが、ヨーロッパ各地のホテルやレストランを評価した「ミシュランガイド」を刊行したのは1900年のことです。タイヤとガイドとは一見関係がないようですが、車を使う人口が増え、タイヤの需要が高まるなかで、人々はこのガイドブックを手にクルマでヨーロッパを走り回る—というわけです。ミシュランは、その評価にあたって、いわゆる覆面調査員なるものを使っています。ごく限られた人数の調査員の評価ですから、その格付けはある意味できわめて個人的・主観的なものであろうかと思いますが、もちろん、いろいろな項目についての綿密な調査ですから、ミシュランガイドの評価は高いのでしょう。

安全管理の多くは内部監査…

 安全管理の分野でも、最近いろいろな格付けをやっています。例えばISO認証だとか、貨物運送事業者のGマーク認定などです。安全管理でいうPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Act=改善)サイクルのC(チェック)の段階が、いわば「評価」なり「監査」に相当するわけですが、その多くは内部監査であり、外部の手による監査は少ないのが現状です。例えば、ミシュランの覆面調査員がやるような調査ができれば詳細な内部事情なり質的な評価が浮き彫りになるのですが、現実には不可能です。
 しかし、会社を外から眺めることは可能であり、例を挙げると、社員の駐車場での車の止め方や、トラックなどの事業用車両の傷み具合などです。きちんとクルマを止めているか、事故や接触による車体の傷はないか—などは観察可能ですし、トラックの車内をのぞいてみれば、乱雑に重要書類を積みっぱなしにしていないか—など、安全管理の一端をうかがい知ることができます。また、朝の出庫時に一時停止を励行しているか、シートベルトをきちんとしているか—なども観察可能です。また、会社の幹部が現場に出向いてチェックしている—といった企業は、おそらく評価点が高くなるでしょう。

「運輸安全マネジメントシステム」が効果を発揮

 ところで、国土交通省は平成18年、いわゆる緑ナンバーの運送事業者に対して「運輸安全マネジメントシステム」なるものを導入しましたが、導入2年後に一つの変化が見られました。下のグラフは、事故による保険金支払い件数を契約台数で割った発生割合の推移を車種別に示したものです。例えば営業用普通貨物車では、平成19年に17%だったものが翌20年には14%強と、3ポイント近く低下しています。営業用小型貨物車や営業用バスも同様であり、徐々にではありますが、運輸安全マネジメントシステムが効果を発揮している感じです。
 一方、営業用乗用車、すなわちタクシーでは発生割合が増加していることがわかります。このグラフでは、事業所の規模別はわかりませんが、タクシーの場合、全社的な安全への取り組みが難しい環境であることや、規模の小さい事業所が多いことなどが、こうした傾向に影響していると思われます。
 この運輸安全マネジメントは、PDCAサイクルを回してスパイラルアップすることを目指していますが、このなかで、会社のトップの安全に対する意識とか、安全宣言といったものが評価の一つのポイントになります。しかし、評価や監査の段階では、意識が高いか低いか、安全宣言をやっているかいないか—というように、いわばイチかゼロかの評価に終始しているのが現状です。ミシュランの格付けではありませんが、彼らが行っているような質的な側面の評価を強化できれば、もっと見えてくるものがあるはずです。
 ある事業所では、毎朝トップが出庫時に門のところまで出てきてクルマを見送る—ということをやっています。「うちのトップはちゃんと見ているな」ということが従業員に浸透しますと、そのことが「事故なんぞ起こせない」という強い動機付けになります。そしてこれが、保険の支払い額減少や事故率の低下という結果を生むわけです。こうした活動の具体的な内容を吟味していけば、どういった取り組みが事故削減につながるか—ということが見えてくるのではないでしょうか。
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筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
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タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
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運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
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これからの交通社会は?
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第121回
レジリエンスと安全管理
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バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
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第115回
安全の費用対効果
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交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
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ハイタクと安全管理
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何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
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第93回
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第92回
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ハインリッヒの法則の逆読み
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天井板崩落事故に学ぶ
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仮眠と過労
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厳しくなるメンタルヘルス対策
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事故防止のために事業主は何をすべきか
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多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
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スウェーデンとアルコール
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北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
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氷河急行の事故
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企業も頑張っている!
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