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最終更新日:2017年8月22日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その77 中小企業と安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

行政の目が届きにくい

 全国のトラック業者の8割以上は、保有台数50台以下のいわゆる中小規模事業所が占めています。交通労災事故は、これらの中小規模事業所で多く発生しており、このうち、従業員30人以下の事業所が66%を占めています。平成23年度の交通労災による死傷者は1万3,000人に及んでいますが、荷役作業など運転と直接関係しない作業による事故死傷者が63.8%を占めています。しかし、死者に限ってみると、たとえばトラック運転中の正面衝突といった運転中の重大事故によるものが多くなっています。
 運輸事業を管理監督する国土交通省は、近年盛んに、「運輸安全マネジメント」をはじめとする新しいシステム管理の導入をすすめています。これらの管理手法は、大企業のようにその土壌があり、しかも自主レベルで実現可能なところではよいのですが、中小企業では実現がなかなか難しいでしょう。そして行政も、その管理監督が容易でない中小企業にまでは、なかなか目が行き届かないのが実態です。
 たとえば先日、京都の建設現場で落下事故を起こした事業所に対し、労働基準監督署が立ち入り検査を行った際、安全帯をしないで作業している現場を偶然見つけたそうです。つまり、事故による立ち入り検査を行っていなければ、その事業所では安全帯なしでの作業を依然として続けていたわけで、こうした事業所は、たまたま事態が発覚していないだけで、他にも多数あるに違いありません。

システム的な管理は難しい

 ジャズの世界に例えれば、大企業はかつての花形であったいわゆる20人近くのフルバンド、中小企業はコンボバンドに相当するでしょう。フルバンドでは、バンドマスターという看板プレーヤー(例えばベニー・グッドマンやカウント・ベイシーのような)と、バンドマネージャーという経済的問題の責任者がいて、管理体制が整っています。一方のコンボバンドは、一人の即興プレーヤーを中心に4、5人で構成されていますので、彼らはある程度勝手気ままに演奏しますし、管理も個人が行っています。
 運送業界においても、中小企業にはコンボバンド的な部分があります。社長自らハンドルを握るというのはその典型ですし、従業員のドライバーもある程度個人の判断で動いていて、いわゆるシステム的な管理は、仮に望んだとしても実行はかなり難しいといえるでしょう。例えば、法律で「運転日誌を記録すること」と定められてはいますが、中小企業のなかには、きわめて形式的で中身を読み取れる部分が少ないとか、朝礼にしても、ただやっていますというだけで、一歩踏み込んだものは非常に少ないのが実情です。

PDCAサイクルを回すことが重要

 中小企業にあっては、大企業のように大がかりなシステムを組むことはできなくとも、その考え方を少しでも取り入れることが必要です。たとえば、PDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Act=改善)サイクルを回すことです。あまり大がかりな「P(計画)」ではなく、「何々をきちんと皆で励行しよう!」程度のことを、6カ月ほどかけて実施し、その結果がどうだったか—を見ることが重要です。そして、サイクルのスパイラルは上昇方向にあるのか、それとも、まったく改善が見られない方向にあるのか—を見きわめ、対策を改善するのです。大手企業の下請けをされている中小企業では、システム的な管理を要求されていると思いますが、こうした新しい管理手法によって、今まで見えなかったことが見えてくることもあります。そしてそこには、ドライバー個人の勝手な判断ではなく、皆で決めたことは守る—という習慣が生まれるわけです。
 また、中小企業においては、罰則制度を明確化し、自損事故の被害などについては企業と個人の負担を半々にする—といった取り決めなども有効です。こうすることで事故そのものが減少した事業所をいくつも知っています。会社が何でも面倒を見てくれるという甘えに対し、そうではないということをきちんと示すことも必要です。仮に無災害事故(物損事故を含む)であっても、物的損失があれば企業にとってロスが発生するわけですから。
 最近問題になっている過労運転については、朝礼などの際にドライバーが自主的に申告するのは現実的に難しいので、管理者のほうから声をかけて拾ってやる必要があります。そのためにも、朝礼は対面で行うことが重要です。
 また、運転上の遵守事項を決めて、それがうまく実行されているかどうかをチェックすることも大切でしょう。たとえば、あそこの狭い道路を通る際には歩行者と並進することが多いので、どんなに急いでいても必ず徐行すること—といった、きめ細かい指導が大切です。
 さらに、KY(危険予知)活動もいまだ重要です。「リスクアセスメント(※)」がこれにとって代わる風潮にありますが、職場での日常的な自主活動としての有効性を見逃すことはできません。ことに流動的な要素の多い交通環境においては、毎日「小さなPDCAサイクルを回す」ことが安全確保の第一かと思います。

※リスクアセスメントとは、作業における危険性または有害性を特定し、それによる労働災害の程度と発生する可能性を組み合わせてリスクを見積もり、そのリスクの大きさに基づいて対策の優先度を決めたうえでリスクの除去・低減の措置を検討し、その結果を記録する一連の手法のことです。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
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第122回
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第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
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「安全神話」は崩壊したか?
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新人教育のヒント
第109回
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第108回
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なぜゴリラは見落とされるのか
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10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
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異常気象と安全運転管理
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第81回
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第78回
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