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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その76 高年齢者の再雇用問題と企業リスク
交通リスクコンサルタント 小林 實

65歳まで希望者全員の再雇用を義務づけ

 日本の高齢化が急速に進んでいます。65歳以上の人口比率を「高齢化率」としますと、2010年に23.1%だった高齢化率は、2030年には31.8%まで高まるといわれています。こうしたなか、今国会で「改正高年齢者雇用安定法」が成立しました。この法律は、60歳で定年に達した社員のうち希望者全員について、65歳までの雇用確保を企業に義務づけるものです。元気な高齢労働者にはできるだけ長く働いてもらう—という自助努力のための法律ともいえますが、各企業とも、この問題を深刻にとらえているところは、それほど多くないのが現状です。しかし、ことに運輸業界にあっては、現場での機動力はまさにプロドライバーにかかっているわけですから、高齢化した彼らにどこまで運転を任せられるか…は、頭の痛い問題です。
 先進的な運輸企業では、率先的に定年問題を取り上げているところもあるようです。たとえば、すでに定年を65歳と決め、話し合いによって60歳ごろに職種を変更するとか、「一定の条件を満たす場合」という注釈つきで70歳までは嘱託社員として継続雇用する制度を導入している企業も、わずかですが見られます。しかし、運輸業界全体を眺めた場合、そうした企業はまだほんの一握りにすぎません。運輸企業の大半は中小規模の企業ですから、この問題を先送りしてしまうのも無理はないでしょう。

若い者には負けていられない…

 ところで、トラックドライバーの年齢層別の構成を見ますと、2001年には50歳代が21.2%、60歳代が1.7%にすぎませんでしたが、2011年にはそれぞれ20.6%、6.1%となっています。この10年間で60歳代の占める割合が4倍近くにもなっており、今後、トラックドライバーの高年齢化はさらに進むとみられます。(運輸労連資料による)
 トラックドライバーの業務には、トラックの運転はもちろん、構内での荷の積み卸し、ロープやシート掛け、フォークリフトの操作などがありますが、高年齢のドライバーの場合、筋力の低下などにより、若いころには何でもなかった作業でも、転倒・転落による骨折といった労災事故が発生するリスクが高くなります。
 実際、陸運業における死傷災害のうち、交通事故によるものは7%ほどにすぎず、あとは、作業中の転落・転倒などによるものですが、ベテランドライバー特有の「まだ若い者には負けていられない」という頑張りが無理や過信を誘発し、それが大きなリスク要因となっているのです。

自覚しにくい視機能の低下

 加齢に伴い、特に低下しやすいのは「目」の機能です。視力のなかでも「動体視力」は確実に落ちてきますし、コントラストの低い夕暮れ時や夜間の視力も明らかに落ちます。また、人間は主に「利き目」で物を見ていることから、左右の視力のバランスが悪くなった場合でも気づきにくく、その結果、遠近を判断する「深視力」が低下します。さらに「周辺視力」もかなり低下しますから、脇道から急に出てきた車や自転車などを見落としやすくなる—という危険があります。
 しかし、こうした視機能の低下は、加齢とともに少しずつ進行するため、本人はなかなか自覚しにくいものです。企業の管理者は、特に高年齢のドライバーに対して、定期的に眼科医の検診を受けさせるようにしましょう。
 視機能以外にも、身体にはさまざまな経年変化がみられます。たとえば、高血圧症や糖尿病、肥満といった「生活習慣病」も、50歳を過ぎるころから顕在化してきます。この高血圧症や糖尿病を治療する際には、血圧を下げる降圧剤や、血糖値を下げるインシュリンといった薬が投与されますが、薬によっては運転作業に支障をきたすものもありますので、ドライバーがどのような薬を常用しているか、このチェックも必要です。
 また、肥満や高血圧症などは、最近話題の「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を招くおそれがあります。このSASを患っている人は、眠りが浅く、夜中に何度も目を覚ましてしまうため、日中に居眠り運転をしやすい—という危険があるのです。
 このほか、首の筋肉が硬くなるため、バックの際に首をきちんと後ろに向けられなくなり、横着なバック姿勢をとるドライバーも少なくありません。しかも、ベテランドライバーほど「マイルール」に固執しやすく、これが身体機能の低下と相まって、事故の要因となることもあります。

中小の運輸企業ほど、将来を見据えた対策が必要

 すでに定年問題に取り組んでいる先進的な運輸企業が、雇用延長の条件として示している「一定の基準」がどういうものかわかりませんが、たとえば、身体検査の結果や医師の診断書を提出させるとか、面接による指導を徹底する—といったものが考えられます。大きな企業でしたら運転作業以外への配置転換も可能でしょうが、中小規模の企業ではこうした配置転換はおそらく無理でしょうし、高年齢のドライバーには「運転だけが生きがい」という人も多くいます。
 「改正高年齢者雇用安定法」の成立により、ことに中小の運輸企業は大きなリスクを背負うことになります。近い将来を見据えて、対策を今から準備しておく必要があるでしょう。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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企業と労働災害
第136回
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