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最終更新日:2017年8月22日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その73 ハンドルを握る重み
交通リスクコンサルタント 小林 實

クルマは危険な道具

 今年4月、大きくかつ悲惨な交通事故がいくつか発生しました。
 京都市の祇園で起きた事故は、タクシーに追突したあと暴走した軽自動車に、歩行中の多くの観光客がはねられる—という痛ましい事故でした。また、同じ京都の亀岡市で起きた、無免許の18歳の若者が運転する車が集団登校中の児童の列に突っ込み、10人が死傷した—という事故のほか、ツアー旅行バスが関越自動車道の防音壁に激突し、7人が死亡、39人が重軽傷を負う—という大事故もありました。
 これらの事故に共通するものは、いったい何でしょうか。それは、クルマという、下手をすればまったく無関係の人たちを事故に巻き込みかねない危険な道具の持つ重み、いうならば「ハンドルを握る重み」というものがまったく感じられない事故だった—ということです。
 京都・祇園での暴走事故の背景には、「てんかん」という持病の問題もありますが、それにしても、本人が病気を自覚して運転を控えていれば、あの暴走は防げたかもしれません。詳細は目下捜査中ですので、これは単なる推測にすぎませんが、前のタクシーに追突した際にドライバーが感情的に高揚し、衝突現場を離れることだけで頭が一杯となり、暴走に対する歯止めが利かなくなった可能性もあります。普段はおとなしい性格の持ち主であっても、緊急時には感情の暴発、さらにはそれが行動へ転移することはよく知られている事実です。この状態では、歩行者は電柱と同じ程度にしか彼の目には映っていなかったのではないでしょうか。もし、彼が冷静に事態を処理していれば、タクシーとの単なる追突事故で終わっていた可能性も大きいのです。

安全に対する意識も重要

 一方、京都・亀岡の事故ですが、ドライバーは無免許運転の常習者であり、深夜から早朝にかけての連続運転による過労から意識が朦朧(もうろう)としていたそうですが、彼は、登校している児童の列を、最も注意すべき対象として認識していなかった—とのことです。
 無免許でも車を運転する技能はあったということから、未熟運転には当たらないとし、「危険運転致死傷罪」の適用は難しい—と言っている専門家もいましたが、一般人の立場からすれば納得しかねます。この程度の軽い罰則規定であれば、加害者は、また娑婆(しゃば)に戻って気楽に無免許運転を続ければいい—と思うかもしれません。「運転ができる」ということは、単に車を運転する技量と知識を有することだけではなく、安全に対する意識も重要です。しかし、無免許運転常習者は教習所で「安全意識」なるものを教えられていません。ですから、無免許運転で人を殺傷する行為は、大きな犯罪だと思うわけです。

ずさんな経営が蔓延

 関越自動車道でのツアーバスの事故は、ハンドルなどによる危険回避動作が見られず、スピードも相当出ていたものと思われ、極めて異常といえます。また、バスの車体の軽量化も進んでいるため、もし同様の事故が起きた場合、どんなバスでもあれほどの衝撃には耐えられないでしょう。目下捜査が進んでおり、次第に事故の背景が浮き彫りになるでしょうが、事故直後のバス会社社長の発言には、経営者としての無責任さを感じた人も多かったのではないでしょうか。彼いわく、「まさか事故が起きるとは思わなかった。運行上の問題はなかったと聞いている」とし、さらに、「運行計画や労務管理は間違っていなかったが、事故が起きたということは、適切でなかったということ」と結んでいます。
 これはまったく、第三者の評論家めいた発言であり、バス会社の経営者としての責任感のなさには驚かされます。当局により運行上の違反項目が30近くもあったことが指摘されているように、それは明らかに「間違っている」のであり、適切ではなかった—というのが正当な論理ではないでしょうか。こうしたレベルの低さでバス事業を行うのは、まさに「乗客は物」という感覚であり、決して許されないことです。
 行政にも問題がないとはいえません。貸切バス事業者数は、1999年には約2,300社でしたが、2000年に規制が緩和され、2010年には約4,500社と大幅に増えています。このうち、ツアーバス事業者は200社程度ありますが、高速乗合バスは規制が厳しいのに対してツアーバスは比較的ゆるやかであり、このことがずさんな安全管理につながっているようです。特に今回のような小規模事業者には、当局の監督の目が行き届かないため、ずさんな経営が蔓延しているのが実態ですので、規制緩和を推し進める行政は、それ相応の厳しいチェックを行うべきでしょう。

安全と危険は常に表裏一体

 このバス事故を受けて、国交省は、バスにも衝突防止装置の設置を進めるとか、衝突した防音壁とガードレールとの隙間をなくすとか考えているようですが、そうした末端の対策よりも、事業所に対するより厳しい監査こそ必要ではないでしょうか。衝突防止装置がついている、もしくは防音壁が安全な構造になっているとすると、少々居眠りぐらいしても大丈夫だろう…といった気のゆるみ、つまり「モラルハザード」を招く危険があることも理解してほしいと思います。元を断つ発想こそ今必要でしょう。
 プロとアマチュアのドライバーの違いは、単なる運転技能ではなく、「安全に対する意識」にあるといえます。「プロ意識」というのは、公道を使って安全な走行をすることへの高い責任感をいうのです。プロドライバーたるもの、安全と危険は常に表裏一体であり、ちょっとしたことが大きな事故につながる—ということを常に心してハンドルを握らなければなりません。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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