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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その71 事故防止のために事業主は何をすべきか
交通リスクコンサルタント 小林 實

それぞれの立場で問題意識をもたせる

 われわれ人間の行動というのは、多くの場合目的のある行動、つまり何らかの「問題解決行動」だといえます。会社で仕事を目一杯やってわが家に帰る。「ああ、今日は疲れたな」(=問題の明確化)、「疲れたのは仕事のしすぎかな」(=原因の究明)、「では、ひと風呂浴びるか」(=解決策の策定)、そして「風呂上がりにビールを一杯ぐいっと飲む、またはテレビのスイッチを入れる」(=対策の実行)。これは、疲れたわが身をどう回復させるか—という問題解決行動の一つです。
 昭和40年に土光敏夫さん(故人)が東芝の新社長に就任された際、各事業所を回って管理者たちと対話することにしたそうです。新しい、しかも何かにつけうるさい社長がこられるということで各事業所は戦々恐々としたそうですが、土光さんが「何か問題はありますか」と尋ねると、皆が口をそろえて「特に今のところ問題はありません」と答えたそうです。確かに問題なくやっているのでしょうが、これを聞いた土光さんは「東芝の管理職には問題を見つける心、つまりフィルターというものがない」ということに気づかれました。これでは問題解決行動につながらない—ということで、それ以後、皆がそれぞれの立場で問題意識をもつよう徹底させたことが、今日まで発展を続けてきた東芝の基礎となった—といってよいでしょう。
 安全運転管理においても、過去のイメージや方法を大切にするのはそれなりによいことでしょうが、先入観というものに左右され、今のままでいいのだ—という意識が生じがちです。安全運転管理者は、自分の任期内に何も問題が起こらぬよう願い、問題意識というものを捨ててしまいがちである—ということを、事業主は特に気をつけたいものです。

問題意識の共有化を図り、その解決策を考えさせる

 事業主は、企業において事故を起こさない体質(広く言えば安全文化)をいかに作り出せるか—ということを常に考えてほしいと思います。交通事故防止というと、安全講習会を定期的に開くとか、運転技能のレベルアップ講習であるとか、適性診断などをやられているところが多いと思います。しかし、これらは「事故抑止」を狙ったものであり、安全に対する問題解決行動としては、即効性を狙った短期的なスタンスです。いわば「運転モラルの改善手法」であり、どちらかといえば消極的な手法といえます。
 一方、「事故防止」を狙った場合、なぜ事故が起きているのか、この事故の主流となっている人的要因、つまり人間のミスやエラーは何か—といったことをいかに問題としてとらえ、それを防止するか—がメインテーマとなります。
 「事故抑止」対策は、どちらかといえば“トップダウン”の手法であり、上が指示した内容を実施することで、それが成果となります。これに対し、「事故防止」対策というのは、皆が問題意識を共有し、その解決策を考える—という、ある意味“ボトムアップ”の手法です。実は、この「事故防止」対策には未着手の企業が多く、いまだ「事故抑止」対策に焦点を当てた消極的な問題解決に終始しているケースが目立ちます。
 たとえば、「ここは危ない交差点だから気をつけろ!」というのは「事故抑止」を狙ったものですが、「この交差点にはどんな危険があるのか? 安全を阻害しているものは何か?」というのは「事故防止」を狙ったアプローチです。要するに、個々のドライバーの危険感受性を高め、危険回避能力の醸成を図るわけです。

問題を早めに抽出し、リスクの顕在化を防ぐ

 運送業の現場においては、とにかく顧客の商品を効率よく運ぶことが第一であり、安全はそれについてくる—という、ある意味「安全第二」というムードがないわけではありません。事故は致し方ない現象、いわば単一の現象としてとらえられ、対症療法的な解決策がとられがちです。ドライバーのあいだで事故の情報が共有されることもなく、事故を起こしたのはドライバー個人の資質の問題であって、事故を起こした者が悪いのだ—というように、管理責任がないがしろにされてきた面も少なからずあります。
 一般に、事故が起きたときの迅速な処理は重視されるのに対し、事故の未然防止という仕事はあまり注目されません。事故処理テクニックに優れた担当者は高く評価され、重用されますが、実は、こうした対症療法は一過性のものでしかありません。確かに事故は迅速に処理されるかもしれませんが、現場作業員は、事故がなぜ起きたのか、その真の原因がわからず、ただ上からの「安全第一」をお題目のように唱えるだけになってしまいます。そのため、同じ職場で同じような事故が繰り返されるのです。たとえば追突事故が起きたとき、その原因は「車間距離不適」とひとくくりにされがちですが、このように原因が不鮮明のままですと、単に「追突しないように注意しよう」で終わってしまい、何の解決策にもなりません。
 現場においては、「自主的安全活動」を活性化することが重要です。具体的には、「なぜ、このミスなり事故というものが発生したのだろうか?」という「なぜなぜ問答」を現場で繰り返し、皆が納得できるよう、作業活動のなかでその対策を講じるわけです。一方、現場のトップは、作業前点検や健康チェックなどを通して、その鋭い「眼力」で問題点を早めに抽出し、リスクが顕在化するのを防ぐことが大切です。


筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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沈着な判断と行動が鍵
第133回
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