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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その70 多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
交通リスクコンサルタント 小林 實

トレーラーは横転・転落の割合が高い

 このところ、大型トレーラーの横転事故や追突事故が立て続けに起きています。1月7日には、首都高5号線のカーブで大型トレーラーが横転してキャビンが炎上。同13日には、首都高4号線のカーブを曲がり切れず27トンの大型トレーラーが横転、ドライバーは死亡しました。首都高のようにカーブの多い路線で大型トレーラーの事故が多発していることは、大型トレーラーの挙動特性と深い関係がありそうです。
 海上コンテナを積んだトレーラーの事故について、国土交通省が行った調査の結果を見ると、横転・転落の占める割合が全体の約40%と極めて高く、一般トラックの約9%に比べて、無視できない数字です。海上コンテナの場合、積荷の内容や積まれ方のチェックが法的に許可されておらず、偏った積み方や、場合によっては重量オーバーなどにより、カーブなどでバランスを崩す可能性の高いことが指摘されています。
 大型トレーラーを運転するには、大型免許やけん引免許が必要であり、一般ドライバーに比べて高い運転技能が要求されます。当然、それだけの十分な教習であるとか訓練を受けているはずですが、「プロドライバー」と呼ばれる人たちが、なぜこうした大きな事故を起こしてしまうのでしょうか。

さまざまな危険な挙動が生じる

 ご存知のとおり、トレーラーは、トラクター部分にトレーラー部分を連結する構造になっているため、トラクター側にはトレーラー側の車体の傾きといった挙動が伝わりにくくなっています。また、空車時と積載時とではかなり重量差があり、車体のバランスも大きく変化しますが、こうしたことが絡み合い、さまざまな危険な挙動が生じます。
 たとえば、カーブでトレーラー部分が外側に大きく振られる現象を「トレーラースイング」といいますが、この現象は、トレーラー側のタイヤが先にロックしたときに発生します。このため、特に空車時にブレーキを強く踏むことは禁物といわれています。また、トラクター部分がトレーラー部分に後ろから突き出されることによって、連結部分が突然「く」の字に折れ曲がる現象を「ジャックナイフ現象」といいますが、この現象は、トラクター側の後輪がロックしたときに発生しやすく、特にカーブでの急制動・急ハンドルによって生じやすいといわれています。さらに、トレーラー全体の制御が失われ、直進状態でコースアウトする「プラウアウト現象」は、トラクター側の前輪がロックしたときに起こりやすくなります。
 このほか、内輪差が大きいことも危険な特性の一つで、大型トラックが2.8 mほどであるのに対し、全長20フィートのトレーラーは3.8 mほど、40 フィートになりますと5.5 mほどと大幅に増しますので、交差点で右・左折するときなどは、歩行者や自転車を巻き込まない配慮が必要です。

単に“運転ミス”で片づけていいのか…

 昔、ある方がアメリカのハイウェイパトロールに同乗したときのこと、大型トレーラーやトラックがパトロールカーを追い越していったそうです。これは早速捕まえるのかと思いきや、パトロール隊員は「いや、彼らはプロだし、味方だからね!」と平然と言ったそうです。現在はどうかわかりませんが、当時の警察官は、トラックドライバーに対して「仲間意識」のようなものをもって接していたのです。国土が広く、警察の守備範囲も広いアメリカでは、トラックドライバーから事故や渋滞の情報を無線でもらっており、いわば“互助関係”にあります。警察官も一目置くアメリカのトラックドライバーは、プロとしての自覚が高く、高速道路で幅寄せなどをしてマイカードライバーを脅かすようなことはしません。
 わが国でも、大型免許をもっているような人は「プロ」の一人なわけですから、技術的にも高いものを備えているはずです。それなのに、トレーラーの横転といった「ぶざまな事故」の原因を、単に“運転ミス”と片づけていいものでしょうか。まぁ、車体の大きさに物をいわせて、そこのけそこのけと優位性を主張したり、クラクションを鳴らして減速もせずに先行車に接近し、その揚げ句、急ブレーキをかけたためにジャックナイフ現象を起こして電柱に衝突したりするような運転は論外ですが…。

不測の事態を招かない配慮が求められている

 かつて、静岡県裾野の東名高速道路で、霧のなか、30台に及ぶ追突事故が発生したことがあります。この事故は、視界の悪い下り勾配で、路肩に停車中の車を発見した大型トラックのドライバーが右へ急ハンドルを切ったため、スリップ・横転したことが第一の原因でした。大型トラックのドライバーは「路肩に停車している車のなかに運転手がいることを発見し、この人がドアを開けることを懸念して急ハンドルを切った。おれはプロだからね!」と言ったそうです。危険を予知したことは間違いではありませんが、それに続く「急ハンドル」は、およそプロの技とはいえないものでしょう。もっと手前からスピートを落とし、他の車の「ペースメーカー」的役割を果たすのが本当のプロです。プロのプロたる所以(ゆえん)は、目先の事態にただ機械的に対応するのではなく、今何をすべきか、すべきでないかを早め早めに判断し、あらかじめ行動することではないでしょうか。
 トレーラーの横転事故は、多くのドライバーに迷惑をかけ、経済的ロスをもたらします。行政当局は、死傷事故でなければ大目にみる風潮がありますが、そうすると、事故を起こしても罰則は軽くて済む—といった安易な心理を招きかねません。厳しい罰則規定なり、再教育の義務付けといった対策を考える時期にきています。
こうした危険度の高い大型車を運転するプロドライバーには、自分の腕で何とかなる—といった安易な「ぎりぎりの安全」ではなく、常に「余裕のある安全」を心がけ、不測の事態を招かないような配慮が求められているのです。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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