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最終更新日:2017年6月19日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その64 社会のスピード
交通リスクコンサルタント 小林 實

安全のマージンを食いつぶす

 先日起きた中国の高速鉄道の大事故は、新型車両をはじめとしたハード面の開発に対し、肝心な運用面でのシステム開発が遅れた―というギャップが露呈した結果だといわれています。落雷による車両故障が原因だとした当初の説明を覆す人災だったわけですが、これは、中国における社会変化のスピードがあまりにも速すぎ、総合技術の開発が追いつかなかったということでしょう。つまり、高速鉄道の使命ともいえる「スピードを上げ、世界でトップの座を確保しよう」とする行政当局の大義名分の思惑と現実とのあいだに、大きな落差が生じたわけです。ある意味、安全性のマージンを食いつぶすことで運用スピードを上げる―という、リスク管理の基本を犯した結果だといえます。
 東日本大震災の地震と津波に端を発した福島第一原発の事故においても、電力使用量の急増に伴い、原発の電力を利用することがきわめて当たり前になり、原子力のもつリスクの大きさには目をつぶってしまった―という点で、社会のスピードと無関係ではないと思います。

「衝動性」の強い人が増えている

 そこで今回は、社会のスピードといいますか、テンポについて少し考えてみたいと思います。
 たとえば、携帯電話の普及が社会のスピードと効率を上げたことは確かでしょう。しかし、それとは裏腹に、時間に対する人間の耐性が失われてきたともいえます。近年、「キレる」という表現がよく使われますが、ある種の欲求が制止されたときにイライラしたりする「衝動性」の強い人が増えているように思います(携帯電話の普及がイライラ感を減少させた―という報告もありますが)。
 ある調査によると、金融機関のATMで3分から5分待たされるとイライラする―という人が73%もいるそうですから、一か所を独り占めしている人に対しては、特にイライラしやすいのかもしれません。また、混雑しやすい総合病院での待ち時間も同じです。ある調査では、半数強の人は15分から30分でイライラする―とのことですから、医師の診察を受けるころには相当イライラした心理状態になっていることでしょう。

横断歩道を渡りきれない…

 では、道路交通場面ではどうでしょうか。たとえば信号機は、青信号から急に赤信号に変わるのではなく、そのあいだに黄信号が提示されます。黄信号が提示されるのは普通3秒程度ですが、直前で黄信号になったとき、ハムレットではありませんが、ドライバーは行くべきか止まるべきか判断を迷います。このジレンマゾーンをなるべく少なくしようと、古くから、黄信号の提示時間をどれくらいに設定するか―が問題でした。たとえば、大都市で見られるような大きな交差点では、当然その分、黄信号を長く提示しなくてはならないわけですが、そうすると、少々急いだところで大した差はないのに、黄信号で進行するドライバーが増えてしまいます。
 信号の提示時間といえば、最近、歩行者用信号が「青」のあいだに横断歩道を渡りきれない高齢者が増えているそうですが、これは、かつて成人の歩行速度を基準に青信号の提示時間を決めたことと関係しています。成人の通勤時の歩行速度は1.7―1.8メートル/秒であるのに対し、高齢者は0.92メートル/秒以下とされていますから、大きな差があるわけです(歩行者用信号の基準となっている歩行速度は、日本では1.0メートル/秒、ドイツやアメリカでは1.2メートル/秒ですが、これは、日本人と欧米人では歩幅が違うからでしょう)。今後、社会の高齢化がさらに加速することに伴い、青信号の提示時間を見直すことはもとより、社会のスピードそのものを下げていく思い切った対策が望まれます。

「急ぎ」の心理は事故を招く…

 社会のスピード化は、車を運転する際の心理状態をも左右します。「急がなければ…」という心理状態では、脳における「抑えて、抑えて…」という鎮静のメカニズムが働きにくく、感情を支配する部分が優位に立った状態になりがちです。つまり、「前へ、前へ」と気持ちがはやり、いわば「情動主導型」になるわけです。こうしたアンバランスな状態に陥ると、安全運転に欠かせない情報の収集が大まかになりますし、直近の状況にだけ対応する運転パターンになりがちです。こうした「早く行きたい」という心理が、本来やるべきさまざまな行動をできるだけ省略したい―とする心理につながったとしてもおかしくありません。
 たとえば、「納入時間に間に合わない」といった状況では、必然的に「急ぎ」の心理に陥り、安全確認もおろそかになって、事故を起こす危険性が高くなる―ということを、管理者は肝に命じなくてはなりません。社会のスピード化に逆行するようですが、もっと抑えて、スローダウンすべき部分が結構あるのではないでしょうか。今は、それを検討するよい機会かと思います。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
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これからの交通社会は?
第122回
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第121回
レジリエンスと安全管理
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自転車事故と保険
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「安全神話」は崩壊したか?
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新人教育のヒント
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再び問われるメンタルヘルス
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10年後の交通を読む
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