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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その63 国際運転免許
交通リスクコンサルタント 小林 實

アメリカの運転免許証で「無免許運転」

 先ごろ、プロゴルファーの石川遼選手が、アメリカ・ネバダ州発行の国際運転免許証により日本で運転していたことが報道されました。2002年に改正された日本の道路交通法では、「海外で取得した運転免許は、その国に連続して3カ月以上滞在しなければ無効」とされているため、彼の日本での行為は、いわば「無免許運転」に相当します。2月の遠征時にネバダ州で運転免許を取得(ネバダ州では、社会保障番号と住所がはっきりしていないと免許は取れないはずなのですが…)し、そのまま日本でも運転していて、この5月まで違法であることを知らなかったということです。知っていて運転していたとなると、彼の知名度を考えると事は重大ですが、今回はマスコミに報道されて申し出たということです。もし、違反や事故を起こしてこれが発覚していたら、話はさらにややこしくなっていたことでしょう。
 それにしても、いくら日本より運転免許取得が簡単とはいえ、短い遠征期間中に、しかも試合の合間に、よくアメリカの運転免許が取れたものだと思います。彼ほどの人気者が日本の教習所に通うとなるといろいろ面倒だから―と、周囲の誰かがアメリカで取ってしまえと助言したとしても不思議ではないでしょう。
 (注:日本で外国人が国際運転免許証で運転することは可能ですが、この制度を悪用して常態的に運転する者もいます。かつて、フィリピンなどで国際運転免許証を安易に買い求めたとか、偽の運転免許証が出回ったこともあり、これを防止するために、わが国では3カ月現地に連続して滞在した場合のみを有効としたのです)

本来の運転免許証に付随するもの

 ところで、以前にこの連載でも触れました(第58回を参照)が、近年、外国からの観光客やビジネスマンが日本でレンタカーなどを運転する機会が増えています。また、トラックなどの運転手として外国人ドライバーを雇い入れるケースもあります。逆に、海外旅行の際に外国でハンドルを握る日本人も増えています。
 海外での運転の例としてよく挙げられるのは、ハワイ諸島での日本人ドライバーへの対応(サービス)でしょう。本来は、各都道県警察等の窓口で国際運転免許証の発行を申請し、これを取得しなければならないのですが、ハワイ諸島では、国際運転免許証がなくても、日本の運転免許証があれば運転が可能です(国際免許証があれば、それに越したことはありませんが)。ハワイは、あまりにも日本からの観光客が多く、交通状況もそれほど複雑ではないことなどから、こうした特例を設けているのでしょう。
 国際運転免許証の有効期限は、発行日より1年間です。もし、国内の運転免許証が、国際運転免許証の有効期限前に失効しますと、国際運転免許証も自動的に失効となりますので注意してください。こういう場合には、日本を出発する前に「期間前更新」をしておくことをお勧めします。国際運転免許証は「国際的に運転を許可する」という許可証で、あくまでも本来の運転免許証に付随するものであり、いわば、翻訳証明書といった感じのものと考えるべきでしょう。

「ジュネーブ交通条約」と「ウイーン交通条約」

 ところで、国際運転免許証というものが、なぜ必要になったのでしょうか。これはもともとヨーロッパで考え出されたものでした。今ですと、スウェーデンあたりからフェリーに乗り、あとはアウトバーンなどの高速道路を使えば、西アジア諸国まで行くことができます。夏のバカンスに、外国ナンバーの車で高速道路が大渋滞するのも日常的ですし、物流の世界では、トラックでヨーロッパ大陸を縦断してトルコあたりまで物資を輸送するのは当たり前になっています。しかし、こういう場合に、いちいち通過する国の運転免許を取得することは現実的でありません。そこで、この問題を解決したのが国際運転免許証だったのです。
 国際運転免許証の取り決めである「ジュネーブ交通条約」は1952年に発効し、わが国もこの条約を締結しています。その後、同様の取り決めである「ウィーン交通条約」が1977年に発効しましたが、わが国はこの「ウィーン交通条約」については締結していません。その理由は、「ウイーン交通条約」には、標識や信号、緊急車両の灯火の色といった細かい国際的な規定があり、島国のわが国にとって、これらを条約の規定どおりに改正することは、メリットよりデメリットのほうが多かったからではないか―と考えられます。
 「ジュネーブ交通条約」あるいは「ウィーン交通条約」を締結している国・地域どうしは互恵関係にあり、各条約に基づく国際運転免許証を持っていれば、互いの国・地域において運転することができますが、ドイツは「ウィーン交通条約」のみ締結していますので、日本との互恵関係がありません。しかし、便宜的に、それぞれの国の運転免許証とその翻訳証明書を付帯すれば運転できることになっています。このほか、イタリアとスイス、フランス、ベルギー、台湾も「日本と同等水準にある」とみなされ、「ジュネーブ交通条約」未締結国あるいは国際運転免許証を発給していない国・地域でありながら、互恵関係にあります。
 なお、「ウイーン交通条約」のみ批准している国は東欧諸国に多いのですが、これは、東欧諸国はかつてソビエトの傘下にあったため、当時は国家として「ジュネーブ交通条約」への批准ができなかったからでしょう。

外国人ドライバーを雇用するときは要チェック

 本来、国際運転免許証というのは、その国・地域を「通過(transit)」するためのものです。警察官のなかには、国際運転免許証(International Driving Permit)を見たことがない人も少なくありませんし、「Permit(許可する)なのだから、仮免許証ではないか」と勘違いされるケースも結構あるようですので、もしその土地に定住するのであれば、その国なり地域の運転免許に切り替える必要があります。たとえばアメリカでは、各州とも30日から90日の猶予期間を設けていますが、カリフォルニア州では10日間となっています。
 わが国でも、近年の経済不況などから、外国人を雇い入れるケースが年々多くなっているようです。当然、運転業務をさせるドライバーとして雇い入れることもあるでしょう。こうした場合、管理者は、日本で合法的に運転できる免許証を持っているかどうか、あるいは日本の運転免許に切り替えているかどうか―などのチェックをしっかり行うことが大切です。また、日本での運転経験が浅い場合、添乗指導をするなりして事前に問題点を把握しておくことも必要でしょう。

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筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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バックナンバー

第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエンスな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
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第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
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第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
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第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
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第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
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第58回
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第51回
企業も頑張っている!
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第43回
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加賀屋さんにみるCSR
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第39回
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第33回
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第30回
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第29回
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第28回
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第27回
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第26回
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第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
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第18回
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第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
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第15回
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第14回
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第13回
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第12回
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第09回
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飲酒運転とJカーブ
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第04回
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第03回
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第01回
転倒リスク

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