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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その61 コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
交通リスクコンサルタント 小林 實

家屋がしなる…

 再び、今回の大震災に関連した話題です。
 「最初の10秒は、ごく普通のありふれた震動という印象でした。オヤッと思う間にだんだん大きくなり、もう止むのか、もう止むのかの思いをよそに、揺れはますます激しくなりました。家屋はしなり、屋根は踊り、電線は唸り、瓦は落ち、樹木は生命あるかのように樹身をよじらせました…」
 この記述は、3月11日に起きた東日本大震災のことではありません。今から90年近く前の1923年9月1日に発生したマグニチュード7.9という直下型大地震「関東大震災」のときのものです。当時、東京の家屋のほとんどが木造であり、しかも昼どきで火を使っている家庭が多かったため、187ヶ所に及ぶ火元から瞬く間に燃え広がり、東京は焼け野原になりました。その際、強い熱風も伴ったことから、10万人以上もの死者・行方不明者が出たのです。政府は戒厳令を発動し、全国から軍隊を招集しました。
 今回の大地震では首都圏も大きな揺れに襲われましたが、あの異常な揺れ方は、おそらくほとんどの人が初めて体験したのではないでしょうか。幸い、近代都市の東京では耐震構造の建物が多く、倒壊するビルはありませんでしたが、東京タワーのアンテナがよじれ、高層ビルがしなる―という現象は、関東大震災当時の「家屋がしなり」という表現と一致しています。
 また、先の記述のなかには「さらに、津波が来るという地震の常識が人々を浮き足立たせたのでした」ともありますが、当時、東京あたりの住民のあいだで、地震と津波との関連性がいかに認知されていたか―がわかります。(※傍線は筆者)

慢性渋滞に陥った首都圏の道路交通

 ところで、今回の大地震から数時間して、東京都内をはじめとする首都圏の道路交通は、ほとんど慢性渋滞の観を呈しました。地震のため首都高速道路が閉鎖され、さらに公共輸送機関であるJRや私鉄のほとんどが全面的に運行を中止したことから、おびただしい数の車両が都内に流れ込んだものと考えられます。ある調査によりますと、当日、車で帰宅した人は全体の2.5%だったそうですが、現実にはもっと高い数字であり、このなかにはマイカーの人も多数含まれています。
 一方で、「帰宅難民」という事態が現実化しました。携帯電話がほとんど使いものにならなくなったため、限られた公衆電話に人々が群がりました。最近はテレホンカードを持っている人が少なく、カード専用の電話が意外と空いていたのは何とも皮肉な光景でした。まれに見る大渋滞は、地震の発生から数時間後に起こり、それが深夜から翌朝まで続きました。あまり大きくは報道されませんでしたが、都心から延びる幹線道路はトラックやタクシー、マイカーで埋め尽くされ、まさに牛歩の状態でした。せっかくバスががんばって深夜まで運行していたのに、このスピードではどうにもなりません。

一般車両の通行制限も必要

 免許更新の際にもらう「交通の教則」という冊子がありますが、このなかに「災害などのとき」という項目があり、大地震が発生したときの措置として細かい指示が書いてあります。
 その一つとして「避難のために車を使用しないこと」とありますが、今回の大地震では、かなりのあいだ余震も続いていたことから、人々の移動は「避難」に該当する感じでした。さらに「災害対策基本法による交通の規制が行われたとき」という項目では、必要に応じて緊急車両以外の通行禁止や制限が行われる―とあります。震災の翌日からは、被災地への物資輸送などを優先するために一般車両の通行制限が行われましたが、もし、あの大渋滞の幹線道路で、大きな余震によって交通事故が発生したり車両が転覆するなどし、それが運悪くタンクローリーなどだった場合、燃料に引火して次々と燃え広がり、幹線道路は「火の海」になっていたかもしれません。
 緊急車両以外はすべて通行禁止という厳しいものではなくとも、物流、バス、タクシーといった公共性の高い車両の通行は許可し、マイカーに関しては、都県境から都内への乗り入れを禁止する―といった措置(コードンラインの設置)をとることができたのではないでしょうか。テレビやラジオなどで事前に広報すれば、ある程度の効果は期待できたものと考えます。
 加えて、「交通の教則」には今後、津波から避難する際には絶対に車で移動しない―ということをきちんと明記すべきでしょう。現実に、多くの方が車で避難しようとして渋滞につかまり、そこで津波に巻き込まれて命を失っているのです。
 また、企業の安全運転管理者・運行管理者の方々は、こうした災害に備えて、ペットボトルの水や調理なしで食べられる食料、軍手、懐中電灯、携帯ラジオ(カーラジオが聴けなくなることに配慮)、予備電池、応急医薬品、毛布、ロープなどを車内に備えておき、定期的にチェックすることをお願いします。
 首都圏では大きな事故やトラブルが発生しなかったから、今回の措置は間違っていなかった…というのは、二次災害を軽く見た考え方ではないでしょうか。

※コードンライン=災害や犯罪が発生した際に交通を遮断する線のことで、非常線ともいいます。

 

筆者プロフィール

小林實(こばやし・みのる)
 1959年慶應義塾大学大学院修士課程修了。警察庁入庁、科学警察研究所勤務。同研究所勤務の間、米国厚生省訪問研究員、フィリピン大学交通訓練センターでの教育指導などに従事。1989年交通部付主任研究官を最後に退官後、(株)損害保険ジャパン顧問、(財)国際交通安全学会顧問、主幹総合交通心理士。現在、交通リスクコンサルタントとして活躍。
 『運転学のすすめ』『安全への視点』『運転の構図』『あんぜんかわらばん』『クルマ社会の安全管理』『なぜ起こす交通事故』など著書多数。当社からは『安全運転管理のスタンス』『安全運転管理の心理学』を発行。

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