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交通安全時評

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クルマは今日も走っている ノンフィクション作家 矢貫 隆 第57回 運転に深くかかわる生体機能の検査を広く多くのドライバーに行うべきだ

安全態度がまるでなっていない!?

 運転免許証を取得して約40年、この間、駐車違反など軽微な交通違反で検挙されたことは何度かあるけれど、しかし、事故らしい事故を起こしたこともなく、普通免許だけでなく大型けん引免許まで持つ50代後半の彼は、その日、自分の運転についてとんでもないショックを受けた、というのが今回の話の始まりである。
 東京のタクシー会社に就職が決まった彼は、業界の規定に従い自動車事故対策機構で「運転者適性診断」を受けることになった。その概要は「バス、ハイヤー、タクシー、トラックなどの運行の実務にあたる運転者に対して、各個人の持っている長所、短所(くせ)をこの診断により見出し、運転におけるそれぞれのくせに応じたアドバイスを提供することで、安全運転に努めていただく」(自動車事故対策機構のホームページより抜粋)というもの。「難しく考えず、軽い気持ちで答えてください」という係員のアドバイスに従って彼は診断に臨んだのだった。
 ゲームセンターを連想させる運転シミュレーターのボックスに座り、次々に出る質問に答え、あるいは運転シミュレーション等を続けること約1時間半。診断がすべて終了するや、帰り支度が終わったころには、もう、A4用紙5枚(両面で10ページ)からなる「適性診断票」ができあがっていて、彼は、それを手に近所のコーヒーショップへと駆け込んだ。そして大ショックを受けるのである。
「定期診断の結果は次のとおりです。安全運転のためにご活用ください」
 表紙の最初にこう書いてあり、「総合所見」には次の記述があった。
「安全態度に欠ける場合があるようです」
 彼の安全態度は、100点満点中の34点。言葉に直せば「安全態度がまるでなっていない運転」に等しいと言っていい点数である。
 このどうしようもない赤点をもらった「安全態度がまるでなっていない」彼とは、何を隠そうボクのことである。

これ、いいんじゃないの

 34点がついた「安全態度」。解説のページでは、ボクの運転について次のように戒める記述があった。
「安全に対する考え方をさらに深める必要があります」
 そして、「まるでなっていない点数」はさらに続く。
「危険感受性に欠ける場合があるようです」(30点)。
「注意の配分に欠ける場合があるようです」(34点)。
「動作の正確さ」が100点満点だったとは言え、心中穏やかでいられるわけがない。
何しろ、いまの今まで「交通安全キング」を自負していたこのボクを、自動車事故対策機構の適性診断は「まるでなっていない」と断罪したのだから。
 さて、この適性診断の結果をボクはどう受け止めるべきなのだろう。
 画面に次々と表示される質問事項に答え、あるいは画面上での間違い探し的な問いに答えることで診断される「適性」に意味などない。時間と費用の無駄だから、こんな適性診断なんてやめてしまえッ、と、腹立ち紛れに言いたいところだけれど、でも、ちょと待て。コーヒー片手に診断票を読み進めていくうちに、「おやっ!?」と目を見張った。診断票の後半部分には、機械が測定した、きわめて客観的なボクの生体機能に関するデータが表示されていたのだ。
 これ、いいんじゃないの。
「PC視覚機能測定結果」はボクの動体視力を測定した結果だが、ランクは「6」となっていた。
 50-60歳代のなかでは突出して高い値で、40歳代のなかに混じっても平均的と言える数値だった。だが、これまで何の根拠もないくせに「動体視力は優れている」と思い込んでいたボクにしてみれば、これは実に衝撃的な結果だった。「6かよ……」と。
「加齢にともない視覚機能が低下する場合があります。スピードを落とすなど一層の注意を払って運転するようにしてください」
 このアドバイスは素直に受け入れなければなるまい、と納得。
「眼球運動能力のランクは3でした」
 眼球運動能力とは、眼球をすばやく正確に動かす能力で、前方の状況をくまなく把握するのに必要な機能だそうである。ランク3は、ボクの年代でも決して高いほうではない。
 そして、もうひとつ。「周辺視野能力のランク」は最高位の10。つまり、10代のドライバーに混じって検査したとしても最高の数値という意味だ。
 前述の「安全態度」や「危険感受性」の評価はご愛嬌として受け流したが、うん、機械の測定によって教えてくれる自分の生体機能の客観データ。これは実にいい。

健康診断と同じ

 年齢を重ねると、多くの高齢者は自分の体力の衰えを感じることができる。けれど、ボクがそうであったように、多くのドライバーは、動体視力や眼球運動、あるいは周辺視野能力の衰えを感じてはいないはずだ。いや、感じていないどころか、そんなことを気にかけることすらしていないのではないか。これらの機能の衰えが「イコール交通事故」では決してないけれど、診断票の解説が言うように「事故を防止するために必要な機能」の一部分であることは間違いない。
 なぜ、この種のきわめて客観性の高い生体機能検査を広く多くのドライバーに用いないのだろうと不思議に思う。
 余談だが、昨年の暮れ、ボクは健康診断を受けた。血液検査の結果はお世辞にも良好ではなく、コレステロール値や尿酸値に「問題あり」だった。
「矢貫さん、運動しないとだめですよ。食事療法も実践してくださいね」
 医者の忠告にボクは答えた。
「3カ月後を楽しみにしてください。運動して食事にも気をつけて生活します。3カ月後の検査をお楽しみに……」
 運転に深くかかわる生体機能の検査も健康診断と同じである。何年かに1度は行ったほうがいい。特に事業用自動車の運転者や高齢運転者には必要な検査だと、ボク自身が検査を受けて実感した。ドライバー自身が、自らの生体機能の衰えを理解することで、きっと運転時の意識の持ちようが変わってくるはずだから。

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第138回
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第137回
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高齢運転者対策で優先されるべきは、免許制度改正ではなく代替えの移動手段の整備だ
第134回
デーサービスの送迎を担当するすべての運転手にシートベルトに関する基本的な知識を教えるべきだ
第133回
トラックの運転支援システムの普及は、交通安全対策として着実に効果をあげていくだろう
第132回
ドライバーの"運転したつもり"のなかに、事故防止のヒントがありそうだと思えて仕方がない
第131回
小学校に通いだす新1年生を守るため、ドライバーが細心の注意を払ってやるのが当然だ
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「高齢」だけに答えを求めていては、タクシーの安全対策を見誤りかねない
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簡単な安全対策があるというのに、いまだに右直事故の割合が変わらず多いのは何故?
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事業所での安全運転指導が、データに基づかない"感情論"ではマズイ!
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運転が巧みか否かに関係なく、夕方の運転には事故につながる理由が山ほどある
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ある交通安全映画を見て、ボクは、「子供は小さな大人ではない」と知った
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路上で見かける幼い子どもたちは、大人が思いもかけない行動をすることがある
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自分の行為が我が子に対していかに無責任か、気づいていない親たちには呆れるばかりだ
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過当競争に一定の歯止めをかけなければ、重大事故は起こってしまう
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後部座席でシートベルトを着用するのは、「義務」ではなくて、「権利」なのだ
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第69回
それぞれの夢や希望があったはずの4,611人、その数をもっと減らさなくては―とボクは思う
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「自転車は車道」が全国各地で徹底されたとき、自転車の安全問題はどうなっているだろうか
第65回
爆走する運転自慢の自転車乗りは、単純だけど重要なことに気づいていない
第64回
JFLの練習場にAEDがなかったなんて、まったく信じられないよ!
第63回
ドライバーのほとんどはスポーツサイクルの挙動を理解できていない
第62回
自転車乗りのマナーを向上させるためにボクが考えた新たなアイデアとは?
第61回
運転免許証の更新時講習では、誰もが驚く圧倒的な事実を教えるべきだ
第60回
窓ガラスを割る役目もあるシートベルトカッターは、津波などの水難事故のサバイバルの道具になり得る
第59回
地震による都心の大渋滞を体験したボクは、その安全対策を講じておく必要があると思った
第58回
自転車通行の実態を明らかにしなくては、自転車乗りのマナー向上にも策は生まれない
第57回
運転に深くかかわる生体機能の検査を広く多くのドライバーに行うべきだ
第56回
予測が追いついているか否か、安全速度とは、そういうものだと思う
第55回
タクシー特措法による減車は、タクシーの事故を減らすことができるのか?
第54回
性能が異なる自転車をひとくくりに分類していては、いつになっても有効な自転車対策は見えてこない
第53回
AEDによる救命率向上と長くなる搬送時間、この正反対の事態が意味するものは?
第52回
新たな飲酒運転対策のモデル事業では、徹底した効果測定の作業を望みたい
第51回
高速道路での走行には、いろいろな落とし穴が潜んでいる
第50回
必要なのは高齢運転者の排除ではなく、合理的な安全対策である
第49回
車両を運転しているという意識を忘れない、これが自転車に乗る心構えの初歩の初歩
第48回
自転車通勤は確かに楽しいけれど、事故のリスクが高いことも忘れずに
第47回
近年、めざましく普及が進むAEDは、ボクが驚くほどの効果を発揮していた
第46回
交通事故を防ぐための「念仏ではない対策」がようやく登場しつつある
第45回
事故の形態や発生場所はずっと変わらない、ボクにはこれが実に不思議なことに思えてきた
第44回
4ヵ月のタクシー運転手体験がボクに混合交通の複雑さを思い知らせてくれた
第43回
追突事故の被害者になったボクは、クルマの運転が急に恐ろしく感じられてきた
第42回
タクシーの「安全」「安心」が揺らいでいる、それこそが最大の問題なのだ
第41回
タクシーを運転するボクの目にはいくつもの「小さな危険」が飛び込んできた
第40回
トラック事故が減少している今こそ、事業者によるトラックドライバーの教育が必要だ
第39回
ゆっくり走るのが楽しいハイブリッド車は、結果的に事故の被害を軽減する効果がある
第38回
いっこうに減らないバス・タクシーの事故、その背景にはドライバーの過酷な労働実態がある
第37回
ありふれた交通安全標語みたいだけれど、「油断大敵、1,000円高速道路」とボクは言いたい
第36回
自治体の負担金軽減により、ドクターヘリの普及にはずみがつくことを期待する
第35回
交差点事故の割合が微減している、ここに交差点対策のカギがあるのかもしれない
第34回
交通事故が減少しているからこそ浮き上がってくる課題がある
第33回
高速道路でのトラック事故、その背景に異変が起きるかもしれない
第32回
飲酒運転をする不埒なやからには疑似「怖い体験」をさせるのが一番だ
第31回
路上で倒れ込んだボクの脳裏には救急患者に関するあるデータが浮かんでいた
第30回
自転車もバイクもトラックも互いのあいだにある溝に気がついていない
第29回
客探しに目が向かう空車タクシー、その速度は高すぎる
第28回
無謀運転のスポーツサイクル乗りが今、街で増え始めている
第27回
登録制度と再規制、安心・安全なタクシーは復活するか!?
第26回
高齢者講習には「免許更新のついでの徹底検診」を
第25回
絶大な効果があるAEDも、活用しなければ宝の持ち腐れだ
第24回
「安全な自転車」の開発は自転車の多様化に拍車をかけるだけ!?
第23回
迷走する自転車の安全対策、本当に重要な問題を見極めるときだ
第22回
救急車の安易な利用が増え続ければ「有料化」が現実になるかもしれない
第21回
事故死者をさらに減らしていくために死者激減の「わけ」を早急に解明すべきだ
第20回
街路灯の整備は絶対に必要だけど、現実を考えて自衛しよう
第19回
運賃値上げのない地域にタクシー戦争あり、事故増加につながる危険性
第18回
事故が減るとか増えるとか、昼間点灯だけで交通安全をかたるのは間違いだ
第17回
AEDは救命率向上に大きな効果があるが、使えば必ず命が助かるわけではない
第16回
ツーリング中の中高年ライダーはこまめに休憩をとるべきだ
第15回
いつ発生するかわからない巨大地震にドライバーはどう対処すべきか
第14回
骨抜きにされた「運転者登録制度」では、規制緩和後の「タクシー問題」を解決できない
第13回
多くのドライバーは自転車の特性を理解していない、そのことを頭にたたきこんでおくのは重要だ
第12回
死者激減の原因を合理的に説明できない限り、根本的な安全対策を講じることはできない
第11回
規制緩和それ自体が悪いとは思わないが、そのしわ寄せを運転手に押し付けてはならない
第10回
「ここにAEDがあるぞ」と大勢の人に知ってもらう方策を考えるべきだ
第09回
事故死者数を減らすことは重要だが、それと個人の意思は別問題だ
第08回
自転車の走行環境とルールの整備という問題は、大きなテーマになっていくような気がする
第07回
タクシー運転手を体験した半年間で「稼げない構造」という問題が見えてきた
第06回
理念に沿わない駐車違反取締りは「取締りのための取り締まり」に進みかねない
第05回
飲酒が運転に与える悪影響をドライバーに体験させる必要がある
第04回
高度な機械の導入など、莫大な金をかけて高齢者講習の充実を図るべきだ
第03回
危険で迷惑な違法駐車車両だけに絞って場所も時間も関係なく取締りを徹底すべきだ
第02回
タクシーの現状を改善しようとするなら、運転手の低賃金問題は避けて通れない
第01回
近ごろの無法・無謀自転車問題の本質は、自転車に限らない安全教育の問題なのでは?

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