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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その54 目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
交通リスクコンサルタント 小林 實

突っ込んできたバイク

 最近、バスの事故が国の内外を問わず報じられています。
 ちょっと前のことですが、7月17日に北海道足寄(あしょろ)町の道道(県でいう県道にあたります)で観光バスが、道路脇の草地に転落・横転しました。このため、乗員・乗客48人のうち乗客2人が重傷、38人が軽傷という大きな被害が出ました。現場は片側1車線のゆるやかなカーブで、対向車線のバイクが突っ込んできたのを避けようと、急ブレーキと急ハンドルとで回避動作を行ったようですが、結果的にはバスがスピンを起こして路外に転落し、横倒しになりました。もちろん、突っ込んできた相手のバイクの運転者も重傷を負いました。
 このバスの運転手は、地元のベテランであり、道路事情も熟知しているということです。目の前に突っ込んできたバイクを避けようとした一連の回避行動はもちろん必要ですが、たくさんの乗客の命を預かっているという意識がその瞬間にあったかどうか、いささか疑問を感じます。

リスクの優先順位

 目の前のバイクは、いわば当面のハザード(危険な現象)に当たりますが、それを避けるためにこういう行動をとれば、こうした結果を招く―という“洞察力”が働いていれば、別の行動をとることもできたのではないでしょうか。つまり、バスをいかに安全に止めるか―を優先するのです。突っ込んできたバイクにはお気の毒ですが、もし、回避動作よりも安全停止という行為を優先させていれば、乗客にこれほど大きな被害は出なかったはずです。
 たとえば、山間部を車で走っていると、「動物に注意!」という標識をしばしば目にしますが、実際こういう場所ではよく動物がとび出してきます。こうした標識があるにもかかわらず、何の構えもなく走っているときに動物がとび出してきますと、あわててとっさの回避行動をとりがちです。その際、動物を避けることに懸命で、不用意に急ブレーキ・急ハンドルといった操作をしますと、結果として、こちらが大ケガをするような事態にもなりかねません。教習所では、動物がとび出してきてもハンドルは絶対に切るなと教えているようですが、このあたりのことを言っているのでしょう。
 プロのベテランドライバーには、こうした思考の手順というか、リスク(危険)の優先順位をつける能力も必要かと思うのですが、読者のなかには、とっさにそんな発想をするのは不可能だという方もおられるかもしれません。しかしプロたるもの、最悪のシナリオを避けるための努力を絶えず行う必要があります。「目先のリスク回避」だけではだめなのです。プロの運転する大型バスが横倒しという光景は、まったくさまになりません。

プロドライバーの使命

 ところで、わが国のバスの転落事故として歴史的なものは、1968年の夏に発生した飛騨川バス転落事故でしょう。今から40年以上も前の出来事ですが、乗鞍岳に向かう観光バス15台のうち2台が集中豪雨による土砂崩れに巻き込まれ、増水した飛騨川に転落し、乗員・乗客107人のうち104人が死亡する―という大惨事になりました。事故の原因として、気象情報の伝達の不備や、道路の通行止めに対する規制の甘さなどが指摘され、大きな社会問題にもなりました。
 現在のような情報システムが整備されていれば、こうした悪天候による事故は未然に防ぐことも可能でしょうが、バスの台数や乗客の数からくる集団心理、運転手らのあせり、情報不足による不安などが絡み合い、無理をしても現場を突破しようとさせ、こうした悲惨な結果を生んだわけです。
 この事故を契機に、道路管理者の瑕疵責任も問われるようになり、悪天候時の情報伝達と早期の通行止めが行われるようになりました。また、「道路施設賠償責任保険」が誕生するきっかけにもなりました。
 こうした事故の例を持ち出すまでもなく、プロであるバスドライバーには、「乗客を安全に目的地に運ぶ」という大きな使命があります。そして、この使命のために何をしなければならないのか―が改めて問われています。決して、目先の危険な状態を回避することがすべてではないのです。8月にアメリカ・ユタ州で起きたバスの事故にしても、まさにこのことが問われているのではないでしょうか。

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
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第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
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カルガモ走行
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事業仕分け人
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お客様目線
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青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
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銃社会のジレンマ
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安全の文化
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ボルボが似合った男
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転倒リスク

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