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最終更新日:2017年8月22日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その35 認知ギャップ
交通リスクコンサルタント 小林 實

コンニャクゼリーと餅

 最近、「認知ギャップ」という、同じ事柄について違った捉え方をすることが結構ひんぱんに起きています。卑近な例を紹介しましょう。コンニャクゼリーで死者が出たことを受け、行政は、その企業に対して厳しい措置を考えているようですが、一般には、なにもそんなに厳しくしなくても…という同情論もあるように、捉え方には相違があります。「死者が出た」と「死者を出した」という、ほんのわずかの表現の違いによっても、その受け止め方は変わります。
 この事故をみますと、確かに17人の死者が出ており、これだけをクローズアップしますと確かに見過ごせない重大事件となります。しかし、この数字は1995年以来10年以上の累計であり、1年当たりに換算しますと2人程度の数字です。この2人という数字をどう捉えるかは、人によって違いはありましょう。事故の原因は、子どもさんや高齢者がこのゼリーをのどに詰まらせて窒息したことなのですが、他方、お正月に餅をのどに詰まらせて亡くなる高齢者の数はどうかといいますと、この何十倍の数字になるのです。なぜコンニャクゼリーがだめで餅ならよいのか、製造責任は問われないのか─という不公平感が消費者サイドに生じても不思議ではありません。つまり、こうした行政サイドと一般の人々とで受け止め方が違うことは、ある種の「認知ギャップ」といえるでしょう。
 一般に行政や専門家たちは、ハザードの暴露頻度と結果の重大性という、定量的な側面を重視します。少なくとも死者が出たという結果の重大性にのみ焦点を絞って見るわけです。これに対し、一般の受け止め方というのは、そのリスクがより広い範囲に広がるのでは…という不安感、いわば「感情的側面」に目が向きがちです。ですから、O(オー)157とか原発の放射能漏れといった目に見えないリスクに対する不安は、感情論として浮かび上がるわけです。もちろん、亡くなった人にはお気の毒だとする感情論もありますが、それよりも食べさせ方の問題で、もっと注意すれば防げたのでないか─といった意見も結構あったのではないでしょうか。つまり、コンニャクゼリーはリスクが拡大する危険性が少ないとする見方です。

気ままなコミュニケーション

 「認知ギャップ」は、日常生活でもいつも起きていることです。お宅の奥さんとあなたのあいだに、こうした「認知ギャップ」はないでしょうか。最近は、いわゆる亭主関白の旦那も少なくなりましたが、一昔前までは「オイ」と言えば、それがお酒を持ってこいの「オイ」なのか、それとも灰皿を持ってこいのそれなのか、奥さんは判別できました。ところが今では、「オイ」と言うと、下手をすれば灰皿が飛んできかねません。そんなお宅は「認知ギャップ」が大きいといえるでしょう。
 こうした「認知ギャップ」というのは、道路交通の場でも起きています。「まさか、相手が急にとび出してくるとは思わなかった」とこちらが言っても、相手は相手で「向こうがそのまま進んでくるとは思わなかった」と言うでしょう。この認識の差が、事故の最大の原因となっているわけです。もしも、お互いが共通した認識をもっていれば、こうしたミスは起こらないはずです。
 企業の安全管理にしても、形にばかりとらわれて、具体的な姿を見逃してはいないでしょうか。われわれは、道路交通という共通の場にありながら、自分と相手は常に同じ考えだ─という認識のもと、気ままなコミュニケーションをしていないでしょうか。相手の行動をより深く読む、解読することに怠けてはいないでしょうか。今のようなデジタル社会では、お互いをストレートに捉えるだけでなく、こうした認知ミスを犯しやすいことを、管理者は頭に入れておく必要があります。

受け止め方の違い

 会社のトップがすべてを牛耳っているような企業では、トップが指示したことと、末端が実行するレベルとでは、その受け止め方が変わる─ということはよくあります。「俺が言ったことをちっともやっていないじゃないか」と社長が怒ったとしても、末端では、「どうせトップは見やしないのだから、格好をつけておけばいいんだ」といった受け止め方の違いが出やすいのです。
 よく起きる企業の不祥事の背景には、こうした「認知ギャップ」が作用しがちです。たとえば、すでに忘れられているかもしれませんが、Y乳業が起こした人間の命にかかわるルール無視の背景には、トップと現場とのあいだに生じた「認知ギャップ」がある─ともいえるでしょう。「うちがこんなことになるはずがない…」という思いから隠ぺいという事態に至ったともいえます。長いあいだ安全を高く維持している企業では、こうした「認知ギャップ」が起こらないよう、常に風通しを良くしておかなければなりません。

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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