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2017年6月 1日

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最終更新日:2017年12月12日

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事故が語る安全 日本ハイウェイセーフティ研究所所長 加藤 正明

第3回 夜間走行の錯覚

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夜の運転はなぜ嫌なのか

明るさ・暗さ
 夏の日は暮れるのが遅い。午後7時ごろになってもまだ空には明るさが残っているから、時計を見て初めてもうこんな時刻だと驚くことがある。そして気がつくと街灯が次第に輝きを増し、商店街も明るく灯火に照らされて、周囲にはすっかり夜の気配が忍び込んでいる。何のことはない、夜を演出しているのは明るさなのだ、と今さらのように大発見でもした気分になる人もいるかもしれない。
 夜の暗さにすっかり慣れっこになっていても、夜の運転は嫌だ、と感じている人は多いが、なぜ嫌なのか、そこまで考える人は少ない。しかし、そこのところを突き止めないと、思いがけないトラブルに巻き込まれることになりかねない。今回は暗さを徹底検証してみよう。

視力の低下
 夏の日中の明るさは、カンカン照りのいわゆるピーカンで約10万ルクスとされている。しかし、夜になると、車のライトに照らされた路面でも、30ルクスにも達しない。それだけ実質的に視力が低下するわけだ。個々人の視力は加齢とともに低下していくが、見えにくいことを視力の低下と認めたがらない人がいる。暗さイコール視力低下だ、ということを自覚しなければならない。
 暗さに応じて、見え方にも差があり、光が乏しくなっていくとだんだん見えにくくなっていくのは、だれもが日ごろ経験しているはずである。つまり、物の形や大きさが見分けられるのは、物の形に応じた明るさのコントラストが識別されるからで、明るさが増すにつれて色も識別しやすくなり、反対に光量が低下していけば色も形も分からなくなってしまう。
 また、動いている物を見る場合、静止している物を見る場合と見え方が違うことは経験的にだれでも知っている。これは、運動視とか動体視力とか呼ばれるもので、人によって能力差があるが、夜間視力についても人によって能力差があるものだ。最近、高齢者の夜間事故の増加が社会問題になっているが、基本的な視力の問題にもっと関心を高める必要があるのかもしれない。
 特に夜間、速度の遅い自転車が自動車と衝突するケースが増えているが、速度の遅いほうからは相手の動きがよく見えるのに対し、逆の場合は見落としが生じやすいことが知られている。相手も同じように、自分のほうが見えている、こちらに気づいて安全に対処してくれるだろうと期待しているのである。
 この場合は、見落としではなく、誤判断あるいは過剰期待というべきかもしれないが、車にしろ自転車にしろ、まず気づいたほうが先に速度を落とすなり、進路を変えるなり、状況によってはライトをパッシングするなどして、自分の存在をはっきり相手に気づかせる、動作で知らせることが大事である。
 また、郊外地域で目立つのが路側に駐車している車両への衝突事故である。それも大半が見通しの良い直線路である。一体、何が起こったのか、だれでも疑問に思うに違いない。夜だからといっても、ライトを上向きにすれば視界に問題はないはずだし、必要なら減速すればよい。なぜ、そうしなかったか。実は、ここに重大な事故誘因が隠されていることに注目しなければならない。

明るいほうへ目を向けてしまう

視覚の活用法
 夜になって、周囲の明るさが乏しくなると、ドライバーは見落としはないかと緊張しながら前方視界に注意を払うものだ。特に動くもの、灯火類には敏感に反応する。また、駐車するときは、通過車両に車体をよく見せようと、わざわざ明るい街灯の近くや真下、あるいは商店の照明を受けやすい位置に止めようと腐心する。
 ところが、ここに思わぬ誤算が生じてしまうことがある。ふつうドライバーは、無意識のうちに明るいほうへ、目立つもののほうへと目を向けてしまう。対向車のライト、マンションの照明、商業施設のイルミネーション、なかには運転とは何のかかわりもない灯火情報を確認することで、意味のない安心を得ようとしているのだ。
 人間の目の働きは、そうしたとりとめのない動きのなかから、重要なもの、必要な情報を選び出そうとしているのだ。しかし、これらはすべて無意識の慣習とでもいうべき行為であり、何も起こらなければ、やがて記憶のなかからも消去されて痕跡は残らない。
 いわゆる視覚吸引作用を思い出していただきたいのだが、明るさに引きつけられる度合いが強ければ強いほど、周辺の暗がりのなかの情報に対する意識が、ごっそり脱落してしまうということが起きやすい─ということに注意しなければならない。人間の目は暗がりのなかで物を探し出すことが得意ではない。その欠点というか短所を補うためには、「瞬間視」を活用して、広い範囲を見渡すことを重視しなければならない。
 視覚のこうした活用法、コントロール術をしっかり身につけているかどうか、つまり状況に応じて意識の集中法を変えることで危険を回避する術を身につけるのである。以前に「溶け込み現象」について説明したことがあるけれども、無意識のうちに明るさに視覚が引きずられてしまうと、その分だけ暗がりに対する注意力は薄れて、暗がりに溶け込んだ障害物の発見が遅れたり、見落としてしまうことが容易に起こる。
 よく現場検証の際など、停止車両が見えなかったと主張する加害者に対し、警察官が姿勢を低くしたり位置を変えたりしながら「ちゃんと見えるじゃないか、脇見してたんだろう。居眠りしてたのか?」などと問いつめるようだが、これはドライバーの盲点をいみじくも裏書きしていると言えよう。

蒸発現象
 明るいから見えるはずだ、といった断定も必ずしも正しいと言えないことがある。さまざまな灯火のあふれる市街地交差点で、右折待ちの車が追突される事例も事欠かない。対向車のライトが眼に入ったとか、いろいろな事情があるが、最も注意しなければならないのは、車のライトの反射作用で歩行者や自転車が一瞬見えなくなってしまう、いわゆる蒸発現象である。
 蒸発現象はひんぱんに起こるというものではないが、そういう現象があることを知っているだけでも、交差点にさしかかったときの集中力は大きく変わってくるはずだ。

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