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最終更新日:2017年8月22日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その27 あっ、カエルが跳び出すよ!
交通リスクコンサルタント 小林 實

子どもの視点

 岡山県倉敷市にある大原美術館(私立)は美術ファンにとって垂涎の場所です。大原孫三郎氏によって1930年に開館され、日本への西洋美術の紹介の先駆けとして世界からも注目されているところです。ここに所蔵される有名なグレコの「受胎告知」は、画家・児島虎次郎が大原の命(めい)を受けて購入したことはよく知られています。また、6月ごろにここを訪れますと、モネの邸宅から株分けされた睡蓮の花も見ることができます。
 先日、美術館理事長の大原謙一郎氏の講演をうかがう機会に恵まれました。氏の巧みな話術と豊富な知識から、時間のたつのを思わず忘れたほどでした。講演のなかで、こんな逸話をされました。小学校の児童が美術館に見学にきたときのこと、一人の男の子がモネの睡蓮の絵をじっと見つめているうちに、「あっ、蓮の葉の下からカエルが跳び出すよ!」と叫んだのだそうです。われわれ大人の発想では、睡蓮の美しい風景に感動するのでしょうが、純粋な子どもの発想では、まさに葉っぱの下にカエルがいるように見えたのでありましょう。
 これを大原氏は、子どもたちのもつ素晴らしい感性だと言われましたが、認知心理学でいうところのアフォーダンス(affordance)のセンスに近いという感じがしました。アフォード(afford)とは英語で「与える、余裕がある、可能である」といった意味の動詞ですが、これを名詞化したものがアフォーダンスであり、一つの理論として確立されています。つまり、子どもにとってモネの描いた睡蓮の葉は、その下からカエルが跳び出すように「アフォード」していると考えられます。

失われつつある「泥臭さ」

 たとえば、平坦な道は車による移動を「アフォード」していますし、最近の建物の床下はIT用の配線を隠すことを「アフォード」しています。手前に引きやすくするドアのノブは、いかにも引いてくれといった表情を見せているもので、これもドアのほうに「アフォーダンス」があるといえましょう。つまりこれらの事象は、環境サイドがわれわれに「呼びかけている」と解釈されます。
 皆さんは水道の蛇口をひねれば、簡単に水をコップに満たすことができます。しかし、目をつぶってこれをパーフェクトにやることは、慣れないとかなり難しい技でしょう。耳を澄ますと、コップに入る水の量に応じて、音が次第に高音に変化することに気がつきます。つまり環境側は、こうした情報を発信してアフォードしているにもかかわらず、人間サイドはこれに気づかないのです。視覚にばかり依存していて、他の感覚器官からのシグナルを見落としていることになります。
 このあいだ、自動車の設計をしていた方にお会いした際、「最近の若い設計者は大型コンピュータを駆使して車を設計する。もし、実車走行中にトラブルが発生しても、そんなことはありえない、コンピュータがやったのだから、といってあたかもコンピュータ万能のように考えている」と嘆いておられました。この方は、こうした若い設計者を「コンピュータボーイ」と皮肉交じりに呼んでおられましたが、現実場面で発生するギャップというものを想定しない姿勢なのでしょうか。そこに失われつつあるものは、いわゆる「泥臭さ」であり、感性の喪失とでもいってよいと思います。これからの設計には、泥臭さのある人間系の育成を通して、温かみのある車の設計というものが採り入れられなくてはならないのでしょう。

環境はわれわれに語りかける

 基本に戻りますが、安全に対する「感性」(これは危険に対してでも同じ)を今一歩高めることが、今日最も要求されているのではないでしょうか。
 以前から人間は、環境のなかからアフォーダンスを読みとり、これを活用してきました。人間と環境とを分けて考えることは、こうした相互関係を見失うことになります。大原氏は、いみじくも講演のなかで「文化とは発信するものなり」と言われましたが、それには人間サイドの積極性が働くか否かにかかっているといえましょう。環境はわれわれに語りかけているのです。
 こうしたいわば逆転の発想、感覚の研ぎ澄ましというものは、安全運転管理においても必要ではないでしょうか。とかくマンネリ化している安全運転管理に新風を吹き込むには、たとえば従来のトップダウン方式からボトムアップに変えてみるとか、厳しすぎると不評な取り決めを改め、個人の自由度を上げると同時に責任度も上げる、といったやり方も一つの方法でしょう。何かおかしいのでないか、何かあるのではないか…といった微妙な変化に気づくか否かが、安全確保のうえで、一つのカギとなるのです。

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
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社会のスピード
第63回
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第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
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ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
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企業も頑張っている!
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うどん文化と運転
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100円ライターのリスク
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カルガモ走行
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事業仕分け人
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お客様目線
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青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
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第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
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