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最終更新日:2017年5月23日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その25 我輩は「ジコ」である
交通リスクコンサルタント 小林 實

油断に忍び込むのが得意技

 我輩は「ジコ」である。サッカーのジーコほど有名でもなく、名前はまだ無い。無いというよりも、あまり小さな「ジコ」には名前がつかないのである。そして、我輩はいつどこに現れるかもわからない。しかし、時々大きなタイトルで名前がつく。「原発事故」とか、「大型トラックの多重追突事故」といったように。我輩は、人間様のちょっとした油断で顔を出す習性がある。そんな油断に忍び込むのが我輩の得意技だ。
 我輩の親戚には「ヒヤリ夫婦」というのがいる。人間がヒヤリとしたりハッとしたときには必ず顔を出すのだが、この夫妻は、決して人を驚かせて喜んでいるわけではない。大きなケガには至らないが、人間をハッとさせたり、ゾッとさせることで、「危ないよ」と注意信号を出す役目を果たしているのだ。いわば、我輩の登場する前の「露払い」のようなもので、トリックスター的な存在だ。
 「ハインリッヒ」という名前の一族も知っている。一つの大事故(これは我輩のことだが)の陰には、29の似たような一族がいて、その背後には、さらに300もの「異常」とか「不具合」といった一族がいるのだ。彼らは、人間世界の「小集団活動」などの場にしょっちゅう顔を出して活躍している。たとえば、猟銃をもてあそんだり、ナイフを振りかざしたりする少年の前にも彼らは顔を出すのだが、「そんなの関係ねぇ」とばかり、彼らを蔑視するやからも多い。

すべて人間様のご意向次第

 人間様に、焦りとかうっかりといった、いわばスキができるたびに、「ヒヤリ夫婦」や「ハインリッヒ一族」の出番になるが、これを飛び越えて、突然我輩が現れることもある。我輩には「自制心」とか「羞恥心」というものがまったくなく、すべて人間様のご意向に従っている。この点で、我輩は大変従順なのだ。「ヒヤリ夫婦」や「ハインリッヒ一族」には“お茶目”というユーモアがあり、ある意味で人間様の味方だが、我輩にはそれがない。
 本当は我輩も暇でありたい。だが、日本全国で年間5,000人以上もの人が交通事故で亡くなっているというではないか! 「お暇なら来てよね」とは、一昔前の歌謡曲のタイトルだが、まだまだ出現のチャンスが多いのは困りものだ。
 我輩は、人身事故だけでなく、物損事故の場面にも出向いている。人間様はこの程度のことは仕方がない、相手が悪いのだから…といって、我関せずのスタイルだ。だが、我輩は軽い事故だからと甘く見ることはできない。「ハインリッヒ一族」が口をすっぱくして言うように、これが、いつ何時大きな事故になるか、その点を見極めてほしいのだ。我輩の出番が多いか少ないかは、すべて人間様次第なのである。

天災は忘れた頃にやってくる

 ところで、夏目漱石と親交のあった人に、寺田寅彦(1878-1935)という学者がいる。地球物理学という難しい学問をやった人だが、なんと漱石には、教室で英語、自宅で俳句を習い、のちに随筆家としても知られるようになった。夏目漱石の小説には、寅彦氏をモデルにした人物が書かれているほどだ。寅彦氏は、「天災は忘れた頃にやってくる」という名文句を残されたが、この言葉は、のちに中谷宇吉郎氏によって世に知られるようになった。
 この「天災は忘れた頃に」の「天災」とは我輩のことで、「事故」に置き換えることができる。つまり、人々は大きな出来事があっても、時間とともについこのことを忘れてしまう、もしくは忘れたがるという習性をもっている。このことが我輩の出番を増やしているに違いない。
 リスクマネージメントの専門家、牛場靖彦氏によると、企業のなかには、見た目は堂々とした巨木でも、「ゾンビ族」というシロアリにすっかり食い荒らされて、いつ倒れてもおかしくない大企業があるという。こういう「ゾンビ族」というのは我輩がお出ましになることを手助けしてくれている。
 「安全第一」、「今日も安全に」といったスローガンは、我輩にとって全然脅威とはなっていない。ドライバーをはじめとして、国民諸君は何をどうすべきかわからないようだ。「全国交通安全運動」にしても、そのよい例だ。行政は、交通安全や事故防止に相当な予算をかけてやっているようだが、我輩には無関係だ。
 安全だけでなく、多くの行政部門に共通していることだが、やったことに対する評価がほとんどなされていない。何がどのくらい効果があったのか、これがはっきり出ないのは、行政サイドが、今やっていることがベストと考え、そのシステムを変えることに大きな抵抗があるからだ。今、世間で話題になっている道路特定財源の問題にも、同じような背景があるのでないだろうか。
 人間様が相変わらずそんなことだから、我輩は今日も大忙しなのである。

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バックナンバー

第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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