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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その24 タイタニック症候群
交通リスクコンサルタント 小林 實

道路の老朽化

 アメリカのプロ野球チームにミネソタ・ツインズというチームがあります。その名の通り、ミネソタ州のセントポールとミネアポリスという隣接した二つの都市のあだ名として、双子を意味する「ツインズ」をかぶせたものです。ちなみにセントポールは、「ポストイット」を開発した3M(スリーエム)の本社がある街ですが、3MというのはMinnesota Mining & Manufacturingの頭文字をとったことからわかるように、もともとこのあたりは鉱業(Mining)が中心の街でした。
 ところで、昨年起こった、セントポールとミネアポリスをつなぐ8車線の橋が崩落した事故をご記憶の方も多いと思います。崩落した橋は完成して40年経っていましたが、崩落にはどんな原因があったのでしょうか? あれだけの交通量、ことに重量車両が通過していることからくる振動もありましょう。橋の構造に問題があったという指摘もあります。すでにアメリカでは20年ほど前に、当時の道路インフラがすでに老朽化し、危険であるという報告書が出ています。
 たとえば、アメリカ全土をカバーする州際道路(Interstate Highway)は、1956年のアイゼンハワー大統領の時代に、国防という観点から建設が始められたものであり、50年以上もたった今では、かなりの部分で老朽化が進んでいるはずです。最近のNTSC(国家交通安全委員会)の調査によると、要注意の橋はアメリカ全土で200ヵ所以上もあるといわれています。
 これは、リスク管理の不十分さが露呈した結果ですが、同時に、車がなければ生きていけないアメリカ社会に対する一つの警鐘でもあり、うがった見方をすれば、ブッシュ政権がイラク戦争に膨大な予算をつぎ込んだ結果、国内のインフラ整備に手が回らなくなったともいえましょう。
 日本でも、首都圏の「首都高速道路」は今や東京の大動脈になっていますが、東京オリンピックの際に建設された部分が多く、すでに相当の時間が経過しています。しかも、設計時にはあまり想定できなかった、通勤ラッシュや事故などによる渋滞時の「静止荷重」もかなり大きくなっています。現在、大地震に耐えられるように免震工事を進めているようですが…。

相手への依存

 さて、安全管理のうえで恐れられているのが「タイタニック症候群」といわれるものです。これは、1912年に北大西洋沖で氷山と衝突沈没し、1,500人余の犠牲者を出したタイタニック号(4万6,000トン)に由来します。当時、この世界最大の豪華客船の処女航海に際し、設計者や船長が「絶対に沈まない船」という過信を抱いていたことが、事故の大きな原因とされました。このことから、ある集団や組織において、いつの間にか危険に対する感受性が喪失することを「タイタニック症候群」と呼んでいます。
 タイタニックとは、ギリシャ神話に出てくる巨神(タイタン=Titan)に由来し、これから派生した金属の「チタン」は、耐食性の強い素材として航空機などに使われていることはご存じの通りです。
 また、先日、千葉県沖で漁船と衝突したイージス艦のイージス(Aegis)とは、ギリシャ神話でゼウスが娘のアテナに与えた胸当てに由来し、「強いもの」を意味します。これが転じて、強力なレーダーやミサイルを搭載した高性能防空巡洋艦や駆逐艦のことを指すようになりました。
 何とも皮肉なことですが、空からの攻撃に対する防御は十分対応できたであろうイージス艦ですが、民間の小さな漁船には対応できなかったわけです。まさに危険に対する感受性の低下が、個人およびその組織に蔓延していたのでないかと想像されます。このイージス艦の事故は、クルマの運転でもよくある、たとえば、右折時などに自転車や歩行者の存在に気づかなかったというケースと似ていて、「相手への依存」、つまり、避けてくれるだろう、そうするに違いない…という油断が出やすいことと共通しています。しかも、相手との力関係で、小さいもの、弱い存在に対しては、こうした発想が起こりやすいのです。

気づかぬうちに進化

 企業という組織にあって、誰もが「タイタニック症候群」に陥らないようにするには、トップや管理者のたゆまない緊張と努力が必要です。それなくして、企業における真の安全文化の構築は難しいといえましょう。文明が進化するとともに、そのリスクも人間が気づかぬうちに進化し、便利さにかまけた人間サイドは退化するとよくいわれています。我々の目の届かぬところで事態は着々と進行していることを、ミネソタでの橋の崩落事故や今回のイージス艦の事故などは物語っています。

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第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
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ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
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おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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