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最終更新日:2017年8月17日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その22 若い世代と安全管理
交通リスクコンサルタント 小林 實

仮想現実

 ひところ「ダメもと」という言葉がはやりました。これは、やってみてダメだったらやり直せばよい、やり直しが効くのだから、失敗を覚悟で思い切ってやってしまうというスタイルで、意外と若者の思考パターンのなかに組み込まれているような気がします。
 以前、ある大手自動車メーカーで、事業所別のマイカー事故の分析をしたことがありますが、意外にも設計部門の若いエンジニアに細かな事故が多発していることがわかりました。毎日、多くの時間をコンピュータとの対話で過ごし、人との接触も少なく、帰宅時には思考能力が低下しているからでしょうか。それとも、現実の世界がコンピュータの世界の仮想現実とダブってしまうのか、見通しの悪い交差点でも「見えないものは見えないのだ」と割り切ってしまう心理が働くのかもわかりません。
 コンピュータはイチかゼロの論理の世界で、どちらかに決めることが要求されます。しかも、何らかの理由で動作が止まってしまったパソコンは、リセットすれば原状復帰が可能であることも、こうした感覚を増長させているのかもしれません。

自己主張

 このあいだ教習所の指導員の方が言っておられましたが、最近の若い人たちは、白黒をはっきりさせたい、できないときにエイッと決めてしまう、昔流にいえば「当たって砕けろ」という戦争中の特攻精神のようなものが感じられるということです。これは若者の「切れる」という現象に通じるものがあります。
 また、若者は意外と自己主張が強いとも言われます。上司の言ったことにとかく反発する、そこまでいかなくとも、自分の正当性を尊重し、いわゆる「認知的不協和」が起こりやすいといえましょう。表面的には「ハイ、ハイ」と、いかにも納得しているかの感がありますが、内心では「そうは言うけど自分のほうが正しいのだ」とする自分の正当性を譲らないことで、こうした不協和の解消を図っているというわけです。
 しかし、これではうまくありません。若者に正しく物事を理解してもらうには、なぜそうなのか、そうすることが自分にとってもメリットがある─ということを理解させる必要があります。そうしないと、彼らの「行動変容」を期待するのはなかなか難しいでしょう。
 たとえば、見通しの悪い交差点で、なぜいつも徐行なり一時停止をする必要があるのか、それを怠るとどういう事態が起きるのか、そして、何度も繰り返しそれを怠っていると、いつか必ず事故が起こすのだ…ということを強く意識づけることが重要で、決して「違反は勲章」とならないことを理解させる必要があります。

社会的責任

 ところで、安全運転にとって必要なのは、「積極性」と「懐疑性」ではないでしょうか。自分から情報をとりにいく─、危険を未然に察知し、回避の準備をする─といったプロセスが大切で、ただ情報を受動的にとらえていたのでは、安全は保証されません。
 昨今のコンピュータ社会の急速な発展は、人間サイドが一方的に情報のシャワーを浴びている受動性そのものではないでしょうか。モノを疑ってみるというスタンスは、安全運転に欠かすことのできないものです。なぜなら、「何かあるのではないか」といった疑いの気持ちが、「構え」という新しい心理体制につながっていくからです。
 春になれば、新人社員が社有車を運転する機会が増えるでしょう。彼らは、運転免許をもっていれば、社有車の運転などマイカーと同じだと思ってハンドルを握るわけですし、企業側も、運転免許をもっていれば大丈夫だろう…と、あまり社有車の運転には神経質にならないかもしれません。しかし、新人には、何かあれば会社のイメージダウンにつながるといった社会的責任の感覚がまだ十分にはないはずです。慣れない仕事に無理が生じてイライラ運転になったり、残業後の深夜の無理な運転からくる疲労などが原因で事故を起こしかねません。
 若者に対して安全指導を行うとき、管理者の皆さんが「ダメだ、ダメだ」と抑え込もうとすると、彼らは反発してしまい、安全教育も壁に突き当たります。そこで最近は、もう一人の自分に気づかせるための「ミラーリング」(※)という手法が注目されています。鏡の向こうにいる自分を客観的に観察することにより、自分の行動をコントロールしよう─というのが狙いで、「やっぱりこれはまずいのでないか」と自ら気づく態度が醸成されるというわけです。ぜひ、こうした手法を取り入れるなどして、「安全なんてダサイ」、「俺の腕なら大丈夫」と思わせないような安全指導をお願いしたいと思います。

※ミラーリング=指導者が提示する客観的な事例や材料をもとに、ディスカッションなどを通して、受講者が主体的に考える教育手法のこと。

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バックナンバー

第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
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視覚公害
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イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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