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最終更新日:2017年10月12日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その20 自己防衛の殻を破る
交通リスクコンサルタント 小林 實

利害が一致

 先日、陸運業の安全衛生教育に関するシンポジウムが名古屋市で開かれ、不肖私がコーディネーターを務めました。そのなかで、名古屋市に本社を置く大宝運輸(株)の鈴木たか子常務さんが行った発表は、交通事故が多発していた職場を約20年かけて地元でも優秀な事故の少ない企業に育て上げた─という大変興味のあるものでした。この大宝運輸さんは、「社員教育は明るく楽しく」との題で、2005年にNHKのテレビ番組でも取り上げられましたので、ご存じの方もおありかと思います。
 今から20年前の大宝運輸さんは、従業員による事故が頻発しており、従業員獲得もままならなかったそうです。ところが、社員が積極的に事故防止に取り組んだ結果、トラック台数当たりの事故発生率が、全国平均3%に対し、0.8%にまで下がったそうです。ではなぜ、社員はそれほどまで積極的になれたのでしょうか。
 企業サイドと従業員サイドのお互いの利害が一致する唯一のテーマが「安全を確保する」ということに、鈴木さんらが気づいたのがその始まりです。大宝運輸さんでは、「安全というのは、従業員と会社との信頼関係の原点であり、自分のため、家族のため、みんなのために無事故に徹する」という考えで、決して会社のための安全とは言っていないのだそうです。会社側が一方的に“働け、働け”とけしかけると、お互いの利害は対立します。最近の食品偽装のトラブルにしても、会社内部からの告発があったと聞いていますが、まさに利害の対立がもたらしたものでありましょう。

仲間意識

 もともと、トラックドライバーというのは「一匹狼」ともいわれ、できるだけ人との接触を避けたがり、自己防衛本能も強く、人からあれこれと指図されることを嫌うと言われています。いかつい格好をするのは、自分に近寄るなというサインを発信している証拠です。上司からあれこれ命令されたときなども、はい、はいと一見理解しているかに思われるのですが、これはよくいう「認知的不協和」(※)の解消のためにそうしているのであって、批判されたくないための自己防衛なのです。
 こういう人たちに、安全衛生教育をするのは至難の業でありましょう。何しろ人間関係の構築が大の苦手なのですから。そこで、支店対抗の安全コンテストを社員の自主性に任せる形でやったところ、競争心が仲間意識を高めて、新しい人間関係が構築されていくようになりました。さらに、仲間同士の勉強会や文化祭、運動会などのイベントを通じてお互いの気心がわかるようになり、徐々に人間関係が変わっていくことに気づきました。文化祭などで、自分の役割が人との協調で成り立つことを自ら認識します。困ったときには誰かに相談できる、これで「仲間意識」という信頼関係が出来上がる─というわけです。
 事故を起こしたドライバーが会社を辞めて責任をとろうとしたとき、仲間から思いもかけぬ励ましの言葉をもらい、辞意を翻し、安全運転に徹することにした─という事例もあったそうです。正社員は必ず任期1年の安全委員の役を務め、朝礼のメニューも日替わりにすることで新鮮さを保っています。自分の努力で顧客や会社から信頼を得る工夫があちこちに見受けられますが、これこそ「やらせよう」でなく、自分の殻を破っての「やろう」という自主性の表れでしょう。

※認知的不協和=個人のもつある認知と他の認知とのあいだに不一致・不調和が生じること。

「態度教育」の重要性

 「安全衛生教育」というのは、大別すると「知識教育」、「技能教育」、さらには「態度教育」からなります。知識教育と技能教育は能力開発に関する部門であり、態度教育というのは人間形成にかかわるものです。従来の安全教育というのは、どちらかというと、技能教育と知識教育に重点が置かれていて、なかなか態度教育まで手が回っていないのが現状です。もちろん、安全運転のための知識と技能はもっていなくてはならないのですが、人は感情の動物ですから、安全運転をしようとする心構え、マナー、他人への心配りといった態度面での裏打ちがなければ、思わぬときにかっとなったりして地が出てしまいます。これを抑え込むには、“意識”なり“態度”というものが確立されていないとなりません。たとえば、警察官に取り締まられたくないから、その場だけスピードを落とす─という行動は一過性の態度変容でしかなく、だれも見ていないときでもそれを持続させるには強い意志がなければなりません。
 今回ご紹介した大宝運輸さんでは、時間をかけ、試行錯誤しながら、今日の安全企業の地位を獲得しています。安全衛生教育には即効薬はなく、漢方薬のようにじわりじわりと効いてくるものなのです。言われたらやるという「強制型」から、言われなくとも社員が自らやるという「独立型」に進化しつつあるのが、今の大宝運輸さんなのではないでしょうか。

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第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
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第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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