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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その18 逆転の発想
交通リスクコンサルタント 小林 實

 歩車分離

 ちょっと想像してみてください。今、みなさんの街の中心の交差点から信号機とか標識を全部撤去したらどうなるか…。多分、交通は大混雑になり、ちょっとした接触事故もあちこちで発生するに違いありません。以前、ニューヨークで発生した大停電のときとか、日本でも台風に襲われたときなどは、信号機が消えていても、みな慎重な運転をしていますが、これはある意味で異常事態だからできた─ということができます。
 今までの交通安全対策というのは、できるだけ信号機を設置し、標識を随所に立て、歩行者と車の通行場所を分ける、いわゆる「歩車分離」の政策がベストだとされてきました。また、地元にどれだけ信号機をつける努力をしたか─で、代議士先生の功績が評価されていたような時代もありました。しかし、こうした規制やルールを厳しくした結果はどうでしょう。信号さえ守ればよい…などという発想が生まれ、他の交通参加者への思いやりや気配りといった、人間が本来持っていなくてはならないものが失われつつある─といえましょう。こうしたコミュニケーション不足は、特に交差点事故の原因ともなります。
 交通安全の対策には、三つのE、すなわち「技術(Engineering)」、「指導取締り(Enforcement)」、「教育(Education)」が大事であると昔からいわれてきました。昨今は、飲酒運転をはじめとする取締りが厳しくなってきていますが、こうなりますと、法律さえ守ればよい、捕まるようなやつは運が悪いのだ─といった発想が生まれてしまい、安全に対する自律的な発想が希薄になりかねません。

信号機や標識を撤去

 こうした従来の交通安全対策の発想を全く覆すような試みが、今、ヨーロッパで試験的に行われています。英語で“Shared Space”(共有空間)というこのプロジェクトは、人口がせいぜい1万から2万人程度の街の中心部から信号機や標識類をすべて撤廃することにより、歩行者が歩きやすい環境となり、ドライバーとのコミュニケーションをより人間的なものにする─という「ふれあい空間の創生」ともいえるもので、オランダの交通専門家・モンデルマン(Hans Monderman)氏が提唱した一種の社会実験です。現在、EU(欧州連合)7地区で実験中で、対象地区の一つであるドイツ・ベルリン郊外の街ボームテ(Bohmte)での撤去費用約1億8000万円の半分はEUが負担するという力の入れようです。
 標識や信号機に慣れている我々からすると、交通は渋滞し、事故も増えるのではないかという懸念があるのですが、実験を先行した都市での結果は、いずれも事故は減少し、騒音なども減り、無謀な運転をするドライバーもなく、歩行者は安心して道路を横断しているとのことです。

人間性に富んだ交通空間

 信号機や標識がなければ、ボディーランゲージとか、お互いの目での合図などが重要になり、時代が逆戻りした感さえありましょうが、そこには、ソフトな人間性に富んだ交通空間ができ上がっているといえます。標識や信号機で完全にコントロールされていると、ドライバーはこれを絶対なものと信じ込んでアクセルを踏み込む習性ができますし、また、自分に有利な情報のみを探し出そうとする、知覚心理学でいう「トンネル視」が起こるともいわれており、その結果、正しいマナーがどこかへいってしまいます。
 もちろん、交通量の比較的少ない地域ではこの種の対策は有効でしょうが、大都市ではさすがに無理でしょうし、ましてや、法律の遵守に厳しいドイツ人に対して、果たしてこのプロジェクトが成功するか、かなりの懸念ありというところです。
 しかし、こうした「逆転の発想」は、安全運転管理でも必要ではないでしょうか。とかくマンネリ化している安全運転管理に新風を吹き込むには、たとえば従来のトップダウンからボトムアップに変えてみるとか、厳しすぎると不評な取り決めを改め、個人の自由度を上げると同時に責任度も上げるといったやり方も一つの方法でしょう。

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
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運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
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プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
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思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
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トンネルのリスク
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オアフ島と交通渋滞
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第115回
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交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
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何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
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第28回
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第27回
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第25回
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第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
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逆転の発想
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