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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その17 ベトナムとヘルメット
交通リスクコンサルタント 小林 實

自転車と同じ感覚

 ベトナムの首都ハノイは、最近の経済の好景気を反映してか、街はバイクの洪水で、ことに新型のスクータタイプがその格好良さを競い合っています。週末の深夜ともなりますと、娯楽があまりないために、若いカップルがただ走り回るという感じでバイクが街を占領してしまいます。
 土地が平らなハノイでは、かつては自転車が人々の主な交通手段でした。また、ベトナムはもともと共産圏であるため、旧ソビエトが元気だったころはいろいろな形で経済支援を受け、バスやトロリーバスなどの公共輸送機関も充実していたのですが、旧ソビエトの崩壊でバスやトロリーバスの供給がストップし、公共輸送機関がほとんど壊滅状態となりました。そこで、市民の足だった自転車や公共輸送機関に取って代わり、ミニバイクが急速に普及したわけです。当時、バイクの現地生産はなく、日本や近隣諸国からの密輸も結構ありました。
 1980年代には全ベトナムでわずか400万台程度であったバイクの登録台数は、2006年には1,800万台と4倍以上にまで増加しました。こうしたバイクの急増は交通事故の増加にもつながり、事故死傷者のうち約80パーセントはバイクの運転者もしくは同乗者が占め、このバイク事故の多さはASEAN加盟10カ国のうちでワーストワンになっています。
 ミニバイクの運転者は、そのほとんどが乗り方の教習を受けておらず、無免許運転も多く、1台に4人も乗ることも日常茶飯事で、一家が1台で移動できる便利な道具にしています。何しろ、彼らがミニバイクに乗るのはまさに自転車と同じ感覚であり、人々は子どものころから親が運転するバイクの後ろに乗り慣れています。しかも、街中ではあまりスピードが出せず、気温や湿度が高く蒸し暑いため、ヘルメット不要論が常にありました。

国家的課題

 ところが今年になって、政府は汚職、災害と並んで、交通事故を国家的課題として取り上げました。バイク事故による死傷者の60パーセント以上が頭部に傷害を受けており、これを少なくするにはヘルメット着用を義務化するしかないということで、いよいよ今年12月から、指定された道路での着用が義務づけられます。
 しかし、ベトナムの人たちは、意外に淡々としているところがあります。我々はベトナム戦争の戦火をくぐり、アメリカに勝利したではないか…という自負心が常にあるせいでしょうか、交通事故で死ぬことは決してないだろう、仮に死ぬことがあっても恐ろしいことではない─という人が多いのです。ですから、すべての乗員がヘルメットをかぶれといっても、オレは大丈夫という気持ちがあります。しかも、最近開発されたベトナム国民向けの軽量のヘルメットは1個10ドルと彼らの収入に比べて割高なため、ベトコンのかぶった緑色の安物ヘルメットで十分という人もいます。
 また、同乗する子どももヘルメットをかぶらなければいけない─というのが当局の意見です。当然、子ども用のヘルメットも市場に出回るでしょう。現在、NPOなどがヘルメットキャンペーンを展開し、小学生に無料でヘルメットを供与するなど草の根運動が功を奏してか、1割程度の人がヘルメットをかぶるようになりました。
 以前、シンガポール警察の要請で二輪車事故防止のプロジェクトに参加したことがありますが、ヘルメット着用の義務化が功を奏してか、事故は顕著に減少しました。ただ問題は、人口のかなりを占めるインド系の住民は常にターバンを頭に巻き、人前では決してとらない─という風習があることです。ターバンには神のご加護があるというおかしな理由をつけ、彼らはヘルメットの着用を免除されたというエピソードもあります。ベトナムでは、こうした宗教的な問題はありませんが、自己主張の強いお国柄ゆえ、果たしてどこまでヘルメットが普及するでしょうか。

一斉に義務化

no17_img01.jpg 一方、我が国でのヘルメット着用の歴史は、今から40年ほど前、高速道路を通行する自動二輪に対して義務づけられたのが最初です。昭和53年には、すべての道路で自動二輪に限り着用が義務化され、これが原付にまで及んだのは昭和61年のことです。ただし、125cc以下のバイクに限ってはいわゆる「半キャップ型」という比較的軽く小型のヘルメットでもよく、125ccを超えるバイク用のヘルメットとでは強度の規格が異なっています。
 我が国の場合、法制化する際には、世間の動向をにらみながらある程度時間をかけて実施をしていきますが、ベトナムでは一斉にやる─というのはやはり社会主義国だからでしょうか。ああいう考えをもつ人たちに対して法律で強制して果たして普及するのだろうかというのが我々よそ者の偽らざる気持ちですが、ベトナムでヘルメット着用を推進している現地のVanさんによれば、この義務化はきっと成功し、着用率は80パーセントぐらいにまで達し、必ずやバイクの死傷事故が減ると強気です。

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第137回
企業と労働災害
第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
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ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
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第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
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安全そして安心を目指せ「運転代行業」
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第28回
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第25回
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第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
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第17回
ベトナムとヘルメット
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