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最終更新日:2017年4月24日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その16 心のサーモスタット
交通リスクコンサルタント 小林 實

成功体験が災い

 サーモスタットというのは、バイメタル(※)の湾曲や水銀の熱膨張を利用して、自動的に温度を一定に保つ調節装置のことをいいます。皆さんのご家庭にあるエアコンや風呂の温度を一定にするのにも、こうした装置が活躍しています。現代では、家電ばかりでなく、自動制御の仕組みにおいて、このサーモスタットの果たす役割はきわめて大きいといえるでしょう。
 ところで、人間は、だれしも自分なりの基準というものをもち、その物差しで判断をする動物だといえます。ちょうどそれぞれに固有のサーモスタットがあると思えばよいでしょう。たとえば交差点を黄信号で通過するかどうか、こうしたときもその人の判断基準が働きます。
 カナダのワイルド(Gerald J.S. Wilde)という心理学者が「リスクのホメオスタシス説(平衡説)」というのを唱えてかなりになりますが、彼の理論のベースには「人間にはそれぞれ個人のさまざまな活動での固有のリスク目標水準というものがあって、そのリスク水準を達成(もしくは維持)するよう行動を調整する」という考え方があります。
 人間にはどうしても過信というか、自分の技量への自己評価が高いことが多く、ことに若者にはその傾向が強いといえます。その際に、「まあ大丈夫だろう。このあいだはこのやり方で成功したのだから」と考えると、心のサーモスタットは逆の方向、つまり感度の低いほうに向きを変えてしまいます。これは、過去の成功体験によるものであり、こうした成功体験は、状況の変化のもとでは「落とし穴」になります。

※バイメタル=熱膨張率の異なる二つの金属板を張り合わせたもので、温度によって湾曲の度合いが変化する

原発事故

 企業の安全管理でも、組織全体の安全というものを考える場合、こうしたサーモスタットの位置が問題です。安全というものは、フェールセーフ(fail safe) とフィールセーフ(feel safe)との掛け算だという考え方があります。いくら、ハード的にミスの出にくいフェールセーフを確立しても、フィールセーフ、つまり個人のもつ「安全でないことへの『気づき』」(feel unsafe)がなければいけないわけですが、フィールセーフを確立するためには、心のサーモスタットの感度を上げるようにすることで可能です。それは「疑う」という心理的プロセスにつながります。
 先日発生した中越沖地震を報じるアメリカのABCテレビでは、柏崎刈羽原発の火災事故をトップに扱いました。日本の報道では、一般庶民の家屋の倒壊のほうが心情的にも重要とみたのでしょう。この彼我(ひが)の報道の差というものは、彼らが原発の火災というものに強い関心を抱いている表れでしょう。スリーマイル島の事故以来、彼らは原発事故に対してきわめて神経質になっています。
 地震直後に東京電力は、発電棟の小さな火災はあったものの、原発自体何の問題もない─というコメントを出しましたが、当日が休日だったこともあり連絡が遅れ、消火にも手間取りました。化学消防車の配備がないことも問題となり、日を追うにつれて被害が拡大していることがわかりました。
 地震は防ぎようがない、想定外の事故だ、テレビでの会見を見ていると、彼らのほうが被害者意識をもっているような感じすらあります。しかし、リスク管理の基本である「緊急時の対応」という点からすると、ホウレンソウの「報告」の部分に欠落があったのではないでしょうか。

「不確実性」も進化

 確かに、まれに起こる事態や、ほとんど故障しない機械に対しての「番人」というのは楽な仕事ではありません。しかし、飛行場には万が一の事態に対応できるよう化学消防車、放水銃の設置が義務づけられているのに対し、「絶対安全」を標榜する原発の安全管理に何らかの手抜きがあったといわれても仕方ないでしょう(幸い今回の事故を契機に、各原発には化学消防車の配備が決まりました)。
 科学技術が進歩し、われわれの毎日の生活が楽になってきていることは事実です。しかし、それに伴う「不確実性」も進化しているのです。今回のような天災による事故は「想定外」でやむを得ないことと捉えずに、被害の拡大を防ぐため、企業トップと現場の方々の「心のサーモスタット」を引き上げる姿勢が望まれます。
 これは一般企業での安全管理にも同じことがいえますが、人間というものは、効率性や利益の追求など目の前の目標にとらわれ、遠くにあって目につきにくい肝心な安全性というものをいつの間にか二次的におく特性があることを再確認したいものです。

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第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエンスな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
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天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
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うどん文化と運転
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100円ライターのリスク
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カルガモ走行
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加賀屋さんにみるCSR
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第32回
キャリーバッグと事故
第31回
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第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
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ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
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転倒リスク

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