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東京・千代田区にあるイタリア文化会館が昨05年に改築され、そのかなり思い切ったデザインが話題になりました。ことに外壁の朱色があたりの景観にそぐわない―と、地元住民が塗り替えを求める運動を起こしましたが、大使館側は、コンクリートとガラスによるイタリア風のデザインは日本の城壁や石垣、格子や障子をイメージしたもので、周囲の景観にもマッチしている―と反論し、今のところ色の塗り替えは行われていません。最近は若干見慣れたものの、それでもけっこうユニークな色とその大きさです。
ところで、近年、「騒音」に対して「騒色」というキーワードが、いわゆる「視覚公害」として注目を集めています。2004年には景観法が全国施行され、これに対する人々の関心も高くなりつつあります。しかし、交通ともかかわりの深い騒音や排ガスといった人体に直接悪影響を与える「公害」については、かねてから人々の関心も高く、法令でも厳しく規制されているのに対して、「色」の問題はこれまであまり重要視されてこなかったことは事実です。
外国の諸都市を見ると、建物などは街並みのもつイメージになじむこと―という一つのルールがあり、たとえばパリのシャンゼリゼ通りにあるJALの赤い鶴のマークが街並みの雰囲気を壊しているということで、かつて金色に塗り替えられたりしたことがあります。ミラノの有名なアーケードであるガレリアのマクドナルドの赤地に黄色の看板も、黒地に金色に塗り替えられています。
この夏に訪れたローマでは、古いコンクリートの建物外部は昔のたたずまいを残し、傷んだところは修復して、できるだけ原型を残すよう工夫がなされています。また、内部は時代に合わせて改修し、現代風のモダンな家具とマッチさせるというきめ細かい配慮がなされています。ローマのスペイン広場に近いコンドッティ通りも、中世のころの古い建物の外観をそのままに1、2階をモダンにした世界有数のブティック街に仕立て上げられています。これも都市景観との調和といえるでしょう。
最近は、我が国でも、各自治体が「景観条例」を制定しているようですが、それが十分に機能しているとは言い難いようです。行政指導にあたれば、補助金を出さなくてはならず、財源上の問題が生じるからでしょう。
こうしたなか、横浜の関内地区では、市庁舎や横浜スタジアムの外壁がブラウンに統一され、いわゆる居留地の伝統色を基調にしています。また、馬車道の商店街では茶、黒、白の3色が有効に使われていますが、これは市民と企業、さらには役所との精力的な話し合いが有効に機能した結果だといえましょう。
街なかの落書きも景観を損なう一つの要因です。これもイタリア文化なのかと驚きましたが、ミラノのような大都市の中心街の落書きは、横浜・桜木町のガード下のそれとは比べられないほど徹底されています。建物はいうに及ばず、公共輸送機関の地下鉄や路面電車、鉄道車両も徹底的にターゲットにされています。
以前ここでも紹介しましたが、ニューヨーク市内で落書きなどの軽犯罪を徹底的に排除したところ、殺人などの凶悪犯罪が大幅に減った―という、いわゆる「壊れた窓ガラス(Broken Windows)理論」はこのイタリアには当てはまらないのか、それともこれがイタリア人の鷹揚さなのでしょうか、少なくとも今のところ手つかずの状態です。彼らの落書きの徹底振りと、彼らのもつ美的センスとのギャップをどう考えればよいのでしょう。
昔の落書きというのは黒がベースであったものが、近年の建設ブームと人工塗料の普及により、街にはペンキやラッカーのけばけばしい騒色があふれ、これに伴って落書きも多色化しています。かつて、民俗学者の柳田國男氏は「色の歴史は、不思議なように文化の時代相を反映している」と言われましたが、騒色や落書きの氾濫している今の都市を氏はどう見るでしょうか。