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最終更新日:2017年7月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その05 ボルボが似合った男
交通リスクコンサルタント 小林 實

 運命的な出会い

  かつて「ナイスガイ」といわれた俳優の石原裕次郎には、ドアが上に跳ねるガルウイングのベンツ300SLが似合っていました。残念ながら先日他界された盟友の千葉大学名誉教授の野口薫さんには、黄緑色のボルボが似合っていました。筆者よりわずか数カ月若いだけなのに、「あんたは昭和のシングルだけど、僕は二ケタだぞ」と威張っていたことを今でも思い出します。
 彼は、知覚心理学や交通心理学を専門とし、実験心理学、なかでもゲシュタルト(形態)心理学に生涯興味をもっておられました。と同時に、世間でいう単なる「ボルボ好き」といった生半可のものではなく、ボルボとともに人生をすごしたといったほうが正しいほど、ボルボに入れ込んでおられました。
 ちょうど、筆者がアメリカに留学していた1950年代に、彼はすでにカナダの大学で知覚の研究に励んでいました。このときボルボとの運命的な出会いがあったのです。ハイウェイを走行中に車がスリップして横転して停止。周囲で車を止めて見ていた人たちは、当然運転者は大けがか、命がないと思ったそうです。ところが、この車からかすり傷一つなく出てきたのが野口さんでした。1950年代といえば、まだ車の安全性は高くなかったころでしたから、みんながそう思ったのも無理ありません。
 以来、彼の愛車はすべてボルボであり、しかも、いつも彼が選ぶボルボは日本にはあまり入ってこない、たとえば「242」といった2ドアタイプであったりして、ことに黄緑色のボディがご自慢でした。

安全性を重視

no05_img01.jpg ところで、フォードやGMなどのアメリカのメーカーが安全よりも売り上げと走っていた時代に、ボルボはシートベルトの研究などを先行し、その安全性は当時から定評がありました。アメリカの大学に基金を設立し、衝突実験などを率先していたのもボルボでした。
 このボルボという名前ですが、これはラテン語のvolvere=「回る」という動詞からきています。この一人称単数形「私が回す」がvolvoになります。英語でピストルのことをrevolver(リボルバー)ともいいますが、これは回転式の弾倉がついた銃のことで「回る」という意味があります。ボルボ社の前身がボールベアリングの製造会社であったことからも、こうしたネーミングはうなずけます。
 右の写真は、ボルボの第一号車「ヤコブ」のフロントグリルですが、「アイアン・マーク」と呼ばれる「円と右上を向いた矢」がロゴとして使われています。これは、ローマ時代の戦いの神マーズと、男性の力強さを表したもので、古代には鉄を示す化学記号でした。このアイアン・マークは最近リニューアルされましたが、斜めの線は現在でもボルボ車のデザインに残されています。

trafficの意外な語意

 そんなボルボ車をいつも転がしていた野口さんは、応用面より基礎実験心理学にこだわっておられました。その理由として考えられるのは、大学や大学院では、応用でなく基礎をしっかり─という信念もあったからでしょうが、たとえば、「交通心理学(Traffic Psychology)」という呼び方そのものに抵抗があったからではないかと私はみています。
 それは、私の友人でもあるオランダの心理学者・ミション氏が野口さんにこう言ったことによります。
 「オランダで私は交通心理学者であると言うと、ああ、あなたはセックスを研究しているのか? とじろじろ見つめられるので、そうでないことを説明しなければならなかった」(国際交通安全学会「よりよきモビリティ社会をめざして」より)
 英語で交通をtrafficと言いますが、これはギリシャ語のtrans(越えて)とficare(続く)の合成語で「往来」を意味し、これがイタリア語ではtrafficoになります。麻薬などの密売人を英語でtrafficker、人身売買をhuman trafficと言いますが、つまりは「人の間を行き来する」という意味であり、これが転じて、trafficという言葉には「人との交わり=セックス」という語意もあるのでしょう。ですから、「交通心理学」を表す英語は、厳密にはTraffic Psychologyでなく、Psychology on (Road) Transportation とすべきであったかもしれません。

 野口さんは、このボルボのロゴが意味するように、今ごろ天国で思う存分、黄緑色の愛車を転がしておられることでしょう。

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第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
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指差し称呼
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コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
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ハイブリッド
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第81回
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高年齢者の再雇用問題と企業リスク
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第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
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第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
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