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最終更新日:2017年9月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その46 お客様目線
交通リスクコンサルタント 小林 實

問題を発見し解決する

 最近、いろいろな場所で「目線」という単語が目につきます。辞書によりますと、この目線とは「視線」と同じ意味とありますが、もう少し意味を拡大すると、「そのものの立場から見て」ということになりましょう。また、「特定の状況にある人の条件を引き受けて、環境をチェックすることと、問題発見と解決を図る手法」ともありますが、平たく言えば、相手の立場に立って物を考える─ということになりましょうか。
 では、「皇室の目線」というのはどうでしょう。天皇・皇后両陛下が地震などの被災地を視察されるような光景をテレビなどで目にすることがありますが、その際に、両陛下がひざまずかれて被災者と同じ目線をとられることは、物理的に目線を合わすということだけでなく、被害者と同じ気持ちであることを示す心理的な意味合いがあるのです。これは、カウンセリングでいう“共感性を得る”ことと共通しています。
 また、「子どもの目線に立って考えよう」とは、幼児の安全教育でよく出てくる言葉ですが、これは、目を子どもの高さに調節してその見え方を理解するという、ある意味で物理的な条件を指しています。たとえば、大人の尺度で作られた標識や信号のたぐいは、子どもからすれば位置が高すぎて見えにくいことは明らかです。ただ、それよりも、“とび出しをしやすい”といった幼児の心理を理解することのほうが、ここでいう「目線」の本当の意味でしょう。

目に見えないリスク

 さて、ニュースなどでご存じの通り、エコカーのトップランナーであるトヨタの「プリウス」に問題が発生しました。ブレーキのトラブルです。目下アメリカでは大きな騒ぎとなり、GMあたりは「失地回復はこのときとばかり」と、ことさら大げさに扱っている感じすらあります。トヨタの社長は、急きょ記者会見で「よりお客様目線に…」と陳謝しましたが、この発言を人々は意外と冷たい目で見ているようです。本当にお客様目線なのか、という疑念があるからでしょう。トヨタは本当に顧客の価値観というものを理解し共有しているのか─、そこからは信頼感でなく、逆の不信感が感じられるからです。ことにアメリカでは、プリウスの問題以前に、フロアマットの問題での対応も後手に回りましたので、なおさら不信感は強いことでしょう。
 プリウスの問題にしても、記者会見の席上でトヨタの社長は「ブレーキが抜ける」という表現を、いかにも技術屋として当たり前のように使っていましたが、車を若干知っている筆者にとっては、この用語は「ブレーキペタルが床まで抜ける状態」をいうのであり、きわめて重いものを感じます。童謡の「抜けたら、どんどこしょ」ではありませんが、一般ユーザーの目線とはほど遠いスタンスです。また、「個人の感覚の問題」と評しているのも、決して「お客様目線」という感じではありません。低速時にブレーキの効きが遅れる、抜けるという現象は、専門家目線では感覚的なものにすぎないのかもしれませんが、ユーザーにしてみれば、あわててパニックという事態を招きかねません。
 事態がこのように悪化するもっと前に、たとえば日本の全国紙の全面を使い、プリウスのブレーキにはこういう特徴があり、ブレーキの遅れについては目下改良中である─といったような広報を行うとか、アメリカにおいても、たとえばニューヨークタイムズの全面広報で、フロアマットやブレーキについての情報開示と謝罪を行うことにより、ある程度の不信感の除去とリスクの極小化はできたはずです。トヨタの社長は、ある意味でリスク管理者でもあるわけです。世界のナンバーワンになったことにより、実は目に見えないリスクも拡大していたわけですが、たとえば、現地で調達した部品の品質管理の問題や、訴訟天国アメリカの実情などを本当に意識していたでしょうか。

価値観を共有する

 企業の安全管理の場においても、「上から目線」とか「下から目線」といった具合に、従業員に対する管理者の目線というものがよく話題になります。朝礼などで、部下を鼓舞する気持ちから、よく高圧的な態度をとる人もいます。聞いている人からすれば、「何もこちらの気持ちがわかっていない」と冷ややかに聞き流すことも多いでしょう。管理者は、社長が「安全第一を徹底せよ」と言うと、これぞ神の声とばかり「皆も安全を心がけよ」とはっぱをかけます。こうした上意下達(じょういかたつ)では、“安全”という言葉が上から下まで独り歩きして、具体的な対策を目指す行動が生まれてこないのです。
 こうした場合、管理者は現場とひざを突き合わせ、たとえば社内の整頓であるとか、一時停止の完全履行というような具体的な目標を、まさに現場の目線で構築しそれを行動に移す必要がありましょう。「同じ目線」というのは同じ価値観を共有することであり、それによって“共感”というものが生まれ、より高度な行動を目指すことができる─という構図になるのです。

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バックナンバー

第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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