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皆さん、車を運転していると、青の矢印信号を目にすることがあるのではないでしょうか。最近、日本各地でよく見かける信号の一つですが、もともとは、路面電車専用に設置された黄色の矢印信号に由来します。この青矢印信号は、交差点の三色信号の下あるいは横に取りつけられており、たとえば右向きの青矢印が点灯したときには右折することができます。
赤信号なのになぜ曲がれるのか? と思われる方もいるかもしれませんが、道路交通法の施行令第二条を見ると、「青色の灯火の矢印」の意味は、「黄色の灯火または赤色の灯火の信号にかかわらず、矢印の方向に進行することができること」とされていますし、警察庁が監修している「知っておきたい交通ルール」という小冊子でも、青の矢印信号について、「車は黄色の灯火や赤色の灯火の信号であっても矢印の方向に進むことができます」と解説しています。したがって、赤信号が出ていても、青の矢印の方向には進行可能となるわけです。
また、右折の青矢印信号機の設置場所については、「右折車両の需要が多く、青信号表示でさばくことができない場合や、右折車両と対向直進車両等の事故を防止するために直進・左折と分けて右折車両をさばく必要が高い場合に設置すること」とあります(平成20年3月、警察庁通達・要約)。つまり、青矢印信号の設置は、交通の円滑と安全とをうたった対策であるはずなのですが、一般の道路利用者には、右折の青矢印信号の意味ばかり知らされており、下の写真のような、赤信号のほかに直進や左折の青矢印信号が点灯しているようなものについては、その意味が十分に広報されないまま使われているのが実情です。
ここまで読まれて、あれっ? と思われた方もおられるのではないでしょうか。皆さんもよくご存じの青信号の意味は「直進、左折、または右折することができる」であり、他の方向からの車が交錯する危険があります。つまり、“保護されていない信号”といえましょう。これに対し、青矢印信号は、対向車など他の方向から車はこない─という前提がありますので、ある意味で“保護された信号”といえます。こうした運用については意外と知らない人も多く、たとえば、青矢印信号に慣れていない地方のドライバーが都心にこられたとき、赤信号だと思って減速したところ、実は青矢印信号が出ていて、右折しようとした後続車に追突された…とか、青矢印信号が見えにくい高齢ドライバーが交通を混乱させる…といった危険を招くおそれもあるのです。
青矢印信号に関しては、一般ドライバーの認識不足もけっこう目立ちます。赤信号のほかに直進および左折の青矢印信号が点灯している場合、右折しようとするドライバーは停止線の手前で完全に停止しなければならず、交差点内に進行して右折待機することは違法(信号無視)です。また、右折の青矢印信号が出ることを予測して見込み発進をしたり、右折の青矢印信号でUターンすることも取締りの対象となります。
たくき よしみつ(鐸木能光)氏の書かれた「日本のルールは間違いだらけ」(講談社現代新書)でも、この青矢印信号の問題が取り上げられています。氏は、青矢印信号に従って右折中、交差道路からきた車と危うく衝突しそうになったことがあるそうですが、その原因は、右折の青矢印信号が消えたあと、自車側が黄色信号にもならず、さらには自車側・交差道路側とも赤信号(全赤信号)になる時間すらなく、いきなり交差道路側が青信号になるという現示方法にある─と指摘しておられます。実際、神奈川県と東京都の一部には、こうした黄色信号や全赤信号を省いて運用している信号機があるのです。
警察庁の運用指針には「黄色信号を表示した後、全赤信号を表示すること」とありますが、これが励行されていないことになります。右折の青矢印信号が出ているあいだはこちらに優先権があるのだから…と、右折を敢行する車も後を絶ちません。その際、仮に全赤信号の表示がなく、交差道路側が直ちに青信号になるような場合、右折車に対して交差車両が突進する格好となります。
また、こういった表示に慣れていない免許取り立てのドライバーは戸惑うことでしょう。昨年6月に横浜の都築区で、免許取り立ての大学生の運転する車が交差点で衝突事故を起こし、その反動で、歩道におられた3人の看護士さんを死亡させたという痛ましい事故が発生しました。その際、このドライバーは「信号の意味がわからなかった」と供述していますが、三色信号の下に出た青矢印信号を誤認した可能性もあります。
行政は、こうした信号の多様な使い方をユーザーにもっと十分に周知すべきですし、初心者が手にするパンフレットなどでも、信号の意味を誤解されないよう必ず触れてほしいと思います。また、青矢印信号の運用に関しては、表示の仕方をきちんと統一し、ドライバーに周知徹底してほしいものです。
企業等の安全運転管理者の皆さんも、こうした信号をはじめとする各種の交通施設に気を配り、ドライバーの誤解を防ぐことが必要です。そのためには、管理者自身が絶えず地域を巡回し、交通環境の違いを読みとり、こうした情報をドライバーと共有することが必要ではないでしょうか。