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最終更新日:2017年4月24日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その40 「まぁ、いっか」の発想
交通リスクコンサルタント 小林 實

シートベルトがなかったバス

 全国高校野球の地方代表が決まったかげに、大変悲しい出来事がありました。大分県の地方大会開会式に参加する柳ヶ浦高校の選手たちが乗ったバス2台のうちの1台が、宇佐別府道路から大分自動車道に合流する日出(ひじ)ジャンクション付近で側壁に激突したあと横転し、選手1人が死亡、42人が重軽傷を負うという大きな事故を起こしたのです。この場所は高架になっており、当日は濃い霧で視界も悪く小雨模様だったようです。バスを運転していたのは野球部副部長の26歳の教師で、約1年前に第一種の大型免許を取得し、普段は野球部の選手たちを練習場まで運んでいましたが、運転を専業とする人ではありませんでした。
 死亡した生徒は、横転したバスから車外に投げ出され、強い衝撃を受けたようです。シートベルトをしていれば…とも思いますが、そもそもこのバスには、運転席以外にシートベルトはなかったという衝撃的な事実も発覚しました。バスは91年に新車で購入されましたが、本来なら、87年9月以降に製造された車(路線バスなどを除く)には、道路運送車両の保安基準により、全席にシートベルトが設置されているはずです。このバスからシートベルトがなくなった経緯は今のところ不明で、学校側も、シートベルトの不備について整備業者から指摘を受けたことはなかったと言っていますが…。仮にシートベルトが設置されていたとしても、高校生のことですから全員が着用したとは考えにくいですが、もしも何人かがシートベルトをしていれば、被害はここまで大きくならなかった可能性はあります。

後の祭り

 ご存じのように、旅客運送の目的で車を運転する場合は、いわゆるプロドライバーのための「第二種免許」が必要になります。客の生命を預かり公共の安全を担う意味で、第一種免許に比べ、免許取得はかなり厳しくなっています。逆にいうと、旅客運送を伴わない運転であれば「第一種免許」でよいというわけです。
 上の傍線部分をもう一度見てください。選手は確かに「客」ではないかもしれませんが、運転手は生徒一人ひとりの大切な命をその家族から負託されているわけですから、たとえビジネスではないにせよ、ある意味で「旅客」に近い存在といえるのではないでしょうか。普段は比較的近距離の練習場までの送迎という限定的な運転でしたから、「まぁ、大丈夫だろう」という心情がわいてもおかしくありません。「まぁ、いっか」という気軽な発想が、学校側にも、また当事者である教師にもあったのかもしれません。しかし、高速道路を利用するという事態になれば、それなりの運転技術も問われてきます。事故を起こした運転手は、もう1台のバスに遅れをとったため気持ちが焦っていたそうです。濃い霧の、しかも雨のなかという悪条件が重なり、さらには制限速度40キロを超えて走行していたことから、「ハイドロプレーニング現象」が発生したとしてもおかしくないでしょう。
 学校側は、「日々の練習で過労気味の副部長に運転させるのは酷だった」とも言っていますが、今さら反省したところで、亡くなった生徒の命が戻ってくるわけではありません。管理責任は野球部にあったとも言われていますが、少なくとも生徒の命を預かっている「管理者」という立場からすれば、学校の管理体制には問題があったといえるでしょう。事故のあと、この学校では、運転する教師を対象にした安全講習を行ったそうですが、これも「後の祭り」といわれても仕方がありません。もし今回の事故がなければ、この学校では、何事もないように現状のまま運転が続けられていたはずです。
 本来は専門の運転者を雇うことが好ましいのですが、今の学校経営では、その経費の捻出が難しいともいわれています。しかし、こうした普段と違うイベントの際だけでも、それなりの配慮があってしかるべきではないでしょうか。そもそも、野球部だけが自前のバスをもつというのも、ある意味で特権的な差別です。野球部の子どもたちは、公共輸送機関にも乗らず自分たちだけの世界で育つことにもなるわけで、ある意味、人の目を気にしない社会性の欠如につながるような気がしてなりません。

白ナンバー車の安全管理を強化

 ところで、いわゆる「白ナンバー」のバスの運転は、自家用車の運転と大差がないと思われている人も多いのではないでしょうか。これは、企業が社員を送迎したり、朝早く工事現場までマイクロバスで人を送迎する場合でも同じことです。例を挙げればきりがありませんが、実は、こうしたケースでの事故が後を絶ちません。企業においても、白ナンバーの社有車に対して、特に安全管理を強化する必要があります。大きな事故はその企業なり組織なりの将来を左右しかねないことを、今回の高校のバス事故から学ばねばならないでしょう。

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第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエンスな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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