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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その38 ランドマーク
交通リスクコンサルタント 小林 實

歴史的な重みを感じる街

no38_img01.jpg 都市のイメージとして重要なものには、「わかりやすさ」「見えやすさ」といったものがあり、それを構成する要素の一つに、目印となるいわゆる「ランドマーク(landmark)」があります。さしずめ、東京でいえば東京タワーがそれにあたり、大阪では通天閣、札幌ではテレビ塔になります。これがヨーロッパの都市だと、多くの場合キリスト教と密接な関係があることから、空に向かってそびえ立つ教会の尖塔がランドマークになることが多いのです。
 オーストリアの首都ウィーンは、600年にもわたってハプスブルク王家が繁栄した、まさに歴史的な重みを感じる街といえます。中心にはシュテファン大聖堂が高くそびえており、まさにランドマーク的な存在といえるでしょう。いわゆる旧市街(現在の第一区)は、かつてトルコ軍による侵攻に対抗するために城壁で囲まれていました。このようないわゆる「城塞都市」は、ウィーンをはじめ、ヨーロッパのあちこちに見受けられますが、大都市として発展するためには、この城壁が交通渋滞を招くなど、都市としての機能を停滞させることが十分予想されました。そこでウィーンでは、外敵の脅威がなくなった1865年、当時の皇帝の命によってこの城壁が撤去され、幅70メートルの環状道路(リング道路)が出来上がったわけです。
 このリング道路は、諸外国に権威を見せるための軍事パレードや、のちには労働者によるデモ行進の場になりました。1938年、オーストリアをナチスドイツに併合したヒトラーがここで凱旋パレードを行ったことも、歴史的な一幕でした。

「認知地図」が描きにくい…

 ところで、最近4日ほどこのウィーンの旧市街に滞在してみて、どうも自分の居場所がどこなのか不安になる…という妙な感覚がありました。これはどうしてかと考えますと、「城塞都市」であることが理由の一つではないかと感じました。
 歴史的に見て、オーストリア、ことにウィーンは、絶えず外敵の侵略に頭を悩ませていました。先ほど触れたように、トルコ軍には3度にわたる攻撃を受け、そのうち1回は、数ヶ月もの籠城を余儀なくされた苦い経験があります。ウィーンの街は、こうした何世紀にもわたる外国からの侵略に耐えるべく造られており、いちおう放射状の構造にはなっています。しかし、パリのようにそれが一点に集中するような威圧感はなく、郊外からの8本の放射道路はリング道路で途切れています。このため、街区には直線部分が少なく、小さな広場があると思うと道が放射状に走り、それをめぐるように小路が続いています。敵から身を隠すには都合がよかったのでしょうが、まるで迷路のようです。
 二つ目の理由として思ったのは、大きなシュテファン大聖堂などのランドマークの裏側にも道路がめぐらされていることです。寺院などは大方が相似形であり、どこから見ても同じような形なので、その見え方によって方角を判定するのが難しいのです。
 要するに、前に当連載で書いた「認知地図」というものが、ここウィーンの旧市街では描きにくいのです。「地図」といった物理的な配置を示したデジタル情報と、頭のなかにあるアナログ情報とのあいだに乖離を起こしやすい構造だといえるでしょう。道がわかりにくいのであれば、カーナビのようなGPSを使えばよいとも考えられますが、あれでは、与えられた情報に従うだけのいわば受け身の情報摂取であり、自分から探すという能動的な姿勢ではないため、道を覚えにくいのです。このことは、カーナビ愛好者が意外に道を覚えていない…という事実を反映しているといえましょう。

すっきりしない交通環境

 哲学者として著名な和辻哲郎氏は、西欧の街というのは外側を城壁が取り巻き、そのなかの市民が共同体として街を守るという構造であるのに対し、わが国では自分の家の塀が城壁であり、その外は無関係かもしくは無神経な空間である─と評しておられます。したがって、わが国では、街並みの保存であるとか、相互の協力で…といった発想がわきにくいともいえるでしょう。
 確かに、一つの建物全体が街の一つのブロックを形成していると、建築でいうところの「第一次輪郭線」が明確です。ところが、わが国の場合、建物の外側にさらに「第二次輪郭線」として電柱や広告物が存在します。このため、街並みそのものがぼやけて、ある種の無秩序を形成します。いわゆる「すっきりさ」というものが見られないのです。京都を観光に訪れた外国人が言っていた「確かに個々の建物は素晴らしいが、電柱や電線がこの美しさを邪魔している」とのコメントを思い出します。
 わが国の交通環境が何となくすっきりしないのは、こうした「第二次輪郭線」が邪魔をしているからであり、それによって、本来見てほしい信号や標識が見えにくくなっているのではないでしょうか。

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第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
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社会のスピード
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
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稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
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外国人観光客と冬道事故
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アビイ・ロードの横断歩道
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安全そして安心を目指せ「運転代行業」
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
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ある学者の死を悼む
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お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
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KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
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エスキモーと白
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第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
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第04回
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第01回
転倒リスク

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